-introduction-
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なんと表現したらいいのか分からない。ただ、この切り返しや仕草に、これまで出会ってきた視える人達とは違う何か————この人の人柄を見た気がした。
隣にいた名取が、小さく笑い声をこぼす。
「夏目、大丈夫。この人も視える人なんだよ」
「え?ええ、すみません。前もってこの方の話を聞いていたのに……つい条件反射になってしまって」
話題の中心であった神崎咲耶その人を前に、ニャンコ先生の正体を隠そうとしてしどろもどろになった自分を思い返せば、顔から火が出そうだ。
もしも、対面した相手が視える人かどうかを判断することが出来たなら、もっと自然なコミュニケーションが取れるのだろうか。
一瞬、名取の頭上に「?」マークが浮かんだように見えた。
その向かいで、老宮司は腕組みをして首を傾げる。
「なんだ、俺の話をしながら来たのか?俺も有名人になったもんだな」
それは冗談混じりの口調だったが、名取は急にあたふたし始めた。
「いや、えーと……そうなんですが、そうではなくて……。あ、夏目、紹介が遅れたけど、こちらは神崎咲耶さんの"お祖父さん"だよ」
今度は、夏目の頭上に「?」マークが浮かぶ番だった。
名取の知り合いという単純な先入観から、神崎咲耶という人はこの人だと思っていた。
夏目の表情や反応から大体の事情を察したらしい神崎氏は、ゆったりと頷く。
「まあ、そうだろうな。妖力は持っているようだが、こんな若い子が俺を"その筋の人"として訪ねてくる訳が無いな」
「すっ……すみません!」
がっかりさせてしまっただろうかと謝れば、神崎氏は「いいんだよ」とまた豪快に笑う。
「夏目、この人も強い妖力を持つ人でね。我々祓い屋の間では生きる伝説って有名だし、恐れられてもいるんだよ」
直後、「大袈裟だな」と笑った神崎氏に背中を叩かれ、その衝撃で名取の眼鏡がまた吹っ飛んでいた。
妖力を持ち、尚且つ神に仕える身だからこそ、ただ力を持つだけの術師とは違う能力を持っている。それがきっと、あの千里眼だ。
ふと、頭の片隅で田沼の父親のことを思い出していた。
眼鏡を掛け直した名取が、苦笑を浮かべて神崎氏を見る。
「……それで、咲耶さんが戻ってきていると聞いて伺いました。お気付きかと思いますが、彼……夏目貴志も視えるので紹介しておきたいと」
名取の話を聞きながら、神崎氏は夏目の瞳の奥を見据え、深く一度だけ頷いた。
心を読み、全て把握したと言われているような、それでも不思議と嫌な感じはしない。
神崎氏は、これまでとは一転して眉尻を下げた。
「せっかく来てくれたのに申し訳ない」
「え」
「戻ってはきているが、就職したのは別の神社でな。今うちにはおらんよ」
思わず名取を見上げれば、同じタイミングで名取も夏目を見下ろした。
「名取さん、事前に確認をしていた訳じゃないんですか?」
「うぐ……」
夏目の腕に抱えられたニャンコ先生が、つまらなさそうに溜め息をついた。
「裏目の名取再び」
「うるさいぞ、猫だるま」
急激に名取のキラキラが陰っていく。そのまま、落胆を隠さずに帽子を被り直した。
「……来れば、割といつでも会えた子供の頃とは違いますね」
神崎氏に話しかける横顔には、昔を懐かしむような郷愁を帯びた表情が浮かんでいる。
「名取さんと、咲耶さんという方は長い付き合いなんですか?」
「まあ……そうだね。学年は違うけど同じ中学の出身なんだ。きちんと知り合ったのは、私が卒業した後なんだけど」
名取の学生時代など夏目が知るはずもないのに、今ここにいる名取周一には、あの頃の————駆け出しの祓い人だった頃の面影がある。
そんな錯覚をするくらいに、目の前の名取の表情は歳相応に明るく、良い意味で幼い感じさえする。
「お互い大人になったんだよ。とはいえ、二度と会えなくなった訳でもないだろう。お前さん達が来たことは伝えておくよ。夏目君も、今度は是非孫に会ってやってくれ」
不意に大きな手でわしわしと頭を撫でられ温かい気持ちになったのに、どう反応していいか分からず、結局照れ臭く言葉に詰まってしまう。
視える人と知り合えたのに、それが貴重な理解者かもしれないのに、相手が視える人だからこそ、そういう人との交流が不得意な自分にもどかしくなる。
今度、神崎咲耶という人に会った時には、訊きたいことを訊けるだろうか。自分のことを話せるだろうか。
それから間もなく、2人と1匹は神社を後にした。
「夏目、今日は悪かったね」
隣を歩く名取は、心底申し訳無さそうな顔をする。
「私は明日から撮影に入ってしまうから、またしばらく君とは会えなくなるし……」
なんとなく恋人へ言うような台詞だと感じ、急に気色が悪くなった。
しかし、名取は何かを心配しているようで。
「……名取さん、あの神社へならおれ一人でも行けますよ?交通のアクセスもいいし、神崎さんも優しい人だったし」
今後会おうとしている神崎咲耶という人物も、あの人の孫であるなら悪い人のはずが無い。
横断歩道で立ち止まった名取が、夏目を見下ろす。
その目に笑みは無く、ハッとする程の不穏な空気を感じ取った。
「咲耶さんは信用に値する人だ。それは私が保証する。けれど、万が一を考えてしまう。だから、私が付いていれば安心だと思ったんだ。私と夏目の予定が合う、今日がベストタイミングだったんだよ」
一体、なんのことを言っているのか。趣旨が見えないからこそ不安になった。
名取は、意を決したように息を吐く。
隣にいた名取が、小さく笑い声をこぼす。
「夏目、大丈夫。この人も視える人なんだよ」
「え?ええ、すみません。前もってこの方の話を聞いていたのに……つい条件反射になってしまって」
話題の中心であった神崎咲耶その人を前に、ニャンコ先生の正体を隠そうとしてしどろもどろになった自分を思い返せば、顔から火が出そうだ。
もしも、対面した相手が視える人かどうかを判断することが出来たなら、もっと自然なコミュニケーションが取れるのだろうか。
一瞬、名取の頭上に「?」マークが浮かんだように見えた。
その向かいで、老宮司は腕組みをして首を傾げる。
「なんだ、俺の話をしながら来たのか?俺も有名人になったもんだな」
それは冗談混じりの口調だったが、名取は急にあたふたし始めた。
「いや、えーと……そうなんですが、そうではなくて……。あ、夏目、紹介が遅れたけど、こちらは神崎咲耶さんの"お祖父さん"だよ」
今度は、夏目の頭上に「?」マークが浮かぶ番だった。
名取の知り合いという単純な先入観から、神崎咲耶という人はこの人だと思っていた。
夏目の表情や反応から大体の事情を察したらしい神崎氏は、ゆったりと頷く。
「まあ、そうだろうな。妖力は持っているようだが、こんな若い子が俺を"その筋の人"として訪ねてくる訳が無いな」
「すっ……すみません!」
がっかりさせてしまっただろうかと謝れば、神崎氏は「いいんだよ」とまた豪快に笑う。
「夏目、この人も強い妖力を持つ人でね。我々祓い屋の間では生きる伝説って有名だし、恐れられてもいるんだよ」
直後、「大袈裟だな」と笑った神崎氏に背中を叩かれ、その衝撃で名取の眼鏡がまた吹っ飛んでいた。
妖力を持ち、尚且つ神に仕える身だからこそ、ただ力を持つだけの術師とは違う能力を持っている。それがきっと、あの千里眼だ。
ふと、頭の片隅で田沼の父親のことを思い出していた。
眼鏡を掛け直した名取が、苦笑を浮かべて神崎氏を見る。
「……それで、咲耶さんが戻ってきていると聞いて伺いました。お気付きかと思いますが、彼……夏目貴志も視えるので紹介しておきたいと」
名取の話を聞きながら、神崎氏は夏目の瞳の奥を見据え、深く一度だけ頷いた。
心を読み、全て把握したと言われているような、それでも不思議と嫌な感じはしない。
神崎氏は、これまでとは一転して眉尻を下げた。
「せっかく来てくれたのに申し訳ない」
「え」
「戻ってはきているが、就職したのは別の神社でな。今うちにはおらんよ」
思わず名取を見上げれば、同じタイミングで名取も夏目を見下ろした。
「名取さん、事前に確認をしていた訳じゃないんですか?」
「うぐ……」
夏目の腕に抱えられたニャンコ先生が、つまらなさそうに溜め息をついた。
「裏目の名取再び」
「うるさいぞ、猫だるま」
急激に名取のキラキラが陰っていく。そのまま、落胆を隠さずに帽子を被り直した。
「……来れば、割といつでも会えた子供の頃とは違いますね」
神崎氏に話しかける横顔には、昔を懐かしむような郷愁を帯びた表情が浮かんでいる。
「名取さんと、咲耶さんという方は長い付き合いなんですか?」
「まあ……そうだね。学年は違うけど同じ中学の出身なんだ。きちんと知り合ったのは、私が卒業した後なんだけど」
名取の学生時代など夏目が知るはずもないのに、今ここにいる名取周一には、あの頃の————駆け出しの祓い人だった頃の面影がある。
そんな錯覚をするくらいに、目の前の名取の表情は歳相応に明るく、良い意味で幼い感じさえする。
「お互い大人になったんだよ。とはいえ、二度と会えなくなった訳でもないだろう。お前さん達が来たことは伝えておくよ。夏目君も、今度は是非孫に会ってやってくれ」
不意に大きな手でわしわしと頭を撫でられ温かい気持ちになったのに、どう反応していいか分からず、結局照れ臭く言葉に詰まってしまう。
視える人と知り合えたのに、それが貴重な理解者かもしれないのに、相手が視える人だからこそ、そういう人との交流が不得意な自分にもどかしくなる。
今度、神崎咲耶という人に会った時には、訊きたいことを訊けるだろうか。自分のことを話せるだろうか。
それから間もなく、2人と1匹は神社を後にした。
「夏目、今日は悪かったね」
隣を歩く名取は、心底申し訳無さそうな顔をする。
「私は明日から撮影に入ってしまうから、またしばらく君とは会えなくなるし……」
なんとなく恋人へ言うような台詞だと感じ、急に気色が悪くなった。
しかし、名取は何かを心配しているようで。
「……名取さん、あの神社へならおれ一人でも行けますよ?交通のアクセスもいいし、神崎さんも優しい人だったし」
今後会おうとしている神崎咲耶という人物も、あの人の孫であるなら悪い人のはずが無い。
横断歩道で立ち止まった名取が、夏目を見下ろす。
その目に笑みは無く、ハッとする程の不穏な空気を感じ取った。
「咲耶さんは信用に値する人だ。それは私が保証する。けれど、万が一を考えてしまう。だから、私が付いていれば安心だと思ったんだ。私と夏目の予定が合う、今日がベストタイミングだったんだよ」
一体、なんのことを言っているのか。趣旨が見えないからこそ不安になった。
名取は、意を決したように息を吐く。