第5章 激震の世界

「と、それは一旦置いておくとしてですね。現実的な問題が発生しているんです」
「置いておいていいの?ホープ君」
「置いておくしかないでしょう。奴が不可視世界にいるとするなら、こちらから仕掛けることもできませんし、そもそも戦力が足りません」
僕もライトさんも、あの頃と全く同じではありませんし。そう付け加えてホープは肩をすくめた。
「それで、どうするんだ?」
「昨夜、アカデミーから打診がありました。今回の事件、どうやら巻き込まれたのは我々だけではないようでして」
「どういうこと?」
「凡そ、ルミナたちが帰還したのと同時刻に、3つのシ界―――のような隔離された空間が現れたようでして」
これです、とホープが置いた写真を覗き込むと、それは確かにあの世界の終わりに顕れたシ界に似ていた。
「奴の手、と見ていいか」
「ええ。それで、アカデミアで対策本部を立ち上げることになりまして。それで僕にも参加してほしいという打診ですね」
「えらく動きが早ぇな?」
スノウが驚く。
「打診してきたのはリグディさんだったんですよ。なんでも、先日の魔物発生事件で僕を見つけたようで」
「リグディさん…って、騎兵隊の人だよね?アカデミーにも関わったって」
「ええ。この打診ですが、僕は応じるつもりでいます」
「当然だな」
頷いたエクレールが、次の言葉に固まった。
「そして、ルミナたちも参加してもらうつもりです」
「どういうつもりだ!」
ドンっと机を叩かれて、隣でうとうとしていたルミナが跳ね起きた。
「…理由はいくつかあります」
「言え。私が納得できるようにな」
険しい顔で夫を睨んでいたエクレールだったが、ルミナに裾を引かれて腰を下ろした。
「姉ちゃん相変わらずおっかねぇな…」
「…まず、一つ目ですが…現実的に僕たちには対抗する手段がありません。ルシでもなく、魔法もなく、解放者でもない。AMPギアがあればまだよかったのでしょうが…」
「だからと言って子供を死地にやれと言うのか。それでセラを失ったことのある私に」
「お姉ちゃん…」
「それなんですがね……」
ホープが気まずげに子供たちへ視線を向ける。
「今回の事件なんですが、根本的な狙いはルミナです。であれば、今確認されている3つ以外にシ界が出現しないとは限りません…というか、まず間違いなく出てくるでしょう」
「それで?」
険しい顔でノエルが続きを促す。
「それに抗える力を持っているとわかってしまったこの子たちが、じっとできると思えますか?」
「無理だな!」
スノウが堂々と言い放ち、セラに背をはたかれる。
確かに、レインはまず動くだろう。そうなればルミナも後を追うだろうし、エクスも止めようとしながら止めきれずについていくのは目に見えている。
「ですので、最初から一緒に行動した方が監視もできていいのではないかと」
「だがな…」
「私、行くよ」
反論しようとしたエクレールを遮って、ルミナがはっきりと言った。
「ルミナ、さっきも言ったが…」
「わかってるよ。女神の生まれ変わりとしてじゃなくて、私が行きたいの」
難しい顔で夫を見たエクレールは、「ほらね?」と視線で言い返されて眉を顰める結果に終わった。
「私を追ってる奴が原因なら、それがどんな奴なのか、ちゃんと私の眼で見たい。決着を付けたい。手伝ってくれるよね?」
「おうよ」
即答したレインと、無言ながら肩をすくめて肯定したエクス。
「モグもいるクポ!」
「…お前は不安だな」
「ライトニング様が酷いクポ!」
「うん、私もちょっと不安かな」
「俺も」
セラとノエルにまで言われて、モーグリがしょぼくれる。
「とはいえ、レインちゃんもエクス君も未成年ですから。公的にはスノウやセラさん、ノエル君たちについていく形になります。いいですね?」
「当然。俺も居残りは性に合わないからな」
「俺も行くぜ!」
「私も行くよ。みんなには話しておくね」
ユールも頷いて肯定の意思を示す。
「おいおいホープ、一つ忘れちゃいねぇか?」
「…サッズさん。ですが……」
「世界各地を飛び回るんだろ?なら、優秀なパイロットは必要だよな?」
「父ちゃん、自分で言うんだ」
ドッジが笑う。
「俺のことは気にしないでいいよ、ホープさん。父ちゃんのこと、よろしく」
「ドッジも成長したなぁ…」
「…任されました。お願いしますね、サッズさん」
「応、任せとけ!まずはアカデミアまで、だな?」
「ええ、そうなりますね」
慌ただしく動き出すノラハウス。
「とりあえず、俺たちは荷造りからだな」
「ルミナは帰るわけだから楽でいいよなぁ」
「あはは、確かにね」
それぞれの準備が進み始めた。
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