愛することによって失うものは何も無い
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天国と地獄は、同時にやってくる。
『美波子〜、僕に何か言う事あるでしょ?』
つい10分程前に、転職希望の会社から採用の通知を受け取った。
心からの安堵と新たな希望に胸を一杯にさせていた最中、再びスマホが鳴った。
五条悟。
電話口から聞こえてくる、軽くて真意の見えない透明な声。
1週間と少し前、会社での酷いパワハラに耐えかね、その場で辞職を申し出てきた。もともと辞めたいと思い、こっそりと転職活動を始めた矢先の事。
その時既に長期任務で不在にしていた恋人┄┄┄┄五条には、何も話していない。
『美波子、聞いてる?』
「……仕事、お疲れ様」
『ありがとお〜!もー、癒されるなあ……って、そうじゃなくて』
唐突な猫撫で声が、唐突に終わる。
『……なんで言ってくれなかったの?仕事辞めたって。辞めた事を責めてるんじゃなくて、何かあったんでしょ?僕、君じゃなくて硝子から聞いたんだけど』
いつものような軽い口調ではあるが、語尾に苛立ちのような感情が1滴だけ混じっている。
苛立っているのは、こちらも同じだ。
上司にこれまでに無い酷い言葉を浴びせられ、我慢の限界を超えた美波子は、初めて会社で泣いた。
新人でもないくせに、と反省は少し。
しかし、その時に気付いた。
こんなに辛くて苦しいのに、助けを求めたい人はここにはいない。今どこで、何をしているのかも知らない。
特級呪術師?
長期任務?
それがどんな職業で、どんな社会的役割があって、どこでどのくらいの期間何をしているのか、五条は何も教えてはくれない。
その事にどんな理由があるのかは分からないが、ならば、こちらも打ち明けないし頼らない。
「どうして言わなきゃいけないの?」
『どうして、って……僕、美波子の彼氏だよね?なんで頼ってくれなかったのかって訊いてんの』
緩やかに、苛立ちが熱を帯びた。
口調は変わらずだが、その奥にじりじりと熱せられた鋭い感情がある。
五条悟は、弱さを見せない。
なのに、美波子にばかり弱さを見せろと言う。
大事な事は何も教えてはくれないくせに、美波子には全てを開示しろと言う。
頼れるはずが無い。少なくとも、美波子は。
「……恋人が私の全てを知っていいなら、私は貴方の何なのよ。今どこにいて何をしていて、何を抱えてるのか、私はなんっっにも知らないのに……!私は、貴方の何も知らないのに、どうして私ばっかり頼らなきゃいけないの!?」
これまでに、1度だって頼られた事は無かった。
考えれば、そうなのだろうが。
五条に、足りないものなどきっと無い。
スマホの向こうから、声は聞こえなかった。
きっと、うんざりされたか、もっと怒らせたかのどちらかだ。
いずれにしても、返答を聞く勇気は無い。
「私、疲れてるの。明日は1日病院だから、電話してこないでね」
『は……!?ちょ……っと待、え?病院って、なn』
五条が言い終えないうちに、ブチッと音がしそうな勢いで通話を切り、スマホの電源もオフにする。
病院というワードに意味は無く、そう伝えれば迂闊に電話を寄越さないだろうと思ったのだ。
「……子供のケンカね」
だとしたら、一体どちらが悪いのか。
『美波子〜、僕に何か言う事あるでしょ?』
つい10分程前に、転職希望の会社から採用の通知を受け取った。
心からの安堵と新たな希望に胸を一杯にさせていた最中、再びスマホが鳴った。
五条悟。
電話口から聞こえてくる、軽くて真意の見えない透明な声。
1週間と少し前、会社での酷いパワハラに耐えかね、その場で辞職を申し出てきた。もともと辞めたいと思い、こっそりと転職活動を始めた矢先の事。
その時既に長期任務で不在にしていた恋人┄┄┄┄五条には、何も話していない。
『美波子、聞いてる?』
「……仕事、お疲れ様」
『ありがとお〜!もー、癒されるなあ……って、そうじゃなくて』
唐突な猫撫で声が、唐突に終わる。
『……なんで言ってくれなかったの?仕事辞めたって。辞めた事を責めてるんじゃなくて、何かあったんでしょ?僕、君じゃなくて硝子から聞いたんだけど』
いつものような軽い口調ではあるが、語尾に苛立ちのような感情が1滴だけ混じっている。
苛立っているのは、こちらも同じだ。
上司にこれまでに無い酷い言葉を浴びせられ、我慢の限界を超えた美波子は、初めて会社で泣いた。
新人でもないくせに、と反省は少し。
しかし、その時に気付いた。
こんなに辛くて苦しいのに、助けを求めたい人はここにはいない。今どこで、何をしているのかも知らない。
特級呪術師?
長期任務?
それがどんな職業で、どんな社会的役割があって、どこでどのくらいの期間何をしているのか、五条は何も教えてはくれない。
その事にどんな理由があるのかは分からないが、ならば、こちらも打ち明けないし頼らない。
「どうして言わなきゃいけないの?」
『どうして、って……僕、美波子の彼氏だよね?なんで頼ってくれなかったのかって訊いてんの』
緩やかに、苛立ちが熱を帯びた。
口調は変わらずだが、その奥にじりじりと熱せられた鋭い感情がある。
五条悟は、弱さを見せない。
なのに、美波子にばかり弱さを見せろと言う。
大事な事は何も教えてはくれないくせに、美波子には全てを開示しろと言う。
頼れるはずが無い。少なくとも、美波子は。
「……恋人が私の全てを知っていいなら、私は貴方の何なのよ。今どこにいて何をしていて、何を抱えてるのか、私はなんっっにも知らないのに……!私は、貴方の何も知らないのに、どうして私ばっかり頼らなきゃいけないの!?」
これまでに、1度だって頼られた事は無かった。
考えれば、そうなのだろうが。
五条に、足りないものなどきっと無い。
スマホの向こうから、声は聞こえなかった。
きっと、うんざりされたか、もっと怒らせたかのどちらかだ。
いずれにしても、返答を聞く勇気は無い。
「私、疲れてるの。明日は1日病院だから、電話してこないでね」
『は……!?ちょ……っと待、え?病院って、なn』
五条が言い終えないうちに、ブチッと音がしそうな勢いで通話を切り、スマホの電源もオフにする。
病院というワードに意味は無く、そう伝えれば迂闊に電話を寄越さないだろうと思ったのだ。
「……子供のケンカね」
だとしたら、一体どちらが悪いのか。
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