First Light.
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次の言葉を口に出す直前、それを口にするかどうか逡巡する様子がうかがえた。
「……神崎さんは、妖を憎んだり、視える自分の能力を重荷に感じたりすることは……ありましたか?」
言葉を選び抜いた先の質問だったのだろうが、しかし、それは言葉を選んでしまうのも無理は無い。
1つ目の質問は、ともすれば相手のトラウマを呼び覚ますことになりかねない。2つ目の質問は、もしかしたら、今現在夏目自身が感じていることなのかもしれない。
夏目の表情には一瞬の翳りが。しかし、すぐに誤魔化すような笑みを浮かべる。
見逃してしまいそうな程の一瞬。ああ、この子は、きっとこうやって本心を隠しながら生きてきたのだ。
「すみません。今のは聞かなかったことに」
「憎んでたし、嫌いだったわ」
話を遮って羅列されたネガティブな言葉に、再び夏目はフリーズする。
「……私に怖い思いをさせる妖が大嫌いだった。大嫌いな妖を視てしまう自分を呪った。……けど、そんな私が救いを求めたのも妖で、私を助けてくれたのも妖だった。……今は、誰も、何も憎んでない。共存ってやつ?そう決めることが出来たから」
現在の神崎咲耶に至るまでの経緯が、昨日のことのようにありありと思い出せた。
こう思えるようになったのも、傍らにいてくれる鬼達のおかげ。
昔を懐かしんでいると、夏目の表情から翳りが消えていることに気付いた。
彼がどんな気持ちでこの質問をしてきたのかは分からない。
しかし、名取周一と的場静司。夏目に影響を及ぼす祓い人が彼らだとしたら、夏目が抱える迷いのようなものにも気付ける。
「"周りにいる視える人"が妖を憎んでいる、かもしれない。だからって、夏目君もそっち側に行く必要は無いのよ。その人達と夏目君は別の人間なんだから」
この話を聞いて、何か一つでも腑に落ちるものあればいい。
「ありがとう……ございます。今まで、自分と同じように視える人といったら祓い屋の人がほとんどで……そうじゃない人の話が聞けて、よかったです」
明るい色のその瞳に、光が差し込んだ。
直に接してみて感じるのは、夏目貴志という少年の中に秘められた妖力の強さ。迷いが多いからこそ発揮出来ていないだけで、もしも迷いを断ち切ることが出来たらと思うと、それはそれで怖くなる。
だからこそ、間違った方向に行ってしまわないよう誰かが導かなければ。
かつて咲耶がそうだったように。
冷めかけたお茶を一口飲む。
「周一先輩は、貴方に祓い屋になれって言ってるの?」
「いえ。名取さんには、普通に生きるべきだと言われました」
その返答に、安心した。
祓い人からすれば、夏目のような視える子供は金のなる木のようだろう。
たとえ名取であっても、本人の望まない道に引き込もうとしているなら許すつもりは無かった。
「ならいいのよ。もしも夏目君を祓い屋に……って言うなら、こっちにも色々考えがあったわ」
柔らかく笑って見せたはずなのだが、夏目の笑顔が引き攣るのは何故なのか。
「この気性にこの妖力。おまけに神職とは、半端な祓い屋なんぞより遥かに恐ろしい娘だ」
いつの間にか団子を食べ終えていたニャンコ先生は、両手で湯呑みを持って呑気にお茶をすすっている。
「こんな奴と関わって大丈夫なのか、夏目」
そして、ちらと目だけで咲耶を見上げる。
その言葉からは、妖に対抗し得る力を持つ人間全てに抱く、あまりよくない感情が読み取れた。
その感情の向こうには、夏目を案じる気持ちもあるのだろうが。
ニャンコ先生の気持ちは、分からなくもない。
『咲耶』
唐突な呼び声に、ニャンコ先生の耳がイカ耳になる。
呼び声からやや遅れて、どろんと紅い煙幕の間から2本角の小鬼が姿を現した。
真っ直ぐに伸びる2本の角は漆黒で、逆立つ長い髪は揺らめく炎のように鮮やかな紅色。そして、色と形は違うが早天と同様に目元を隠す仮面を付けている。
紅い小鬼————東雲は、夏目とニャンコ先生には一瞥もくれず、咲耶の目の高さまで降りてきた。
『妙な奴が屋敷に向かってきている。妖を連れているところを見ると、術師の類だろうよ』
淡々とした報告に、またかと思ってしまう。
その人物が祓い人であろうことも、神崎を訪ねてくる目的も、おおよそ見当がついている。
不安げな顔をした夏目が、ソファから腰を浮かせた。
「神崎さん、もしかして……祓い屋じゃ……」
何か自身のせいではと思っているのか。それとも、祓い人と関わってきたこれまでのよくない経験が危惧させるのか。
「……神崎さんは、妖を憎んだり、視える自分の能力を重荷に感じたりすることは……ありましたか?」
言葉を選び抜いた先の質問だったのだろうが、しかし、それは言葉を選んでしまうのも無理は無い。
1つ目の質問は、ともすれば相手のトラウマを呼び覚ますことになりかねない。2つ目の質問は、もしかしたら、今現在夏目自身が感じていることなのかもしれない。
夏目の表情には一瞬の翳りが。しかし、すぐに誤魔化すような笑みを浮かべる。
見逃してしまいそうな程の一瞬。ああ、この子は、きっとこうやって本心を隠しながら生きてきたのだ。
「すみません。今のは聞かなかったことに」
「憎んでたし、嫌いだったわ」
話を遮って羅列されたネガティブな言葉に、再び夏目はフリーズする。
「……私に怖い思いをさせる妖が大嫌いだった。大嫌いな妖を視てしまう自分を呪った。……けど、そんな私が救いを求めたのも妖で、私を助けてくれたのも妖だった。……今は、誰も、何も憎んでない。共存ってやつ?そう決めることが出来たから」
現在の神崎咲耶に至るまでの経緯が、昨日のことのようにありありと思い出せた。
こう思えるようになったのも、傍らにいてくれる鬼達のおかげ。
昔を懐かしんでいると、夏目の表情から翳りが消えていることに気付いた。
彼がどんな気持ちでこの質問をしてきたのかは分からない。
しかし、名取周一と的場静司。夏目に影響を及ぼす祓い人が彼らだとしたら、夏目が抱える迷いのようなものにも気付ける。
「"周りにいる視える人"が妖を憎んでいる、かもしれない。だからって、夏目君もそっち側に行く必要は無いのよ。その人達と夏目君は別の人間なんだから」
この話を聞いて、何か一つでも腑に落ちるものあればいい。
「ありがとう……ございます。今まで、自分と同じように視える人といったら祓い屋の人がほとんどで……そうじゃない人の話が聞けて、よかったです」
明るい色のその瞳に、光が差し込んだ。
直に接してみて感じるのは、夏目貴志という少年の中に秘められた妖力の強さ。迷いが多いからこそ発揮出来ていないだけで、もしも迷いを断ち切ることが出来たらと思うと、それはそれで怖くなる。
だからこそ、間違った方向に行ってしまわないよう誰かが導かなければ。
かつて咲耶がそうだったように。
冷めかけたお茶を一口飲む。
「周一先輩は、貴方に祓い屋になれって言ってるの?」
「いえ。名取さんには、普通に生きるべきだと言われました」
その返答に、安心した。
祓い人からすれば、夏目のような視える子供は金のなる木のようだろう。
たとえ名取であっても、本人の望まない道に引き込もうとしているなら許すつもりは無かった。
「ならいいのよ。もしも夏目君を祓い屋に……って言うなら、こっちにも色々考えがあったわ」
柔らかく笑って見せたはずなのだが、夏目の笑顔が引き攣るのは何故なのか。
「この気性にこの妖力。おまけに神職とは、半端な祓い屋なんぞより遥かに恐ろしい娘だ」
いつの間にか団子を食べ終えていたニャンコ先生は、両手で湯呑みを持って呑気にお茶をすすっている。
「こんな奴と関わって大丈夫なのか、夏目」
そして、ちらと目だけで咲耶を見上げる。
その言葉からは、妖に対抗し得る力を持つ人間全てに抱く、あまりよくない感情が読み取れた。
その感情の向こうには、夏目を案じる気持ちもあるのだろうが。
ニャンコ先生の気持ちは、分からなくもない。
『咲耶』
唐突な呼び声に、ニャンコ先生の耳がイカ耳になる。
呼び声からやや遅れて、どろんと紅い煙幕の間から2本角の小鬼が姿を現した。
真っ直ぐに伸びる2本の角は漆黒で、逆立つ長い髪は揺らめく炎のように鮮やかな紅色。そして、色と形は違うが早天と同様に目元を隠す仮面を付けている。
紅い小鬼————東雲は、夏目とニャンコ先生には一瞥もくれず、咲耶の目の高さまで降りてきた。
『妙な奴が屋敷に向かってきている。妖を連れているところを見ると、術師の類だろうよ』
淡々とした報告に、またかと思ってしまう。
その人物が祓い人であろうことも、神崎を訪ねてくる目的も、おおよそ見当がついている。
不安げな顔をした夏目が、ソファから腰を浮かせた。
「神崎さん、もしかして……祓い屋じゃ……」
何か自身のせいではと思っているのか。それとも、祓い人と関わってきたこれまでのよくない経験が危惧させるのか。