愛することによって失うものは何も無い
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『今、外ですか?』
「そう。ちょっと出掛けてて、○○に来てたわ。ねぇ……あの、今から会え……る?」
『……そのように、恐る恐る尋ねさせてしまうのは、私のせいですね』
言葉に混じった溜息は、七海が自分自身へと向けたものだろう。
彼なりに、以前に響雨子を突き放した事を、省みているのかもしれない。
そんな事は無いと、すぐに否定が出来なかった。
『言ったでしょう、それ程大変な任務ではなかったと。……私も、響雨子に会いたいと思っていました』
「会いたい」には響雨子に向けた想いがこもっていて、その熱い響きにぎゅっと胸を掴まれる。
『○○にいるなら、△△辺りで食事をしましょうか。地下鉄の改札で待っています』
誘いに返事をして、そっと通話を切った。
ざっと今の会話を振り返り、七海に会ってこの変化を見せる事が出来る喜びに浸る。
ああ、早く会いたい。会って、見せて、驚かせたい。
年甲斐も無く、ぴょんぴょんと弾む足取りで駅へと向かう。
地下鉄に乗り、3駅先のオフィス街に近い駅を通過する時、ドアが開くとともに一斉に会社員風の男女が乗り込んできた。
程よく空いていた車内は、あっという間にぎゅうぎゅう詰めになる。
帰宅ラッシュの時間にぶつかってしまった。
これまで、平日のこの時間はまだ勤務中だったため、帰宅ラッシュなどというものとは無縁だった。
それが良かったのか悪かったのかは分からないが。
嫌な事を思い出してしまったな、と思う。
急にイメチェンをしようと決意をしたのには、理由がある。
以前勤めていた会社では許されなかったヘアスタイルが、許されるようになった。5年間勤めたその会社を、辞めたのだ。
パワハラ、セクハラ、サービス残業、いわれなきイジメ。思い返すと、それはそれは酷い環境だった。
前を向くために、全てを忘れ、全てから解放され、新しい自分になりたかった。
はあと小さく溜息をつき、窓に映る自分の顔を見詰める。
大丈夫。今は、どんな嫌な記憶にも耐えられる。耐えられるだけの武器を手に入れた。
これからは、もっと自由でもっと自分らしい自分で生きていく。
ぎゅうぎゅう詰めのまま電車は進み、さらに3駅行ったところでようやく降車する。のんびりエスカレーターに乗っている時間がもどかしく、傍に併設された階段をかけ上った。
車内で思い出してしまった胃を締め上げるような記憶など、もうどうでもいい。
この階段の上で待つ人への想いの方が強い。
上の階に着き、ぞろぞろと人の流れに沿って改札を抜ける。
未だわらわらと人が溢れ出てくる改札の前で、辺りを見回してみた。
さすがに改札の目の前で待つには人が多すぎたのか、随分と離れた大柱の傍に、その人はいた。
1度自宅に戻ったのか、仕事の時に着用しているいつものスーツ姿ではなく、外でデートをする際の爽やかな私服姿。
実年齢より上に見られがちな七海も、カジュアルな格好をしていると割と年相応に見える。
そして、遠目から見た時の脚の長さに、改めて驚く。
既に七海の視界には入っているはずなのだが、七海は大柱に背を預けたままゆったりと人の流れを見ていた。
サングラスをしていない、鋭利であり柔らかさも持ち合わせる繊細な眼差しは、明らかに誰かを―――響雨子を探している。しかし、一向に響雨子の姿を捕らえない。
「そう。ちょっと出掛けてて、○○に来てたわ。ねぇ……あの、今から会え……る?」
『……そのように、恐る恐る尋ねさせてしまうのは、私のせいですね』
言葉に混じった溜息は、七海が自分自身へと向けたものだろう。
彼なりに、以前に響雨子を突き放した事を、省みているのかもしれない。
そんな事は無いと、すぐに否定が出来なかった。
『言ったでしょう、それ程大変な任務ではなかったと。……私も、響雨子に会いたいと思っていました』
「会いたい」には響雨子に向けた想いがこもっていて、その熱い響きにぎゅっと胸を掴まれる。
『○○にいるなら、△△辺りで食事をしましょうか。地下鉄の改札で待っています』
誘いに返事をして、そっと通話を切った。
ざっと今の会話を振り返り、七海に会ってこの変化を見せる事が出来る喜びに浸る。
ああ、早く会いたい。会って、見せて、驚かせたい。
年甲斐も無く、ぴょんぴょんと弾む足取りで駅へと向かう。
地下鉄に乗り、3駅先のオフィス街に近い駅を通過する時、ドアが開くとともに一斉に会社員風の男女が乗り込んできた。
程よく空いていた車内は、あっという間にぎゅうぎゅう詰めになる。
帰宅ラッシュの時間にぶつかってしまった。
これまで、平日のこの時間はまだ勤務中だったため、帰宅ラッシュなどというものとは無縁だった。
それが良かったのか悪かったのかは分からないが。
嫌な事を思い出してしまったな、と思う。
急にイメチェンをしようと決意をしたのには、理由がある。
以前勤めていた会社では許されなかったヘアスタイルが、許されるようになった。5年間勤めたその会社を、辞めたのだ。
パワハラ、セクハラ、サービス残業、いわれなきイジメ。思い返すと、それはそれは酷い環境だった。
前を向くために、全てを忘れ、全てから解放され、新しい自分になりたかった。
はあと小さく溜息をつき、窓に映る自分の顔を見詰める。
大丈夫。今は、どんな嫌な記憶にも耐えられる。耐えられるだけの武器を手に入れた。
これからは、もっと自由でもっと自分らしい自分で生きていく。
ぎゅうぎゅう詰めのまま電車は進み、さらに3駅行ったところでようやく降車する。のんびりエスカレーターに乗っている時間がもどかしく、傍に併設された階段をかけ上った。
車内で思い出してしまった胃を締め上げるような記憶など、もうどうでもいい。
この階段の上で待つ人への想いの方が強い。
上の階に着き、ぞろぞろと人の流れに沿って改札を抜ける。
未だわらわらと人が溢れ出てくる改札の前で、辺りを見回してみた。
さすがに改札の目の前で待つには人が多すぎたのか、随分と離れた大柱の傍に、その人はいた。
1度自宅に戻ったのか、仕事の時に着用しているいつものスーツ姿ではなく、外でデートをする際の爽やかな私服姿。
実年齢より上に見られがちな七海も、カジュアルな格好をしていると割と年相応に見える。
そして、遠目から見た時の脚の長さに、改めて驚く。
既に七海の視界には入っているはずなのだが、七海は大柱に背を預けたままゆったりと人の流れを見ていた。
サングラスをしていない、鋭利であり柔らかさも持ち合わせる繊細な眼差しは、明らかに誰かを―――響雨子を探している。しかし、一向に響雨子の姿を捕らえない。