in the gloaming.
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この妖は、本当に復讐を望んでいるのだろうか。
水神の山で咲耶達を襲おうとしながら涙を流した、心優しきもの。
『……そう、だ』
————違う。
『あ、あの、に人間は……お前にも、ぶ、ぶ、無礼を働い、た。……利害は、一致する、はず…………』
————私の痛みを分かってくれる人、どうか……
「……もう一度訊くわね。人の世に戻って来てまで、何がしたいの?」
耳を澄ませば、この妖の本当の声が、嘆きが聞こえる。
ざわ、と空気が揺れた。
『三上という祓い屋に復讐を。私にしたことと同じことを、あの人間にも』
一瞬だけ吃音の取れた口調には、ぞっとする程の冷酷さが込められていた。
しかし、その言葉の陰に、今も啜り泣くような本当の声が聞こえている。
————嫌だ、人を傷付けたくはないのに。助けてほしい、助けて。
心に付けられた傷は癒えること無く、思い出す憎しみはじわじわと意識を蝕んでいたのか。おそらくそれは、自分でも気が付かないうちに。
その時、そっと右腕を掴まれる。
「神崎さん」
見れば、縋るような目をしている夏目がいた。
「神崎さん、この妖を助けてあげてください。いえ……助けたいんです。おれ、この妖の本当の声が聞こえる気がするんです……!だから、祓うのは待ってください!」
自分以外には聞こえないと思っていた妖の声は、夏目にも届いていた。
妖の声にはならない叫びなど、仏僧や神職の中でも限られた人間にしか聞こえないないものだが、それを感じ取ってしまう夏目はやはり天性なのだろう。
優しくも、危うい存在だと思う。
咲耶は、腕を掴んでいる夏目の手を離した。
「夏目君には″気がする″程度かもしれないけど、私にはしっかり聞こえてる」
「えっ……」
「祓うなんて一言も言ってないわよ。私を誰だと思ってるの?」
神崎咲耶は祓い人ではないということを忘れていたのか、夏目の目に光が差した。
咲耶は、その華奢な肩をポンと叩く。
「貴方の、妖を助けたい気持ちは受け取ったわ。任せといて」
ふっと笑って見せれば、夏目が何事かを言おうとする。
しかし、
『おお、ぉ…………おオオあァァあ″あ″あ…………』
人間でも動物のものでもない呻き声。小面 の妖は、身を屈めて苦しみ出した。
この妖の体は、こんなにも深く鈍い黒色だっただろうか。
次の瞬間に起こされた上体、その顔は、美しい小面 ではなく苦悶に満ちた鬼女の顔になっていた。
強い風のように、邪気が押し寄せて来る。
ああ、妖との不必要な関わりを断つために身に付けた術は、本当に正しかったのだろうか。
たとえ街中であっても、後をつけて来る妖がこの妖だと気付けていたら。もっと早く対処出来ていたら。
こんな時、迷いはいつも咲耶の肩を叩くのだ。
「神崎さん!」
澄んだ声に、はっと我に返る。
夏目の向こうで、依代の姿に戻ったニャンコ先生が妖を威嚇しているのが見える。
「……ごめんね、大丈夫」
そう、自分に言い聞かせる。
ぐにゃりと揺らいだ心に知らんふりをし、夏目の横を通り過ぎようとすれば、また腕を掴まれた。
「どうしたの。遊んでる場合じゃないのよ」
決して温和な口調ではなかった。それでも、夏目はまっすぐに咲耶の目を見る。
「……自分は何も出来ないくせに、助けてあげてくださいとか、勝手なことを丸投げしてしまってすみません。でも、おれ……もしもの時は神崎さんを連れて逃げるくらいは出来ますから」
頼り無い体躯からは想像の出来ない強い眼差し。決意のその瞳からは、これまで妖によってどんな目に遭ってきたかが分かるようで。
しかし、今護らなければいけないのは夏目の方だ。巻き込んでしまったからには、無事で帰さなければいけない。
そのために、小さな私情に気を取られていてはいけない。
「君の言う″丸投げ″って、きっと私をあてにしてくれてるってことでしょう。夏目君が無責任な子じゃないのは分かってるし、頼りにしてもらえて嬉しいわよ」
そう言い終えるのと同時に、小面 の妖が叫び声を上げる。
また、まとわりつくような邪気が放たれた。
「おい神崎!何か手があるならどうにかしろ!」
短い毛を逆立てたニャンコ先生が、痺れを切らして怒鳴る。
咲耶は、夏目を押し退け二度開手 を打った。
清々しい音は、たったそれだけで澱んだ邪気を払い退けるように響き渡る。
「六根清浄急急如律令」
水神の山で咲耶達を襲おうとしながら涙を流した、心優しきもの。
『……そう、だ』
————違う。
『あ、あの、に人間は……お前にも、ぶ、ぶ、無礼を働い、た。……利害は、一致する、はず…………』
————私の痛みを分かってくれる人、どうか……
「……もう一度訊くわね。人の世に戻って来てまで、何がしたいの?」
耳を澄ませば、この妖の本当の声が、嘆きが聞こえる。
ざわ、と空気が揺れた。
『三上という祓い屋に復讐を。私にしたことと同じことを、あの人間にも』
一瞬だけ吃音の取れた口調には、ぞっとする程の冷酷さが込められていた。
しかし、その言葉の陰に、今も啜り泣くような本当の声が聞こえている。
————嫌だ、人を傷付けたくはないのに。助けてほしい、助けて。
心に付けられた傷は癒えること無く、思い出す憎しみはじわじわと意識を蝕んでいたのか。おそらくそれは、自分でも気が付かないうちに。
その時、そっと右腕を掴まれる。
「神崎さん」
見れば、縋るような目をしている夏目がいた。
「神崎さん、この妖を助けてあげてください。いえ……助けたいんです。おれ、この妖の本当の声が聞こえる気がするんです……!だから、祓うのは待ってください!」
自分以外には聞こえないと思っていた妖の声は、夏目にも届いていた。
妖の声にはならない叫びなど、仏僧や神職の中でも限られた人間にしか聞こえないないものだが、それを感じ取ってしまう夏目はやはり天性なのだろう。
優しくも、危うい存在だと思う。
咲耶は、腕を掴んでいる夏目の手を離した。
「夏目君には″気がする″程度かもしれないけど、私にはしっかり聞こえてる」
「えっ……」
「祓うなんて一言も言ってないわよ。私を誰だと思ってるの?」
神崎咲耶は祓い人ではないということを忘れていたのか、夏目の目に光が差した。
咲耶は、その華奢な肩をポンと叩く。
「貴方の、妖を助けたい気持ちは受け取ったわ。任せといて」
ふっと笑って見せれば、夏目が何事かを言おうとする。
しかし、
『おお、ぉ…………おオオあァァあ″あ″あ…………』
人間でも動物のものでもない呻き声。
この妖の体は、こんなにも深く鈍い黒色だっただろうか。
次の瞬間に起こされた上体、その顔は、美しい
強い風のように、邪気が押し寄せて来る。
ああ、妖との不必要な関わりを断つために身に付けた術は、本当に正しかったのだろうか。
たとえ街中であっても、後をつけて来る妖がこの妖だと気付けていたら。もっと早く対処出来ていたら。
こんな時、迷いはいつも咲耶の肩を叩くのだ。
「神崎さん!」
澄んだ声に、はっと我に返る。
夏目の向こうで、依代の姿に戻ったニャンコ先生が妖を威嚇しているのが見える。
「……ごめんね、大丈夫」
そう、自分に言い聞かせる。
ぐにゃりと揺らいだ心に知らんふりをし、夏目の横を通り過ぎようとすれば、また腕を掴まれた。
「どうしたの。遊んでる場合じゃないのよ」
決して温和な口調ではなかった。それでも、夏目はまっすぐに咲耶の目を見る。
「……自分は何も出来ないくせに、助けてあげてくださいとか、勝手なことを丸投げしてしまってすみません。でも、おれ……もしもの時は神崎さんを連れて逃げるくらいは出来ますから」
頼り無い体躯からは想像の出来ない強い眼差し。決意のその瞳からは、これまで妖によってどんな目に遭ってきたかが分かるようで。
しかし、今護らなければいけないのは夏目の方だ。巻き込んでしまったからには、無事で帰さなければいけない。
そのために、小さな私情に気を取られていてはいけない。
「君の言う″丸投げ″って、きっと私をあてにしてくれてるってことでしょう。夏目君が無責任な子じゃないのは分かってるし、頼りにしてもらえて嬉しいわよ」
そう言い終えるのと同時に、
また、まとわりつくような邪気が放たれた。
「おい神崎!何か手があるならどうにかしろ!」
短い毛を逆立てたニャンコ先生が、痺れを切らして怒鳴る。
咲耶は、夏目を押し退け二度
清々しい音は、たったそれだけで澱んだ邪気を払い退けるように響き渡る。
「六根清浄急急如律令」