First Light.
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感情の読めない深い漆黒の瞳だが、明らかに何かに勘づいて、そしてその"何か"を探っている。
さすが、年季の入った大妖なだけはある。
しかし、そう簡単に突き止められてなるものか。
「早天のことかしら」
探る目に、にっこりと作り笑いで応えて見せれば、ぴりと空気が張り詰める感覚がした。
お茶を口に運んでいた夏目は、湯呑みを持ったまま不安げに両者の顔を見比べる。
「あの……」
ニャンコ先生は、フンと鼻を鳴らして再び団子をかじり始めた。
どう詰め寄っても口を割らないと、もう気付いたのかもしれない。
知られることで、どうなるのかは分からない。ならば、秘めておくことに越したことは無いのだ。
災厄など、不用意に招いてはいけない。
「それで、今日はどういうご用件なのかな。周一先輩には、夏目君が知りたいと思ってることに可能な限り答えてやってほしいって言われてるけど」
夏目が知りたいと思っているであろうことや、もしかしたら訊かれるかもしれない内容も、あらかじめ聞いてはいる。
しかし、本人の迷いは本人の口から聞かなければ、答える意味が無い。
唐突に本題に入ったためか、夏目はわたわたしながら湯呑みを置いた。
「あの」
こちらを真っ直ぐに見る眼差し。
しかし、咲耶と目が合った直後、すぐにその視線は逸らされる。
「どうしたの?」
心なしか、そわそわしている様子が気になった。そわそわというか、もじもじというか。
「もじもじ禁止!」
もとよりあまり気が長い方ではないため、つい痺れを切らして語気を強めてしまった。
ハッとしたように、夏目の背筋がピンと伸びる。
「身近にいる大人の女など限られているからな。緊張しているのだ」
「せっ、先生!」
横から口を挟んでくるニャンコ先生に慌て、恥じらいを含んだその横顔は、十代の少年の素顔だった。
このままでは話が逸れたまま進んでしまうと察したのか、軽く咳払いをした夏目は今度こそしっかりと咲耶の目を見る。
「あの、唐突な質問なんですが……神崎さんは、妖が視えるのに祓い人ではないと聞きました。それは、何故なんでしょうか」
硝子のような瞳の奥に宿る真剣な光は、この話題が彼にとってどれほど重要かを物語っている。
「視えるなら、必ず祓い屋にならなきゃいけないの?」
質問への質問。冷たく聞こえたであろう言い方に、夏目の表情が強張ったように見えた。
後悔が、胸を掠める。
視える相手だからといって攻撃的になってしまう悪癖。夏目は祓い人ではないのに。
「……ごめん。きつい言い方だったわ」
伏した視界の端で、夏目がふるふると首を振るのが見えた。
気を取り直して、顔を上げる。
「……神職の家系に生まれたからその道に進もうとしているけど、私は跡継ぎじゃないから、なろうと思えば祓い屋にもなれたと思う。でも……」
身近にいる妖達と、これまでに出会ってきた祓い人達の姿が、次々と脳裏に浮かぶ。
最後に思い浮かんだ祓い人、それは————。
熱を帯びかけた心に、顔を背ける。
「妖だからといって道具のように使い捨てたり。妖だからといって全てが悪いものだと決めつけたり。そういうのが許せないの。そういう連中が大っっ嫌い。だから、私は祓い屋とは違うやり方で、視えないものの影に怯える人達の力になりたいと思った。そのモデルケースが、たまたま神職の祖父だった」
全ての妖が悪いものではないように、祓い人も全てが悪人な訳ではない。頭では理解しているのだが、うまく折り合いが付けられない時もある。
どちらかが白で、どちらかが黒。そんなふうに分かりやすい構図ならいいのにと思ったこともある。
「優先しなければいけないのは、あくまでも"人"。けれど、侵してはいけない"人ではないもの"の領域もある。そのどちらも護りたいから、祓い人ではないこの道に立ってる」
柄にも無く、熱く語ってしまったように思う。
質問への回答になっただろうか。
ふと見ると、夏目は呆然とフリーズしたまま咲耶を見ていた。
ほしい答えではなかったのか。それとも、予想を超えるような返答だったのか。
「……ひとつの質問に、10個くらいのお返しをしたわよ?」
すぐに再起動した夏目は、我に返ったように目をぱちぱちとさせる。
さすが、年季の入った大妖なだけはある。
しかし、そう簡単に突き止められてなるものか。
「早天のことかしら」
探る目に、にっこりと作り笑いで応えて見せれば、ぴりと空気が張り詰める感覚がした。
お茶を口に運んでいた夏目は、湯呑みを持ったまま不安げに両者の顔を見比べる。
「あの……」
ニャンコ先生は、フンと鼻を鳴らして再び団子をかじり始めた。
どう詰め寄っても口を割らないと、もう気付いたのかもしれない。
知られることで、どうなるのかは分からない。ならば、秘めておくことに越したことは無いのだ。
災厄など、不用意に招いてはいけない。
「それで、今日はどういうご用件なのかな。周一先輩には、夏目君が知りたいと思ってることに可能な限り答えてやってほしいって言われてるけど」
夏目が知りたいと思っているであろうことや、もしかしたら訊かれるかもしれない内容も、あらかじめ聞いてはいる。
しかし、本人の迷いは本人の口から聞かなければ、答える意味が無い。
唐突に本題に入ったためか、夏目はわたわたしながら湯呑みを置いた。
「あの」
こちらを真っ直ぐに見る眼差し。
しかし、咲耶と目が合った直後、すぐにその視線は逸らされる。
「どうしたの?」
心なしか、そわそわしている様子が気になった。そわそわというか、もじもじというか。
「もじもじ禁止!」
もとよりあまり気が長い方ではないため、つい痺れを切らして語気を強めてしまった。
ハッとしたように、夏目の背筋がピンと伸びる。
「身近にいる大人の女など限られているからな。緊張しているのだ」
「せっ、先生!」
横から口を挟んでくるニャンコ先生に慌て、恥じらいを含んだその横顔は、十代の少年の素顔だった。
このままでは話が逸れたまま進んでしまうと察したのか、軽く咳払いをした夏目は今度こそしっかりと咲耶の目を見る。
「あの、唐突な質問なんですが……神崎さんは、妖が視えるのに祓い人ではないと聞きました。それは、何故なんでしょうか」
硝子のような瞳の奥に宿る真剣な光は、この話題が彼にとってどれほど重要かを物語っている。
「視えるなら、必ず祓い屋にならなきゃいけないの?」
質問への質問。冷たく聞こえたであろう言い方に、夏目の表情が強張ったように見えた。
後悔が、胸を掠める。
視える相手だからといって攻撃的になってしまう悪癖。夏目は祓い人ではないのに。
「……ごめん。きつい言い方だったわ」
伏した視界の端で、夏目がふるふると首を振るのが見えた。
気を取り直して、顔を上げる。
「……神職の家系に生まれたからその道に進もうとしているけど、私は跡継ぎじゃないから、なろうと思えば祓い屋にもなれたと思う。でも……」
身近にいる妖達と、これまでに出会ってきた祓い人達の姿が、次々と脳裏に浮かぶ。
最後に思い浮かんだ祓い人、それは————。
熱を帯びかけた心に、顔を背ける。
「妖だからといって道具のように使い捨てたり。妖だからといって全てが悪いものだと決めつけたり。そういうのが許せないの。そういう連中が大っっ嫌い。だから、私は祓い屋とは違うやり方で、視えないものの影に怯える人達の力になりたいと思った。そのモデルケースが、たまたま神職の祖父だった」
全ての妖が悪いものではないように、祓い人も全てが悪人な訳ではない。頭では理解しているのだが、うまく折り合いが付けられない時もある。
どちらかが白で、どちらかが黒。そんなふうに分かりやすい構図ならいいのにと思ったこともある。
「優先しなければいけないのは、あくまでも"人"。けれど、侵してはいけない"人ではないもの"の領域もある。そのどちらも護りたいから、祓い人ではないこの道に立ってる」
柄にも無く、熱く語ってしまったように思う。
質問への回答になっただろうか。
ふと見ると、夏目は呆然とフリーズしたまま咲耶を見ていた。
ほしい答えではなかったのか。それとも、予想を超えるような返答だったのか。
「……ひとつの質問に、10個くらいのお返しをしたわよ?」
すぐに再起動した夏目は、我に返ったように目をぱちぱちとさせる。