in the gloaming.
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「東雲、私が悪かったわ。……気を付ける。でも、勝手に動いたのは私の判断だから。夏目君は悪くない」
夏目を庇うように前へ出れば、東雲はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
あの時、夏目に言った言葉は本心なのだ。
「夏目君、私はあてにしてもらえて嬉しかったよ。今度また何かあった時には私も君をあてにさせてもらうから、その時は、よろしくね。……でもまあ、妖絡みで何かあっても、なるべく素人を巻き込まないようにするけど」
視るだけではなく、同じ感覚を抱ける友人。出来ることなら失いたくないと思う。
東雲の刺さるような視線を背中に受けながら言い終えると、夏目の表情には控えめな笑顔が戻っていた。
それは、先に咲耶が笑ったからだろうか。
「おれ、逃げ足鍛えておきますね!」
「戦わんのだな」
テンポのよい夏目とニャンコ先生のやり取りに、つい声を出して笑ってしまう。
「……じゃあ、帰ろっか」
こちらの世界に時間の流れは無いが、腕時計を見ればすっかり日が暮れる頃となっていた。
「あの」
人の世界へ戻ろうとした時、ふと夏目に呼び止められる。
振り返った咲耶の目を見た時、夏目は言いかけた何かを呑み込んだ。
「あ、妖を自分の式にするには、強制的な契約の術が必要だと思ってました。けれど、あんなふうに……妖の方から契約を、友好を求められることもあるんですね」
「そうね、とても稀なことだけどね。……ねえ、今何を言いかけたの?」
言いにくいことだとしたら、何か理由があるのか。
訊いても答えられないようなら問い詰めるのはやめようと思ったのだが、少しばかりの逡巡ののち、夏目は思い切ったように口を開いた。
「あの妖……陽炎の君が言っていた″尊きを継ぐ者″って、神崎さんのことですか?だとしたら、それはどういう……」
それは何かを探りたいからではなく、視える者から見える者への純粋な好奇心のようだった。
「すみません。何でもかんでも質問してしまうのは、あまりよくないかと思って」
それで一度は言葉を呑み込んだのか、夏目は気恥ずかしそうに咲耶から目を逸らす。
夏目の言動に微笑ましく思ったが、しかし、彼の足元ではニャンコ先生がじっとこちらを見ていた。
「……教えてあげてもいいけど」
『咲耶』
案の定、東雲が止めに入るが、それを手で押し退ける。
「教えてあげてもいいけど、その時は、君の秘密も教えてもらわなきゃいけないわよ」
夏目の表情から、さっと笑みと血の気が消え失せる。
代わりに咲耶がニコリと笑って見せた。
「言えないでしょう?そういうことよ。……まあ、今はね」
言い終えるか終えないかのタイミングで、『帰るぞ』というあまり機嫌のよくない東雲の一言が差し込まれる。
咲耶も夏目もそれ以上言及することは無く、この話題は打ち切られた。
咲耶が続けた言葉に″友人帳″の存在に気付かれたわけではないと安堵したのか、夏目はほっとしたようにいつもの表情を見せる。
それを確認すると、ようやく妖の世を後にした。
いつか、話さなければいけない時が来るに違い無い。それは、咲耶からか、それとも夏目の方からかは分からないが。
「……お互い、背負うものは大きいわね」
「えっ、何ですか?」
「ううん、何でもないよ」
望んで背負った者も、意図せず背負うことになった者もいるのだろう。
ただ、視える者には、こうも″業″というものが付いて回るのだなと思う。
だからと言って、傷の舐め合いはごめんだ。
咲耶にとって支えてくれる人や妖がいるように、自分もまた、夏目にとってのそのような存在の一人になれたらいいと願うだけ。
「すっかり暗くなっちゃったわね。◯◯線で帰るなら、そっちの駅まで送っていくわ」
妖の世への入り口だった公園へ戻ると、夕方どころか既に夜になっていた。
「あ……えっと、おれが神崎さんを送って行きます。前回も送ってもらっちゃいましたし」
「気持ちはありがたいけど、かっこつけるには十年早いんじゃない?未成年連れ回して何かあったら怒られるのは私の方なのよ!」
つい早口で捲し立てれば、夏目は「すすすすみません!」と震え上がった。
その姿を見て、ニャンコ先生と東雲が吹き出す。
「さ、とっとと帰るわよ」
「はい!」
声を掛ければ、子犬か子分か舎弟のように付いて来る夏目を可愛らしく思いながら、本当の意味での帰路に着く。
帰った先で待つ人が、他人を気遣える心優しい夏目を、笑って出迎えてくれますように。その人達が、いつか彼の過去と今を労ってくれますように。
「神崎さん、今日はありがとうございました」
「……それって何のお礼?別にいいけど」
今日一日を総評するような一言に、思わず笑ってしまう。
あの陽炎の君にとっての新しい世界にも、どうか、彼女を労ってくれる存在が出来ますように。
fin.
夏目を庇うように前へ出れば、東雲はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
あの時、夏目に言った言葉は本心なのだ。
「夏目君、私はあてにしてもらえて嬉しかったよ。今度また何かあった時には私も君をあてにさせてもらうから、その時は、よろしくね。……でもまあ、妖絡みで何かあっても、なるべく素人を巻き込まないようにするけど」
視るだけではなく、同じ感覚を抱ける友人。出来ることなら失いたくないと思う。
東雲の刺さるような視線を背中に受けながら言い終えると、夏目の表情には控えめな笑顔が戻っていた。
それは、先に咲耶が笑ったからだろうか。
「おれ、逃げ足鍛えておきますね!」
「戦わんのだな」
テンポのよい夏目とニャンコ先生のやり取りに、つい声を出して笑ってしまう。
「……じゃあ、帰ろっか」
こちらの世界に時間の流れは無いが、腕時計を見ればすっかり日が暮れる頃となっていた。
「あの」
人の世界へ戻ろうとした時、ふと夏目に呼び止められる。
振り返った咲耶の目を見た時、夏目は言いかけた何かを呑み込んだ。
「あ、妖を自分の式にするには、強制的な契約の術が必要だと思ってました。けれど、あんなふうに……妖の方から契約を、友好を求められることもあるんですね」
「そうね、とても稀なことだけどね。……ねえ、今何を言いかけたの?」
言いにくいことだとしたら、何か理由があるのか。
訊いても答えられないようなら問い詰めるのはやめようと思ったのだが、少しばかりの逡巡ののち、夏目は思い切ったように口を開いた。
「あの妖……陽炎の君が言っていた″尊きを継ぐ者″って、神崎さんのことですか?だとしたら、それはどういう……」
それは何かを探りたいからではなく、視える者から見える者への純粋な好奇心のようだった。
「すみません。何でもかんでも質問してしまうのは、あまりよくないかと思って」
それで一度は言葉を呑み込んだのか、夏目は気恥ずかしそうに咲耶から目を逸らす。
夏目の言動に微笑ましく思ったが、しかし、彼の足元ではニャンコ先生がじっとこちらを見ていた。
「……教えてあげてもいいけど」
『咲耶』
案の定、東雲が止めに入るが、それを手で押し退ける。
「教えてあげてもいいけど、その時は、君の秘密も教えてもらわなきゃいけないわよ」
夏目の表情から、さっと笑みと血の気が消え失せる。
代わりに咲耶がニコリと笑って見せた。
「言えないでしょう?そういうことよ。……まあ、今はね」
言い終えるか終えないかのタイミングで、『帰るぞ』というあまり機嫌のよくない東雲の一言が差し込まれる。
咲耶も夏目もそれ以上言及することは無く、この話題は打ち切られた。
咲耶が続けた言葉に″友人帳″の存在に気付かれたわけではないと安堵したのか、夏目はほっとしたようにいつもの表情を見せる。
それを確認すると、ようやく妖の世を後にした。
いつか、話さなければいけない時が来るに違い無い。それは、咲耶からか、それとも夏目の方からかは分からないが。
「……お互い、背負うものは大きいわね」
「えっ、何ですか?」
「ううん、何でもないよ」
望んで背負った者も、意図せず背負うことになった者もいるのだろう。
ただ、視える者には、こうも″業″というものが付いて回るのだなと思う。
だからと言って、傷の舐め合いはごめんだ。
咲耶にとって支えてくれる人や妖がいるように、自分もまた、夏目にとってのそのような存在の一人になれたらいいと願うだけ。
「すっかり暗くなっちゃったわね。◯◯線で帰るなら、そっちの駅まで送っていくわ」
妖の世への入り口だった公園へ戻ると、夕方どころか既に夜になっていた。
「あ……えっと、おれが神崎さんを送って行きます。前回も送ってもらっちゃいましたし」
「気持ちはありがたいけど、かっこつけるには十年早いんじゃない?未成年連れ回して何かあったら怒られるのは私の方なのよ!」
つい早口で捲し立てれば、夏目は「すすすすみません!」と震え上がった。
その姿を見て、ニャンコ先生と東雲が吹き出す。
「さ、とっとと帰るわよ」
「はい!」
声を掛ければ、子犬か子分か舎弟のように付いて来る夏目を可愛らしく思いながら、本当の意味での帰路に着く。
帰った先で待つ人が、他人を気遣える心優しい夏目を、笑って出迎えてくれますように。その人達が、いつか彼の過去と今を労ってくれますように。
「神崎さん、今日はありがとうございました」
「……それって何のお礼?別にいいけど」
今日一日を総評するような一言に、思わず笑ってしまう。
あの陽炎の君にとっての新しい世界にも、どうか、彼女を労ってくれる存在が出来ますように。
fin.
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