-introduction-
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「夏目、咲耶さんは"的場"と関わりのある人なんだ」
————的場
その名に、胸の奥がざわめいた。
あの男が脳裏で笑う。
的場一門が見せる夏目貴志への執着。そして、彼らへ対する夏目の心情。
それらを知っていながら、この人は的場と関わりのある人物を紹介しようとしていたのか。
だとしたら、一体どんな思いで。
「夏目」
名取の強い声に、思わずびくりと肩を縮める。
「隠していた訳じゃない。最初に打ち明けてしまったら、夏目は会わないという選択をしたかもしれない。だから、言わなかった。私がいれば万が一があっても護ってやれると思ったから。……それに、関わりがあるのは的場一門とではなく、咲耶さんと的場静司個人だ」
どうにか胸のざわつきを鎮め、名取の話に耳を傾ける。
気付けば、ニャンコ先生がバッグから顔を出しており、その目が夕暮れの下で爛々と光っている。
「……どうしても、君に会わないという選択をしてほしくなかったんだ。咲耶さんに会ってみてほしい。強く清廉で、光すらも従えるような、あの人に」
眼鏡の奥の真っ直ぐな目は、嘘を言っているようには見えなかった。
危険があるかもしれないと感じながら、最善のルートで示された先にいる人が、悪い人や怖い人であるはずが無い。
夏目の頭の中で、天秤が揺れる。
「……神崎咲耶さんは、本当に"的場一門"とは関係無いんですね?」
その問いに、少しだけ名取の表情が和らいだ。
「ああ。むしろ、咲耶さんは的場一門を嫌っている。まぁ……祓い屋を一様に嫌っている人なんだけどね」
「嫌って……」
嫌っているというのに、祓い屋である的場静司と個人的な関わりがあるとは、一体どういうことなのだろうか。
まだ見ぬ神崎咲耶という人の周りに、複雑に絡む糸のようなものが見えた。
名取は、夏目の顔をちらと見てかすかに微笑んだ。
「何が、とは分からないけれど、君と咲耶さんは似ている気がするんだ。だから、引き合わせたいと思った」
言いながら、信号が青に変わった横断歩道を進み始める。
「でも、もう無理にとは言わない。この話を聞いて会う気が無くなったなら、それでいいし。もし、私の都合のつく日を待ってくれるなら、それから会いに行ってもいい」
一拍おいて、その後に続く。
前を行く背中を見つめながら、この人はどんな思いで神崎咲耶という人を紹介してくれようとしていたのかを考えた。
妖が視えるというのに祓い人を肯定できず、だというのに、心のどこかでは妖から身を護るすべを探している自分。そこに、新しい道を示そうとしてくれているのかもしれない。
そうであるのなら、そこに他意などは無いはず。
名取が神崎咲耶を信じると言うなら、自分はその名取を信じるだけ。
今は、的場の影には怯まない。
「名取さん」
駆け足で、歩幅の大きい名取の横に並んだ。
「おれ、会いに行きます。会ってみたいです、咲耶さんに」
こちらを見下ろした名取は目を丸くしたが、すぐにいつもの本心の見えない笑みを浮かべた。
「今度は、ちゃんと先方の都合も確認しておくよ」
本心は見えなくとも、その笑顔はどこか嬉しそうで、安堵しているようにも見えた。
「的場に、神崎か。一度に食べきれるか不安だな」
不安だと言いながらも、爛々と目を輝かせたニャンコ先生は不気味に舌舐めずりをする。
「先生、神崎さんは食べていい人じゃないからな」
「……できれば、的場も食べないでやってほしいな」
どうにも冗談に聞こえないと言いたげな名取の笑顔が引きつった。
夏目は、ニャンコ先生の頭をポンと叩く。
福と禍が表と裏にあるような、妙な期待に胸が騒いだ。
神崎咲耶とは、一体どんな人なのか。どんな世界を視、どのように妖と接しているのか。
不安と緊張が心の中で押し合うのに、それでも少し楽しみだと思ってしまう。
新しい出会いがよい出会いでありますように。
そして、どうか、名取の気遣いに応えることが出来ますように。
fin.
————的場
その名に、胸の奥がざわめいた。
あの男が脳裏で笑う。
的場一門が見せる夏目貴志への執着。そして、彼らへ対する夏目の心情。
それらを知っていながら、この人は的場と関わりのある人物を紹介しようとしていたのか。
だとしたら、一体どんな思いで。
「夏目」
名取の強い声に、思わずびくりと肩を縮める。
「隠していた訳じゃない。最初に打ち明けてしまったら、夏目は会わないという選択をしたかもしれない。だから、言わなかった。私がいれば万が一があっても護ってやれると思ったから。……それに、関わりがあるのは的場一門とではなく、咲耶さんと的場静司個人だ」
どうにか胸のざわつきを鎮め、名取の話に耳を傾ける。
気付けば、ニャンコ先生がバッグから顔を出しており、その目が夕暮れの下で爛々と光っている。
「……どうしても、君に会わないという選択をしてほしくなかったんだ。咲耶さんに会ってみてほしい。強く清廉で、光すらも従えるような、あの人に」
眼鏡の奥の真っ直ぐな目は、嘘を言っているようには見えなかった。
危険があるかもしれないと感じながら、最善のルートで示された先にいる人が、悪い人や怖い人であるはずが無い。
夏目の頭の中で、天秤が揺れる。
「……神崎咲耶さんは、本当に"的場一門"とは関係無いんですね?」
その問いに、少しだけ名取の表情が和らいだ。
「ああ。むしろ、咲耶さんは的場一門を嫌っている。まぁ……祓い屋を一様に嫌っている人なんだけどね」
「嫌って……」
嫌っているというのに、祓い屋である的場静司と個人的な関わりがあるとは、一体どういうことなのだろうか。
まだ見ぬ神崎咲耶という人の周りに、複雑に絡む糸のようなものが見えた。
名取は、夏目の顔をちらと見てかすかに微笑んだ。
「何が、とは分からないけれど、君と咲耶さんは似ている気がするんだ。だから、引き合わせたいと思った」
言いながら、信号が青に変わった横断歩道を進み始める。
「でも、もう無理にとは言わない。この話を聞いて会う気が無くなったなら、それでいいし。もし、私の都合のつく日を待ってくれるなら、それから会いに行ってもいい」
一拍おいて、その後に続く。
前を行く背中を見つめながら、この人はどんな思いで神崎咲耶という人を紹介してくれようとしていたのかを考えた。
妖が視えるというのに祓い人を肯定できず、だというのに、心のどこかでは妖から身を護るすべを探している自分。そこに、新しい道を示そうとしてくれているのかもしれない。
そうであるのなら、そこに他意などは無いはず。
名取が神崎咲耶を信じると言うなら、自分はその名取を信じるだけ。
今は、的場の影には怯まない。
「名取さん」
駆け足で、歩幅の大きい名取の横に並んだ。
「おれ、会いに行きます。会ってみたいです、咲耶さんに」
こちらを見下ろした名取は目を丸くしたが、すぐにいつもの本心の見えない笑みを浮かべた。
「今度は、ちゃんと先方の都合も確認しておくよ」
本心は見えなくとも、その笑顔はどこか嬉しそうで、安堵しているようにも見えた。
「的場に、神崎か。一度に食べきれるか不安だな」
不安だと言いながらも、爛々と目を輝かせたニャンコ先生は不気味に舌舐めずりをする。
「先生、神崎さんは食べていい人じゃないからな」
「……できれば、的場も食べないでやってほしいな」
どうにも冗談に聞こえないと言いたげな名取の笑顔が引きつった。
夏目は、ニャンコ先生の頭をポンと叩く。
福と禍が表と裏にあるような、妙な期待に胸が騒いだ。
神崎咲耶とは、一体どんな人なのか。どんな世界を視、どのように妖と接しているのか。
不安と緊張が心の中で押し合うのに、それでも少し楽しみだと思ってしまう。
新しい出会いがよい出会いでありますように。
そして、どうか、名取の気遣いに応えることが出来ますように。
fin.
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