愛することによって失うものは何も無い
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翌日、以前から予約をしていた美容室に来ていた。
施術も大分終盤になった頃、鬱々としたこの気分の原因をどうにかしたい思いでスマホの電源を入れる。
途端に、引く程のSNSの通知が襲ってくる。
それは、全てたった1人の人物からのもの。
"美波子、電話に出てくれない?"
"ねぇ、もしかして電源落とした?"
"未読無視すんな。ていうか、電源落としたよね?"
"別に、怒ってるけど怒ってない"
"本当に、なんで病院?心配"
"美波子"
やはり、鬱陶しいし、鬱々とした気持ちはますます強くなる。
それなのに、ああ、何故だろう。ちくりと胸が痛む。
そして、画面をスクロールした先で目を疑った。
"明日、帰るから"
明日、とはいつだ。
日付が変わった後に送信されたメッセージなら、今日の事ではない可能性もある。しかし、
「今日か……」
五条のその一言は、昨日のうちに送信されていた。
地獄は、遅れてやってきたか。
色々と考える間も無く、既読になった事を視認したらしい五条から、すぐに次のメッセージが送られてきた。
"着いた。今どこ?"
その一言には、きっと様々な感情が詰まっている。
はあ、と溜息をつく。
まさか、昨日の今日で顔を合わせる事になるとは。
五条への不審感や、五条の隣に立つ自分の立場への不安。怒らせたであろう事、そして、病院と嘘をついて心配をさせた罪悪感。
もやもやと広がってはぐるぐるて渦を巻き、未だ散らかったままの気持ちでいるというのに、一体どんな顔で会えばいいのか。
「美波子さん、終わりましたよ〜」
今の心情にそぐわないような明るい声を掛けられ、現実に引き戻された。
顔を上げると同時に首から下を覆っていたケープを外され、そして、目の前の鏡に映った自分に見とれる。
テンプレのようだったヘアスタイルを、思い切って変えて正解だった。
「…………これ、私……?」
これまでのワンレングスを改めて前髪を作った事で、がらりと雰囲気が変わった。
何より、ダークカラーの頭頂部から、毛先にいくにつれて徐々に桜のようなピンクに変わるグラデーションが、我ながら似合っていてとても可愛い。
鏡に映った見た目のように、心まで柔らかく優しくなる。
胸に掛かる暗い雲が晴れていくような感覚。
「美波子さん、余計なお世話かもですけど、ケンカは早めに仲直りした方がいいですよ。とりあえず会う理由は出来ましたし、めちゃめちゃ可愛くなったとこ、彼氏さんに見せてあげてください」
いつも担当をお願いする同世代の女性美容師が、小さなガッツポーズを作って笑う。
軽い愚痴程度の話をしただけで、こちらの事情を知っている訳ではない。
しかし、今は背中を押してくれる力がありがたかった。
史上最高に可愛くなった自分を見せたいし、見てほしい。そんな弾む気持ちがあるのは本当で、その気持ちが向く先にいるのは、紛れも無く五条悟なのだ。
五条に会う決意をし美容室を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
"○○に来てたわ。今出た"
"じゃ、△△駅の改札で待ってる"