愛することによって失うものは何も無い
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ほとんど間を置かずにやってくる返事。
律儀に電話を掛けてこないところを見ると、病院と嘘をついた事が響いているのだろうか。
スマホをオフにしている間、五条は一体どんな気持ちだっただろう。
こんなにもあの男の事を考え、こんなにも胸が痛い。
いっそ、遊んで捨てられた方が楽かもしれない。
しかし、五条は
僕、君の彼氏だよね――――――?
そんな呪いで縛ってくる。
ならば、美波子の事も"僕の彼女"と思っていてくれたのか。
駄目だ。
せっかくの弾む気持ちが下降してしまう。
車窓に目をやり、そこに映るまるで別人のような自分の目を見た。
大丈夫、可愛い。いつもより、素直になれるはず。
目的の駅に着き、人の流れに沿って改札へと向かう。
この先に五条が待っているかと思うと、高揚と不安と罪悪感がごちゃ混ぜになった感情が溢れてきた。
だというのに、その時は突然やってくる。
「美波子!」
改札に辿り着くよりも手前で呼ばれ、反射的に足を止めた。
呼ばれた方向に首を捻ると、改札機の並びにあるフェンスの向こうに、見知った銀髪の長身がいた。
目隠しをしていないオフのスタイルの五条悟は、サングラスをずらしてじっと美波子をとらえている。
長い睫毛の下の澄んだ目を何度もぱちぱちとさせ、硬直したままの美波子を見詰め、小さく首を傾げる。
「美波子……だよ、ね?」
そんな確認をしなければいけない程、変わったのか。いや、変わったか。
その長身で身を乗り出し、このままではフェンスを乗り越えて来かねないと思い、どうにか足を動かして改札を抜ける。
すぐに黒く大きな影が近付いてきて、ぐっと身を屈めて顔を覗き込まれた。
「うわ、マジで美波子だ!ちょーーーーーー可愛いじゃん!ピンク?似合ってるよぉ」
軽くて明朗な声を出し、かと思うと、唐突にぐしゃぐしゃと頭を撫で回された。
「ちょっ……嘘でしょ!?」
あっという間にセットを乱される。
本当に、信じられない。
平日の帰宅ラッシュという事もあり、人目の多い場所で盛大に怒れない美波子を見て、五条はムカつく程の軽さで腹を抱えて笑っている。
しかし、それは拍子抜けしてしまうくらいにいつもの五条だった。
いつもの五条だからこそ余計に、顔を見る事が出来ない。
「……あ、なるほど。僕、聞き間違えてたのか。"病院"と"美容院"」
てへっという笑い声の後、その大きな手でくいと顎を持ち上げられた。
「……なんで、目合わせてくんないの?」
不意に、至近距離で視線がぶつかる。
狡いくらいのタイミングで低められた声は、毒を含んだように甘く、するりと美波子の耳元を撫でていった。
時が止まったように感じたのは一瞬で、すぐに我に返る。
「近いわ!」
五条の体を押し返すと、意図せず熱を持ってしまった自分の頬を両手で挟む。
その様子が可笑しかったのか、五条は声を出して笑った。
「ウケる〜。かーーわい」
とうとうサングラスを外し、目尻に浮かんだらしい涙を拭う。
そんなに面白かっただろうか。
しかし、本当に、いつもの五条だなと思う。
怒ったかもしれないし、うんざりもしたかもしれない。それでも、今この時は普段と何も変わらないという事が、美波子を安心させた。
普段と変わらないと感じたのは、五条も同じだったかもしれない。
律儀に電話を掛けてこないところを見ると、病院と嘘をついた事が響いているのだろうか。
スマホをオフにしている間、五条は一体どんな気持ちだっただろう。
こんなにもあの男の事を考え、こんなにも胸が痛い。
いっそ、遊んで捨てられた方が楽かもしれない。
しかし、五条は
僕、君の彼氏だよね――――――?
そんな呪いで縛ってくる。
ならば、美波子の事も"僕の彼女"と思っていてくれたのか。
駄目だ。
せっかくの弾む気持ちが下降してしまう。
車窓に目をやり、そこに映るまるで別人のような自分の目を見た。
大丈夫、可愛い。いつもより、素直になれるはず。
目的の駅に着き、人の流れに沿って改札へと向かう。
この先に五条が待っているかと思うと、高揚と不安と罪悪感がごちゃ混ぜになった感情が溢れてきた。
だというのに、その時は突然やってくる。
「美波子!」
改札に辿り着くよりも手前で呼ばれ、反射的に足を止めた。
呼ばれた方向に首を捻ると、改札機の並びにあるフェンスの向こうに、見知った銀髪の長身がいた。
目隠しをしていないオフのスタイルの五条悟は、サングラスをずらしてじっと美波子をとらえている。
長い睫毛の下の澄んだ目を何度もぱちぱちとさせ、硬直したままの美波子を見詰め、小さく首を傾げる。
「美波子……だよ、ね?」
そんな確認をしなければいけない程、変わったのか。いや、変わったか。
その長身で身を乗り出し、このままではフェンスを乗り越えて来かねないと思い、どうにか足を動かして改札を抜ける。
すぐに黒く大きな影が近付いてきて、ぐっと身を屈めて顔を覗き込まれた。
「うわ、マジで美波子だ!ちょーーーーーー可愛いじゃん!ピンク?似合ってるよぉ」
軽くて明朗な声を出し、かと思うと、唐突にぐしゃぐしゃと頭を撫で回された。
「ちょっ……嘘でしょ!?」
あっという間にセットを乱される。
本当に、信じられない。
平日の帰宅ラッシュという事もあり、人目の多い場所で盛大に怒れない美波子を見て、五条はムカつく程の軽さで腹を抱えて笑っている。
しかし、それは拍子抜けしてしまうくらいにいつもの五条だった。
いつもの五条だからこそ余計に、顔を見る事が出来ない。
「……あ、なるほど。僕、聞き間違えてたのか。"病院"と"美容院"」
てへっという笑い声の後、その大きな手でくいと顎を持ち上げられた。
「……なんで、目合わせてくんないの?」
不意に、至近距離で視線がぶつかる。
狡いくらいのタイミングで低められた声は、毒を含んだように甘く、するりと美波子の耳元を撫でていった。
時が止まったように感じたのは一瞬で、すぐに我に返る。
「近いわ!」
五条の体を押し返すと、意図せず熱を持ってしまった自分の頬を両手で挟む。
その様子が可笑しかったのか、五条は声を出して笑った。
「ウケる〜。かーーわい」
とうとうサングラスを外し、目尻に浮かんだらしい涙を拭う。
そんなに面白かっただろうか。
しかし、本当に、いつもの五条だなと思う。
怒ったかもしれないし、うんざりもしたかもしれない。それでも、今この時は普段と何も変わらないという事が、美波子を安心させた。
普段と変わらないと感じたのは、五条も同じだったかもしれない。