第8章 巨兵の大戦
デミ・ファルシ=アダムがリーナとなってエストハイム邸の新たな住人となって数日。
「ルミナー、マスター・ホープが対策本部へお呼びですよー」
「はーい、ちょっと待ってー」
エストハイム邸のリビングで宿題と格闘していたルミナは、顔を上げてそう応えた。
「それは?」
「夏休みの宿題。ほら、エクスやレイン姉もやってるでしょ」
「あれやこれやで忙しくて、進められなかったからな」
「そういうこったな。キリいいとこまでやったら行くからよ」
ひらひらと手を振るレイン。
「わかりました、では少々お待ちしておきますね」
「手ぇ貸してくれてもいいんだぜ?」
「マスター・ホープから禁止されてますので」
「チッ、伯父さんめ…」
「レイン姉、ズルはダメだぞ」
エクスが呆れ顔でぼやいた。
対策本部裏手、訓練場にて。
「くっ!?」
「そこだっ!」
剣を弾き飛ばされたノエルの首筋に、エクレールの刃が付きつけられる。
「降参。完全に勘、取り戻したんじゃないの?」
「ああ。悪いな、付き合わせて」
「お互い様。俺もこの感覚は久々だからな」
ノエルの手を引いて助け起こすエクレール。そこへ、飲み物を持ったセラが歩み寄る。
「二人ともお疲れ様。でも、無理はしないでね」
「ありがとう、セラ」
受け取ったドリンクを二人が傾けているところに、ホープがやってくる。
「皆さん、ルミナたちも揃ったので会議の時間ですよ」
「わかった、すぐに行く」
「じゃあ、母さんたちもギアの力に頼らない魔法使い になった、ってこと?」
「なった、というより戻った、って感覚だけどな、俺は」
ノエルが腕を組む。
「これに関してはリーナ譲から意見があるんだったな?」
「はい」
リーナが機械に手をかざすと、壁に映像が投影される。
「魔法使い というのは、混沌 に強く影響を受け、かつその力を制御した人間です。ルシの魔法とは根本的に力の源が異なります」
「そうなのか?」
「はい。ルシの魔力は、ファルシーーー特にグランファルシ=リンゼとグランファルシ=パルスの二柱ですが―――の権能に由来するものですから。体系が近いのは、魔法使い の想像する魔法がルシの魔法と同じだったから、ですね」
ふむふむ、とホープが頷く。
「今回魔法使い として覚醒が確認されたのは、エクレールさん、マスター・ホープ、スノウさん、ノエルさんの4名です。皆さん共通して、私がいたシ界への突入メンバーでしたね?」
4人が頷くのを確認したリーナに、レインズが手を上げる。
「どうされましたか?」
「我々より先に現地の部隊が突入していた。そちらに覚醒者の報告はなかったはずだが」
「現時点では、ですね。今後覚醒する可能性はあります」
頷いたリーナは続ける。
「皆さんご存じの通り、混沌 の力は、人間の心として誰もが大なり小なり持つものです。しかし、混沌 の影響を強く受けた場合…それを己の糧とできるか、はたまた毒となるかは、本人の適性…精神力や影響を受けた時点での体調など、様々な要因に左右されるんです。歴史の矛盾 に呑まれた人にも、そのまま消える人や時代を超えて生きている人と違いが出るのもそのためですね」
「確かに、現地の突入した人員には体調不良者が続出したと聞いたな…リグディ」
「へいへい。ロッシュの奴には言っておきますよ」
頭が痛くなってきたと言わんばかりのリグディの態度に、リーナは苦笑した。
「すみません、長話になるのは父譲りでして」
「僕のせいにしないでください」
言いながらリーナが小さな装置を取り出した。
「それは?」
「先ほど言った混沌 への適性―――その目安を測定する装置ですね。尤も、これは突入用の環境防御ギアの副産物なんですが」
「観測…したんですか?」
「はい、皆さんの数値が少し気になりまして」
結果なんですが、と映像に写すリーナ。
「ルミナとエクレールさん、ユールさんが測定限界の最大値、レインさんと私も同値なのは、恐らくルミナの“奇跡”の副作用でしょうね。次いで、タイムトラベラーだったノエルさん、セラさん、スノウさんがほぼ同値で、少し下がってホープさんやサッズさん…ってところですね。騎兵隊の皆さんも測ってみましたが、やはり魔法使い の兆しを見せた方々や、あちらの記憶の強い方は測定値が高くなる傾向にありました」
「ほう…私はどうだったのかね?」
「あ、レインズさんは下から数えた方が早い値でしたよ。記憶が強い側の人の中では、はっきり言って外れ値です」
「………そうか」
ちょっと落ち込んだようなレインズの声音に、ルミナが思わずくすっと笑った。
「そういえば…」
「どうしましたか、ライトさん」
「いや、最後の13日間の間に、混沌 に溶けた死者の魂がレインズの姿を借りて現れたことがあったんだ」
「なるほど?一度溶けてしまったことがあるから、でしょうか…修正が必要かもしれませんね」
「それで言うなら彼ら全員、AF0年代に亡くなっているはずですから…」
「…やっぱりレインズさんがやたら低いだけなのでしょうか?」
再び学術論議に入る二人。
二人の議論は、呆れかえったエクレールがデコピンを見舞うまで続いた。
「ルミナー、マスター・ホープが対策本部へお呼びですよー」
「はーい、ちょっと待ってー」
エストハイム邸のリビングで宿題と格闘していたルミナは、顔を上げてそう応えた。
「それは?」
「夏休みの宿題。ほら、エクスやレイン姉もやってるでしょ」
「あれやこれやで忙しくて、進められなかったからな」
「そういうこったな。キリいいとこまでやったら行くからよ」
ひらひらと手を振るレイン。
「わかりました、では少々お待ちしておきますね」
「手ぇ貸してくれてもいいんだぜ?」
「マスター・ホープから禁止されてますので」
「チッ、伯父さんめ…」
「レイン姉、ズルはダメだぞ」
エクスが呆れ顔でぼやいた。
対策本部裏手、訓練場にて。
「くっ!?」
「そこだっ!」
剣を弾き飛ばされたノエルの首筋に、エクレールの刃が付きつけられる。
「降参。完全に勘、取り戻したんじゃないの?」
「ああ。悪いな、付き合わせて」
「お互い様。俺もこの感覚は久々だからな」
ノエルの手を引いて助け起こすエクレール。そこへ、飲み物を持ったセラが歩み寄る。
「二人ともお疲れ様。でも、無理はしないでね」
「ありがとう、セラ」
受け取ったドリンクを二人が傾けているところに、ホープがやってくる。
「皆さん、ルミナたちも揃ったので会議の時間ですよ」
「わかった、すぐに行く」
「じゃあ、母さんたちもギアの力に頼らない
「なった、というより戻った、って感覚だけどな、俺は」
ノエルが腕を組む。
「これに関してはリーナ譲から意見があるんだったな?」
「はい」
リーナが機械に手をかざすと、壁に映像が投影される。
「
「そうなのか?」
「はい。ルシの魔力は、ファルシーーー特にグランファルシ=リンゼとグランファルシ=パルスの二柱ですが―――の権能に由来するものですから。体系が近いのは、
ふむふむ、とホープが頷く。
「今回
4人が頷くのを確認したリーナに、レインズが手を上げる。
「どうされましたか?」
「我々より先に現地の部隊が突入していた。そちらに覚醒者の報告はなかったはずだが」
「現時点では、ですね。今後覚醒する可能性はあります」
頷いたリーナは続ける。
「皆さんご存じの通り、
「確かに、現地の突入した人員には体調不良者が続出したと聞いたな…リグディ」
「へいへい。ロッシュの奴には言っておきますよ」
頭が痛くなってきたと言わんばかりのリグディの態度に、リーナは苦笑した。
「すみません、長話になるのは父譲りでして」
「僕のせいにしないでください」
言いながらリーナが小さな装置を取り出した。
「それは?」
「先ほど言った
「観測…したんですか?」
「はい、皆さんの数値が少し気になりまして」
結果なんですが、と映像に写すリーナ。
「ルミナとエクレールさん、ユールさんが測定限界の最大値、レインさんと私も同値なのは、恐らくルミナの“奇跡”の副作用でしょうね。次いで、タイムトラベラーだったノエルさん、セラさん、スノウさんがほぼ同値で、少し下がってホープさんやサッズさん…ってところですね。騎兵隊の皆さんも測ってみましたが、やはり
「ほう…私はどうだったのかね?」
「あ、レインズさんは下から数えた方が早い値でしたよ。記憶が強い側の人の中では、はっきり言って外れ値です」
「………そうか」
ちょっと落ち込んだようなレインズの声音に、ルミナが思わずくすっと笑った。
「そういえば…」
「どうしましたか、ライトさん」
「いや、最後の13日間の間に、
「なるほど?一度溶けてしまったことがあるから、でしょうか…修正が必要かもしれませんね」
「それで言うなら彼ら全員、AF0年代に亡くなっているはずですから…」
「…やっぱりレインズさんがやたら低いだけなのでしょうか?」
再び学術論議に入る二人。
二人の議論は、呆れかえったエクレールがデコピンを見舞うまで続いた。