in the gloaming.
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こちらは人の世界ではないからこそ、術もより鮮明に発揮されることを知っている。
咲耶を中心にして広がった鮮烈な光の同心円は、どんよりとした重たい邪気を押し流しながら、小面 の妖を呑み込む。
「……蓮葉 の にごりに染まぬ 心もて なにかは露を 玉と欺く」
白い光に覆われた向こうで、ぱんと何かが割れるような音がした。直後、光はさらさらと風に吹かれるようにして消えていく。
「夏目君、ニャンコ先生、大丈夫?」
「はい……あっ」
咲耶の問いに答えながらも、妖がいた場所から目を離さずにいた夏目が、それを見付ける。
消え去った光が残していったのは、中空に浮かぶしっとりと美しい小面 の面。
不気味な邪気の塊だった黒い体はもう無く、その面だけが咲耶達を見下ろしていた。
その時、咲耶の傍にどろんと紅白の影が現れる。
『陽炎の君。お前、まだ人の世にいたのか』
『咲耶、探したぞ』
東雲と早天が、それぞれ咲耶の目の高さへと下りて来る。
『…… 神崎…… 咲耶…………』
柔らかな女性の声が誰のものであるのか、瞬時に理解出来なかった。
声の方向を見上げると、陽炎の君と呼ばれた妖の目から、涙のようなものが一滴落ちる。
「……また泣いてるのね」
それは、浄化の一滴であることを知っている。
『ありがとう……そして、無礼を……ゆ許してほしい…………』
「もういいわ。私は貴女の気持ちが分かってしまう。けれど、自由になった貴女が幸福であること、それが一番の復讐でしょう。憎しみに負けて、あんな祓い屋のように汚れることはないわ」
心優しく清いもの。その弱さにつけ入られ、また、その弱さが招いた今回の一件だったのだ。
しかし、きっと弱さは罪ではない。
このような妖が、いつまでも人の世にいてはいけない。
『神崎咲耶……お、お前のような人間になら、魂を……預けてもいい…………』
それは、すなわち「式」として契約を交わしてもいいということ。
陽炎の君の申し出に、夏目がちらとこちらを見た。
「丁重にお断りするわよ。けど、私達もう顔も名前も知ってるし、喧嘩して仲直りしたみたいなものだし、友達にはなれそうじゃない?……妖は妖らしく、自由でいればいいのよ」
偽らざる気持ちを言葉にすれば、表情を持たないはずの陽炎の君がかすかに微笑んだように見えた。
『では、咲耶。彼女のことは隠世 の都へ連れていく』
「うん、お願いね」
早天に導かれた陽炎の君は、その途中で咲耶を振り返る。
『と尊きを、継ぐ……者。そし、て、名も知らぬ人の子……と、け、獣よ。……ありがとう…………さらば……』
迷わず手を振る夏目につられ、手を振った。
どうか、二度と人間の手などにかかりませんように。
「神崎さんの答えに、笑ってくれてましたね」
陽炎の君が去った方向を見つめたままの夏目の横顔は、緊張が解けたようにほっとしていた。
表面には現れなかったはずのあの妖の心に、気付いてくれている。同じ景色を視、同じ気持ちを抱いてくれている。
それはとても貴重で、とても嬉しいことだ。
「妖は妖らしく、自由に……か」
夏目の表情は変わらないが、咲耶の言った言葉を噛み締めるように反芻する。
妖を従わせ、時には道具のように扱う祓い人を思い浮かべたのだろうか。彼らと対になるような立場の咲耶を見て、どう思ったのだろうか。
もちろん、祓い人だから悪だとか、そうではないから正義だとか、そういうことではない。それは、きっと夏目も分かっていると思うのだが。
咲耶自身も、人ではないものとの強制的な契約の経験はある。無知ゆえに、好奇心ゆえに。
『咲耶』
不意に、小さな何かにペちっと頬を叩かれた。それが東雲の手だったと気付くまでに、そう時間はかからなかった。
『妖と関わるときは俺達を呼べって言ってあるよな……?お前の手に負えない奴だったらどうするつもりだった』
仮面の奥の銀色の瞳は、射るように咲耶を見つめていて、目を逸らすことが出来ない。
彼ら鬼達の気持ちは分かっている。
「東雲は心配性なんだな」
傍で、夏目のふふと笑う声がした。
しかし、
『……おい、ガキ。てめえも都合よく咲耶をあてにしてんじゃねえぞ』
にわかに低められた声音に、肌の上をぴりと電流が走ったような感覚がした。
東雲にひと睨みされた夏目も、ニャンコ先生までも、表情をこわばらせて立ちすくむ。
咲耶を中心にして広がった鮮烈な光の同心円は、どんよりとした重たい邪気を押し流しながら、
「……
白い光に覆われた向こうで、ぱんと何かが割れるような音がした。直後、光はさらさらと風に吹かれるようにして消えていく。
「夏目君、ニャンコ先生、大丈夫?」
「はい……あっ」
咲耶の問いに答えながらも、妖がいた場所から目を離さずにいた夏目が、それを見付ける。
消え去った光が残していったのは、中空に浮かぶしっとりと美しい
不気味な邪気の塊だった黒い体はもう無く、その面だけが咲耶達を見下ろしていた。
その時、咲耶の傍にどろんと紅白の影が現れる。
『陽炎の君。お前、まだ人の世にいたのか』
『咲耶、探したぞ』
東雲と早天が、それぞれ咲耶の目の高さへと下りて来る。
『…… 神崎…… 咲耶…………』
柔らかな女性の声が誰のものであるのか、瞬時に理解出来なかった。
声の方向を見上げると、陽炎の君と呼ばれた妖の目から、涙のようなものが一滴落ちる。
「……また泣いてるのね」
それは、浄化の一滴であることを知っている。
『ありがとう……そして、無礼を……ゆ許してほしい…………』
「もういいわ。私は貴女の気持ちが分かってしまう。けれど、自由になった貴女が幸福であること、それが一番の復讐でしょう。憎しみに負けて、あんな祓い屋のように汚れることはないわ」
心優しく清いもの。その弱さにつけ入られ、また、その弱さが招いた今回の一件だったのだ。
しかし、きっと弱さは罪ではない。
このような妖が、いつまでも人の世にいてはいけない。
『神崎咲耶……お、お前のような人間になら、魂を……預けてもいい…………』
それは、すなわち「式」として契約を交わしてもいいということ。
陽炎の君の申し出に、夏目がちらとこちらを見た。
「丁重にお断りするわよ。けど、私達もう顔も名前も知ってるし、喧嘩して仲直りしたみたいなものだし、友達にはなれそうじゃない?……妖は妖らしく、自由でいればいいのよ」
偽らざる気持ちを言葉にすれば、表情を持たないはずの陽炎の君がかすかに微笑んだように見えた。
『では、咲耶。彼女のことは
「うん、お願いね」
早天に導かれた陽炎の君は、その途中で咲耶を振り返る。
『と尊きを、継ぐ……者。そし、て、名も知らぬ人の子……と、け、獣よ。……ありがとう…………さらば……』
迷わず手を振る夏目につられ、手を振った。
どうか、二度と人間の手などにかかりませんように。
「神崎さんの答えに、笑ってくれてましたね」
陽炎の君が去った方向を見つめたままの夏目の横顔は、緊張が解けたようにほっとしていた。
表面には現れなかったはずのあの妖の心に、気付いてくれている。同じ景色を視、同じ気持ちを抱いてくれている。
それはとても貴重で、とても嬉しいことだ。
「妖は妖らしく、自由に……か」
夏目の表情は変わらないが、咲耶の言った言葉を噛み締めるように反芻する。
妖を従わせ、時には道具のように扱う祓い人を思い浮かべたのだろうか。彼らと対になるような立場の咲耶を見て、どう思ったのだろうか。
もちろん、祓い人だから悪だとか、そうではないから正義だとか、そういうことではない。それは、きっと夏目も分かっていると思うのだが。
咲耶自身も、人ではないものとの強制的な契約の経験はある。無知ゆえに、好奇心ゆえに。
『咲耶』
不意に、小さな何かにペちっと頬を叩かれた。それが東雲の手だったと気付くまでに、そう時間はかからなかった。
『妖と関わるときは俺達を呼べって言ってあるよな……?お前の手に負えない奴だったらどうするつもりだった』
仮面の奥の銀色の瞳は、射るように咲耶を見つめていて、目を逸らすことが出来ない。
彼ら鬼達の気持ちは分かっている。
「東雲は心配性なんだな」
傍で、夏目のふふと笑う声がした。
しかし、
『……おい、ガキ。てめえも都合よく咲耶をあてにしてんじゃねえぞ』
にわかに低められた声音に、肌の上をぴりと電流が走ったような感覚がした。
東雲にひと睨みされた夏目も、ニャンコ先生までも、表情をこわばらせて立ちすくむ。