君に咲くユキヤナギ
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「え、小松田くん、今何て?」
今し方忍術学園を訪れた山田利吉は、入門票にサインをする手を止める。
目の前にいる事務員・小松田秀作は、明らかに聞こえていたはずの話題について聞き返されたことが不思議だったようで、きょとんとした目で利吉を見た。
「ですからぁ、今日は祥子さんは不在ですよ。学園長のお遣いで◯◯まで行ってます。予定では、今日の夕刻頃のお帰りですにぇ」
聞き返したところで直前の話題の内容が覆ることはなく、利吉は肩を落とした。
会えることを期待していただけに、落胆の気持ちも大きい。
「そうか……間が悪かったな」
「残念でしたねぇ」
盛大に溜め息をつきたくなったが、ふと気付く。
自分は、小松田にここへ来た理由を話しただろうか。
「小松田くん、何故私にそれを?」
小松田は、再びきょとんとして、受け取った入門票と利吉とを交互に見る。
「え?だって、祥子さんに会いにいらしたんですよね?先々週も先月も、その前は3ヶ月前でしたけど、どの時も祥子さんいるーーーー?っていらしてましたよぉ、利吉さん。だから、てっきり今日もそうかと思ったんですけどぉ、違いましたか?」
時折利吉の真似らしき仕草を混えた話を聞きながら、我ながら頻繁にあの人に会いに来ていたのだなと思う。
自身の行動を振り返った途端に、気恥ずかしくなった。
「違……わないけど。というか、どさくさに紛れて私の真似をするな」
「“祥子さんいるーーーー?“」
「うるさいな!そんな間抜けな言い方はしていない!」
おちょくられていることを察し、条件反射のように噛みついてしまう。
しかし、祥子に頻繁に会いに来ていることを小松田にすら勘付かれてしまうとは、少し気が緩んでいたかもしれない。
今後は、学園を訪れる回数を減らそう。
きゅっと、胸が締め付けられる。
会えないとなると、途端に会いたくなる。抱いたことのない感情ではないのに、どうしてだろう。これまでよりもずっと、切ないのだ。
ふと、何かに気付く。
「小松田くん、祥子さんはいつ頃帰る予定だって?」
「ええと、今日の夕……刻、ですね……」
答えながら、小松田も気付いたようだった。
すでに足元の影は長く伸び、橙色の夕陽が辺りを柔らかく包んでいる。
「おかしいですねぇ。もう帰ってきてもいい頃なのに……何かあったのかなぁ……」
さすがの小松田も心配になったようで、表情を曇らせた。
利吉は、小松田の手から入門票を取ると、今さっき書いたばかりのサインを二重線で速やかに消した。
そして、それを押し付けるようにして小松田に返す。
「祥子さんは、◯◯へ行っているんだったね」
小松田が頷くのを確認すると、背負っている荷物の紐をぎゅっと締め直す。
「私が迎えに行ってくるよ」
言い終えるか終えないかのうちに、駆け出していた。
単に“心配“という言葉では括れないくらいに、胸がざわめく。
フリーの忍になって、様々な世界を見てきた。
戦場 や権謀術数が渦巻く殺伐とした世界を駆け抜ける中で、この手をすり抜けていったいくつもの命。奪われた命も、奪った命もある。
実に身勝手だが、祥子には奪われる側にも、ましてや奪う側にもなってほしくはない。
安全で、護られる世界にいてほしい。
どうして、こんな気持ちを抱くのだろう。
祥子という人と初めて出会ったのは、4年程前。学園関係者の中では、自分が一番遅い出会いだったのではないかと思う。
学園長の古い友人の娘という話だが、4年経った今でも詳しい素性は学園長しか知らない。
いくら学園長の知人とはいえ、得体の知れない人物を学園に入れるべきではないと思ったが、警戒心と同じくらいに興味もあった。
都会から来た子女。その人は、ただ美しいばかりの人ではなかった。
今し方忍術学園を訪れた山田利吉は、入門票にサインをする手を止める。
目の前にいる事務員・小松田秀作は、明らかに聞こえていたはずの話題について聞き返されたことが不思議だったようで、きょとんとした目で利吉を見た。
「ですからぁ、今日は祥子さんは不在ですよ。学園長のお遣いで◯◯まで行ってます。予定では、今日の夕刻頃のお帰りですにぇ」
聞き返したところで直前の話題の内容が覆ることはなく、利吉は肩を落とした。
会えることを期待していただけに、落胆の気持ちも大きい。
「そうか……間が悪かったな」
「残念でしたねぇ」
盛大に溜め息をつきたくなったが、ふと気付く。
自分は、小松田にここへ来た理由を話しただろうか。
「小松田くん、何故私にそれを?」
小松田は、再びきょとんとして、受け取った入門票と利吉とを交互に見る。
「え?だって、祥子さんに会いにいらしたんですよね?先々週も先月も、その前は3ヶ月前でしたけど、どの時も祥子さんいるーーーー?っていらしてましたよぉ、利吉さん。だから、てっきり今日もそうかと思ったんですけどぉ、違いましたか?」
時折利吉の真似らしき仕草を混えた話を聞きながら、我ながら頻繁にあの人に会いに来ていたのだなと思う。
自身の行動を振り返った途端に、気恥ずかしくなった。
「違……わないけど。というか、どさくさに紛れて私の真似をするな」
「“祥子さんいるーーーー?“」
「うるさいな!そんな間抜けな言い方はしていない!」
おちょくられていることを察し、条件反射のように噛みついてしまう。
しかし、祥子に頻繁に会いに来ていることを小松田にすら勘付かれてしまうとは、少し気が緩んでいたかもしれない。
今後は、学園を訪れる回数を減らそう。
きゅっと、胸が締め付けられる。
会えないとなると、途端に会いたくなる。抱いたことのない感情ではないのに、どうしてだろう。これまでよりもずっと、切ないのだ。
ふと、何かに気付く。
「小松田くん、祥子さんはいつ頃帰る予定だって?」
「ええと、今日の夕……刻、ですね……」
答えながら、小松田も気付いたようだった。
すでに足元の影は長く伸び、橙色の夕陽が辺りを柔らかく包んでいる。
「おかしいですねぇ。もう帰ってきてもいい頃なのに……何かあったのかなぁ……」
さすがの小松田も心配になったようで、表情を曇らせた。
利吉は、小松田の手から入門票を取ると、今さっき書いたばかりのサインを二重線で速やかに消した。
そして、それを押し付けるようにして小松田に返す。
「祥子さんは、◯◯へ行っているんだったね」
小松田が頷くのを確認すると、背負っている荷物の紐をぎゅっと締め直す。
「私が迎えに行ってくるよ」
言い終えるか終えないかのうちに、駆け出していた。
単に“心配“という言葉では括れないくらいに、胸がざわめく。
フリーの忍になって、様々な世界を見てきた。
実に身勝手だが、祥子には奪われる側にも、ましてや奪う側にもなってほしくはない。
安全で、護られる世界にいてほしい。
どうして、こんな気持ちを抱くのだろう。
祥子という人と初めて出会ったのは、4年程前。学園関係者の中では、自分が一番遅い出会いだったのではないかと思う。
学園長の古い友人の娘という話だが、4年経った今でも詳しい素性は学園長しか知らない。
いくら学園長の知人とはいえ、得体の知れない人物を学園に入れるべきではないと思ったが、警戒心と同じくらいに興味もあった。
都会から来た子女。その人は、ただ美しいばかりの人ではなかった。