First Light.
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『咲耶、来たようだ』
どこからともなく、ふわりと白い影が降りてきて、柔らかな声音が来客を告げる。
金色の2本の角を戴き、雪の如く白い髪を高い位置で結い上げた、手に乗る程の大きさの小鬼————早天。彼は、こちらの目の高さに浮いたまま、目元を隠した仮面の向こうの視線だけで「行こう」と誘導する。
社務所の前を掃除する手を止めた神崎咲耶は、腕時計に目をやる。
約束の時間まであと10分程。
手早く竹箒を片付けると、"彼ら"を迎えるため鳥居の方へと向かう。
初対面のため出迎えなど不要かと思ったが、一瞬の逡巡よりも好奇心の方が勝った。
今日自分を尋ねてくる夏目貴志という少年は、一体どのような人物なのか。
早天の先導で向かう参道の先には、華やかさこそ無いが昂然と佇む石造りの鳥居がある。
参道の中程まで来た時、鳥居の袂からひょこっと一人の少年が現れた。
痩身、整った顔立ち、儚げでありながら強い意志を秘めた硝子の瞳。
彼が夏目貴志であることは、すぐに分かった。
向こうもこちらに気付いたようだったが、少年の視線は、咲耶よりも咲耶の目の前にいる早天に釘付けになる。
そして、その口が「あっ」と動いた。
突然、木の葉を舞い上げる程の突風が吹いた。直前に、少年が抱えていた丸い猫がふっと姿を消したのを見逃してはいない。
ああ、間違い無い。
名取から聞いていたとおりだ。
閉じていた目をゆっくりと開け、木の葉や砂塵から顔を覆っていた手をどけると、少年がすぐ目の前まで来ていた。
自身の華奢な背に咲耶を庇うように立ち、じっと前を見ている。
その視線の先には、日差しに輝くような白い毛並みの美しい獣がいた。
白い獣の眼前には早天の後ろ姿があり、獣の体躯と比較され一際小さく見える。
早天は微動だにせず、驚きや警戒といった感情の動きは一切見せていないが、白い獣は低い唸り声を上げ明らかに威嚇している。
こちらに敵意など無いし、そもそも敵ではないのだが、どうしたものだろうか。
「……綺麗な妖を連れているのね。さっきの猫でしょう?」
警戒を解くつもりで声をかけると、少年は弾かれたように振り返った。
その表情から見て取れるのは、驚嘆。
やはり、まずは敵ではないことを示そう。
「早天ちゃん、こっちに来て」
いつもどおり、ごく自然な仕草で白い獣に背を向けた小鬼・早天は、そのまますうっと咲耶の傍までやって来る。
白い獣はどろんと煙とともに丸い三毛猫の姿へ戻り、少年の足元へと降りた。
猫は、尚も警戒するような鋭い目で早天を見上げる。
「……この小鬼、こんな姿をしているが恐ろしく強力な大妖だぞ」
その言葉に、少年は咲耶を真っ直ぐに見つめてくる。何かを確かめようとするように。
どうやら怪しまれてしまったらしい。
こんな時、視える相手だからこそ最初のコミュニケーションが難しい。
「驚かせてしまったならごめんね。周一先輩から話は聞いてるわ。はじめまして、私が神崎咲耶よ。白い仮面の小鬼は早天」
さっさと正体を明かし、自分は怪しい者ではないと伝えれば安心してくれるだろうと思ったのだが。
少年は、両手でゴシゴシと目をこすっては、何度も目をしばたたかせる。
「神崎さん……神崎、咲耶さん……?」
「はい」
「えっ……ええええええええ!!?」
何故だろう。さらに驚懼させてしまった。
名取周一は、この少年に何をどう説明していたのだろうか。
「すみませんでした。おれ、神崎咲耶さんっててっきり男の人だと思っていて……」
神崎邸の客間にて、向かいのソファに座る夏目貴志は、申し訳なさそうに縮こまっていた。
大人びた子だと思っていたが、気まずそうであり気恥ずかしそうでもある今の表情は歳相応に見える。
それにしても、名取は詰めが甘い。
「男女どっちにもとれる名前だしねえ。ところで、この猫が噂のニャンコ先生でしょう?不気味な表情がなんとも言えず可愛いわ」
昔に飼っていた愛猫も三毛だったため、妖とはいえ親しみが湧いてくる。
お茶請けの串団子を器用に食べるニャンコ先生を撫でると、つるふかとした形容しがたい不思議な手触りがした。
ふと、団子を頬張りながら目だけが咲耶を見上げた。
「……お前、何かとんでもないものを連れているな」
どこからともなく、ふわりと白い影が降りてきて、柔らかな声音が来客を告げる。
金色の2本の角を戴き、雪の如く白い髪を高い位置で結い上げた、手に乗る程の大きさの小鬼————早天。彼は、こちらの目の高さに浮いたまま、目元を隠した仮面の向こうの視線だけで「行こう」と誘導する。
社務所の前を掃除する手を止めた神崎咲耶は、腕時計に目をやる。
約束の時間まであと10分程。
手早く竹箒を片付けると、"彼ら"を迎えるため鳥居の方へと向かう。
初対面のため出迎えなど不要かと思ったが、一瞬の逡巡よりも好奇心の方が勝った。
今日自分を尋ねてくる夏目貴志という少年は、一体どのような人物なのか。
早天の先導で向かう参道の先には、華やかさこそ無いが昂然と佇む石造りの鳥居がある。
参道の中程まで来た時、鳥居の袂からひょこっと一人の少年が現れた。
痩身、整った顔立ち、儚げでありながら強い意志を秘めた硝子の瞳。
彼が夏目貴志であることは、すぐに分かった。
向こうもこちらに気付いたようだったが、少年の視線は、咲耶よりも咲耶の目の前にいる早天に釘付けになる。
そして、その口が「あっ」と動いた。
突然、木の葉を舞い上げる程の突風が吹いた。直前に、少年が抱えていた丸い猫がふっと姿を消したのを見逃してはいない。
ああ、間違い無い。
名取から聞いていたとおりだ。
閉じていた目をゆっくりと開け、木の葉や砂塵から顔を覆っていた手をどけると、少年がすぐ目の前まで来ていた。
自身の華奢な背に咲耶を庇うように立ち、じっと前を見ている。
その視線の先には、日差しに輝くような白い毛並みの美しい獣がいた。
白い獣の眼前には早天の後ろ姿があり、獣の体躯と比較され一際小さく見える。
早天は微動だにせず、驚きや警戒といった感情の動きは一切見せていないが、白い獣は低い唸り声を上げ明らかに威嚇している。
こちらに敵意など無いし、そもそも敵ではないのだが、どうしたものだろうか。
「……綺麗な妖を連れているのね。さっきの猫でしょう?」
警戒を解くつもりで声をかけると、少年は弾かれたように振り返った。
その表情から見て取れるのは、驚嘆。
やはり、まずは敵ではないことを示そう。
「早天ちゃん、こっちに来て」
いつもどおり、ごく自然な仕草で白い獣に背を向けた小鬼・早天は、そのまますうっと咲耶の傍までやって来る。
白い獣はどろんと煙とともに丸い三毛猫の姿へ戻り、少年の足元へと降りた。
猫は、尚も警戒するような鋭い目で早天を見上げる。
「……この小鬼、こんな姿をしているが恐ろしく強力な大妖だぞ」
その言葉に、少年は咲耶を真っ直ぐに見つめてくる。何かを確かめようとするように。
どうやら怪しまれてしまったらしい。
こんな時、視える相手だからこそ最初のコミュニケーションが難しい。
「驚かせてしまったならごめんね。周一先輩から話は聞いてるわ。はじめまして、私が神崎咲耶よ。白い仮面の小鬼は早天」
さっさと正体を明かし、自分は怪しい者ではないと伝えれば安心してくれるだろうと思ったのだが。
少年は、両手でゴシゴシと目をこすっては、何度も目をしばたたかせる。
「神崎さん……神崎、咲耶さん……?」
「はい」
「えっ……ええええええええ!!?」
何故だろう。さらに驚懼させてしまった。
名取周一は、この少年に何をどう説明していたのだろうか。
「すみませんでした。おれ、神崎咲耶さんっててっきり男の人だと思っていて……」
神崎邸の客間にて、向かいのソファに座る夏目貴志は、申し訳なさそうに縮こまっていた。
大人びた子だと思っていたが、気まずそうであり気恥ずかしそうでもある今の表情は歳相応に見える。
それにしても、名取は詰めが甘い。
「男女どっちにもとれる名前だしねえ。ところで、この猫が噂のニャンコ先生でしょう?不気味な表情がなんとも言えず可愛いわ」
昔に飼っていた愛猫も三毛だったため、妖とはいえ親しみが湧いてくる。
お茶請けの串団子を器用に食べるニャンコ先生を撫でると、つるふかとした形容しがたい不思議な手触りがした。
ふと、団子を頬張りながら目だけが咲耶を見上げた。
「……お前、何かとんでもないものを連れているな」
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