Love than to be loved...and
名前を変える
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祥子と出会ったばかりの頃、深く沈んだ瞳で、ぼんやりと夕陽を見つめる横顔を見かけたことがある。
心がここではないどこか遠くへあるような、寂しくて何もない、それでいて硝子玉のように美しい瞳。
その様子に、心を掴まれた。
それから、慣れない学園での生活の中、必死に自分にできることを探す姿に胸を打たれた。
怪我をした生徒がいれば、ひどく心配しつつも保健委員とともに率先して手当てに加わり。
低学年高学年や忍たまくのたま問わず、生徒の成長には我がことのように喜ぶ。
その繊細でまっすぐな心根に触れた時には、もう落ちていたと思う。
どういった経緯でここへ来ることとなったのか、過去に何があったのか、未だ知らないことは多い。
ただ、大いなる悲しみを背負っている、或いは抱えていることは、なんとなく分かる。
『私は、人の心に寄り添える人でありたいんです。……傷付いた人との傷の舐め合いは絶対にご免ですけど』
そう言って笑う祥子の表情を思い出した。
なんて芯のある女性だろうか。抱いた素直な感想も、しっかり覚えている。
こうやって時間ができるとつい祥子のことを考えてしまうようになったのは、一体いつの頃からか。
彼女の、控えめながら可愛く笑う様子を見たときに、この笑顔が自分に向いてくれたら……と思った。
祥子が傷付いた誰かに寄り添うなら、自分は祥子に寄り添える人でありたいと思った。
考えれば考えるほどに胸が熱く、苦しくなる。
「……苦しいのに、どうしてこんなに満たされた気持ちになるんだろうな」
今まで生きてきた中のどこかで、かすかに抱いたことのある感情。
ただ、その時よりも今ここにある感情の方が鮮明で、鮮明すぎて、戸惑うのだ。
これが恋心だと気付いてからは、なおさら。
「祥子ちゃんのことかね」
「うっわああ!」
突然背後から聞こえた声に、不覚にも飛び上がりそうになった。というか、少し飛び上がってしまった。
「声が大きいわ馬鹿もん!何時だと思っとる!」
「それはこっちの台詞ですよ!寝てらしたんじゃなかったんですか?」
時刻は深夜。
眠れないため布団から出て本を読んでいたのだが、同室の山田はかすかな音にもびくともしないほどに深い眠りについていた。と、思っていた。
「気配を感じてな。というか、半助お前、途中から考え事が口に出とったぞ。その中に祥子ちゃんの名前もあった」
山田は、蝋燭の灯りの下でも分かるほど明らかに、にやと意地の悪い笑みを浮かべる。
ばれた。
この後山田の口からどんな言葉が出るか予想ができてしまい、自身の顔が熱を帯びていくのが分かる。
しかし、それは思いがけない内容だった。
「まあ、お前が祥子ちゃんに好意を寄せてるのはバレバレだったがね」
「え“っ!!?ば……バレバレ……!?」
「分からんと思うか。とは言っても、気付いてるのは私と学園長と山本先生、食堂のおばちゃんにヘムヘムくらいだが」
「思ったより多い……」
「分かりやすいんだよ。いつも祥子ちゃんを目で追ってる。祥子ちゃんがいる時といない時とでは表情の明るさが違う。それから」
「ちょちょちょちょっと待ってください!」
これほど詳細にばれているとは、予想外だった。
もしかしたら、自分で思う以上に重症なのかもしれない。
自分の中にある祥子への気持ちを疑ったことはないが、他者から指摘をされてあらためて本心と向き合うことで、少し怖くなった。
「……赤くなったり青ざめたり、せわしないな。お前の血圧が心配だよ」
冗談を言いながらも、山田は土井の心の中にある迷いに気付いたようだった。
抜け忍となって、追われる身だったあの頃。
いや、過去形になどしていいものか。きっと、“今も“だ。
「半助」
ふと、山田の声が真剣味を帯びる。
「もう5年だよ」
「え……」
心がここではないどこか遠くへあるような、寂しくて何もない、それでいて硝子玉のように美しい瞳。
その様子に、心を掴まれた。
それから、慣れない学園での生活の中、必死に自分にできることを探す姿に胸を打たれた。
怪我をした生徒がいれば、ひどく心配しつつも保健委員とともに率先して手当てに加わり。
低学年高学年や忍たまくのたま問わず、生徒の成長には我がことのように喜ぶ。
その繊細でまっすぐな心根に触れた時には、もう落ちていたと思う。
どういった経緯でここへ来ることとなったのか、過去に何があったのか、未だ知らないことは多い。
ただ、大いなる悲しみを背負っている、或いは抱えていることは、なんとなく分かる。
『私は、人の心に寄り添える人でありたいんです。……傷付いた人との傷の舐め合いは絶対にご免ですけど』
そう言って笑う祥子の表情を思い出した。
なんて芯のある女性だろうか。抱いた素直な感想も、しっかり覚えている。
こうやって時間ができるとつい祥子のことを考えてしまうようになったのは、一体いつの頃からか。
彼女の、控えめながら可愛く笑う様子を見たときに、この笑顔が自分に向いてくれたら……と思った。
祥子が傷付いた誰かに寄り添うなら、自分は祥子に寄り添える人でありたいと思った。
考えれば考えるほどに胸が熱く、苦しくなる。
「……苦しいのに、どうしてこんなに満たされた気持ちになるんだろうな」
今まで生きてきた中のどこかで、かすかに抱いたことのある感情。
ただ、その時よりも今ここにある感情の方が鮮明で、鮮明すぎて、戸惑うのだ。
これが恋心だと気付いてからは、なおさら。
「祥子ちゃんのことかね」
「うっわああ!」
突然背後から聞こえた声に、不覚にも飛び上がりそうになった。というか、少し飛び上がってしまった。
「声が大きいわ馬鹿もん!何時だと思っとる!」
「それはこっちの台詞ですよ!寝てらしたんじゃなかったんですか?」
時刻は深夜。
眠れないため布団から出て本を読んでいたのだが、同室の山田はかすかな音にもびくともしないほどに深い眠りについていた。と、思っていた。
「気配を感じてな。というか、半助お前、途中から考え事が口に出とったぞ。その中に祥子ちゃんの名前もあった」
山田は、蝋燭の灯りの下でも分かるほど明らかに、にやと意地の悪い笑みを浮かべる。
ばれた。
この後山田の口からどんな言葉が出るか予想ができてしまい、自身の顔が熱を帯びていくのが分かる。
しかし、それは思いがけない内容だった。
「まあ、お前が祥子ちゃんに好意を寄せてるのはバレバレだったがね」
「え“っ!!?ば……バレバレ……!?」
「分からんと思うか。とは言っても、気付いてるのは私と学園長と山本先生、食堂のおばちゃんにヘムヘムくらいだが」
「思ったより多い……」
「分かりやすいんだよ。いつも祥子ちゃんを目で追ってる。祥子ちゃんがいる時といない時とでは表情の明るさが違う。それから」
「ちょちょちょちょっと待ってください!」
これほど詳細にばれているとは、予想外だった。
もしかしたら、自分で思う以上に重症なのかもしれない。
自分の中にある祥子への気持ちを疑ったことはないが、他者から指摘をされてあらためて本心と向き合うことで、少し怖くなった。
「……赤くなったり青ざめたり、せわしないな。お前の血圧が心配だよ」
冗談を言いながらも、山田は土井の心の中にある迷いに気付いたようだった。
抜け忍となって、追われる身だったあの頃。
いや、過去形になどしていいものか。きっと、“今も“だ。
「半助」
ふと、山田の声が真剣味を帯びる。
「もう5年だよ」
「え……」