in the gloaming.
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それが夏目の求めるものかどうかなど分からないのに、かけてしまった言葉。
少し気恥ずかしくて、語尾が曖昧になる。
それでも、ちゃんと伝わっただろうかと思っていると、夏目は咲耶が向ける眼差しに応えるように笑顔を見せた。
それは、はにかむようで安心したような、心からの笑み。
「神崎さん……」
夏目が何かを言いかけた時、ひたりという足音が聞こえた。
唐突に現れた気配に、二人同時に振り返る。
その先に、今の咲耶には視えるはずの無いぼんやりとした影が視えた。瞬時に、その妖の性質を知る。
「夏目君、目を合わせないで」
再び夏目の腕を引き、今度は半ば引き摺るようなかたちで方向転換をする。
「神崎さん、あの妖が視えて……?」
「視える状態に切り替えることを″霊視″って呼んでるんだけど、今はその状態じゃないのに大体のシルエットが視えたわ」
大人の人間程の背丈で、向こう側が透けて視えるくらいの黒い影。
「霊視をしていなくても視える妖は、変身後のニャンコ先生やうちの鬼達みたいに強力な妖か、術師と契約を交わしている式。それから」
あの影の妖は、先程咲耶をつけて来ていた妖に違い無い。
当初は視えなかったため安心していたのだが。
「それから……?」
傍らから、嫌な予感を感じているらしい緊張した声がする。
「それから、深い怨恨を持っていたり、人を呪い殺そうとする類の妖よ」
視界の端で、夏目の表情がこわばるのが分かった。
元々は悪き妖ではなかったはず。しかし、その性質が変わりつつあるようだ。
近くの小さな公園に入り、遊具の陰へ回り込むと空気が変わる。
直前までの景色はどこにも無い。街の喧騒も人の話し声も、鳥の鳴き声すらも聞こえない、遠くに林があるだけの広い広い草むら。
ゆっくりと瞬きをし、妖が追って来ることに備えて霊視状態に入る。
その間、夏目はキョロキョロとあたりを見回していた。
「ここは、妖の世……ですか?」
「まあ、そんなところ。向こうで騒がれるよりずっといいわ」
言いながら、それは自分の都合であることを自覚する。
やむを得なかったとはいえ、夏目を巻き込んでしまう結果になったことが心苦しい。
「……ごめんね、お遣いの途中だったのに巻き込んでしまって」
未だもの珍しそうに辺りを見回している細い背に声を掛ければ、夏目は振り返るより先に首を振った。
「いいえ、かやの外に置かれるよりいいです。だからと言っておれに出来ることは無いかもしれませんが。それでも、女の人一人に怖い思いをさせるわけにはいきませんし」
言い終えてから、我ながらキザな台詞を口走ってしまったと気付いたのか、その白い頬がふわと赤くなる。
子供ながらに男らしい一面もあるのだなと感心した時、
「おい、来たぞ」
ニャンコ先生の声とほぼ同時に、背の高い草葉ががさりと揺れた。
ずるりと姿を現した影のような体は、つい数分前よりも濃い黒色に変化している。そして、その顔は、
「お前は」
能や狂言で使用される小面 の面に似た顔。それは、かつて三上という祓い人の式だった妖。
三上との契約は、あの時浄化とともに断たれたはずなのだが。
とはいえ、この妖を浄化し元の世界へ帰せるか、もしくは跡形も無く祓い去ることになるかは、正直なところ一か八かだった。
「……ちゃんと向こうの世界へ帰れたのね。でも、どうして戻ってきたの?」
離れていても感じるのは、悲しみや怒りや憎しみという、まとわりつくような負の感情。一体、何がこうさせているのか。
「知っている妖ですか?」
「夏目君がうちの実家に来た時、訪ねてきた祓い屋がいたでしょう。あの男の″もと″式よ」
妖から目を逸さずにいたため表情は分からないが、夏目は「えっ」と声にならない声を漏らした。
『…… 神崎…… 咲耶…………』
小面 の妖が、ようやく口を開く。
『頼みが、ある……あ、あの男が……かつて主人だったた……人間が、に、憎くて仕方が……無い。ふ、ふ、復讐が、したい……』
緩やかな吃音。しかし、その声音はどんどん低く暗くなっていく。
ここへ来て、妖は急速に邪気を帯び始めていた。
その時、傍らでどろんと白煙が渦を巻いた。
「善良な妖が憎しみによって悪鬼と化す。よくある話だ。どけ、この私が追い払ってやる」
本来の姿である″斑″の姿へ変化したニャンコ先生が、小面 の妖を見下ろして威嚇する。
ニャンコ先生の手に掛かれば、すぐに片付く話なのだろうが、そんなことは許さない。
「いくら貴方達でも、私の前で勝手な真似は許さないわよ!ニャンコ先生、下がりなさい!」
「なんだと……!?この私に向かって……」
「夏目君、この毛玉黙らせなさい!」
「はっ……はいっ!」
こうしている間にも、妖の体の黒色はまた濃くなった。
ニャンコ先生ではなく咲耶であっても、この妖を強制的に浄化することは出来る。しかし、それでこの妖の心はどうなるというのだ。
一歩、小面 の妖に近付く。
「で、私に頼みごとって何なの?復讐を手伝えってこと?」
それは核心だが、妖の本心ではないような気がした。
少し気恥ずかしくて、語尾が曖昧になる。
それでも、ちゃんと伝わっただろうかと思っていると、夏目は咲耶が向ける眼差しに応えるように笑顔を見せた。
それは、はにかむようで安心したような、心からの笑み。
「神崎さん……」
夏目が何かを言いかけた時、ひたりという足音が聞こえた。
唐突に現れた気配に、二人同時に振り返る。
その先に、今の咲耶には視えるはずの無いぼんやりとした影が視えた。瞬時に、その妖の性質を知る。
「夏目君、目を合わせないで」
再び夏目の腕を引き、今度は半ば引き摺るようなかたちで方向転換をする。
「神崎さん、あの妖が視えて……?」
「視える状態に切り替えることを″霊視″って呼んでるんだけど、今はその状態じゃないのに大体のシルエットが視えたわ」
大人の人間程の背丈で、向こう側が透けて視えるくらいの黒い影。
「霊視をしていなくても視える妖は、変身後のニャンコ先生やうちの鬼達みたいに強力な妖か、術師と契約を交わしている式。それから」
あの影の妖は、先程咲耶をつけて来ていた妖に違い無い。
当初は視えなかったため安心していたのだが。
「それから……?」
傍らから、嫌な予感を感じているらしい緊張した声がする。
「それから、深い怨恨を持っていたり、人を呪い殺そうとする類の妖よ」
視界の端で、夏目の表情がこわばるのが分かった。
元々は悪き妖ではなかったはず。しかし、その性質が変わりつつあるようだ。
近くの小さな公園に入り、遊具の陰へ回り込むと空気が変わる。
直前までの景色はどこにも無い。街の喧騒も人の話し声も、鳥の鳴き声すらも聞こえない、遠くに林があるだけの広い広い草むら。
ゆっくりと瞬きをし、妖が追って来ることに備えて霊視状態に入る。
その間、夏目はキョロキョロとあたりを見回していた。
「ここは、妖の世……ですか?」
「まあ、そんなところ。向こうで騒がれるよりずっといいわ」
言いながら、それは自分の都合であることを自覚する。
やむを得なかったとはいえ、夏目を巻き込んでしまう結果になったことが心苦しい。
「……ごめんね、お遣いの途中だったのに巻き込んでしまって」
未だもの珍しそうに辺りを見回している細い背に声を掛ければ、夏目は振り返るより先に首を振った。
「いいえ、かやの外に置かれるよりいいです。だからと言っておれに出来ることは無いかもしれませんが。それでも、女の人一人に怖い思いをさせるわけにはいきませんし」
言い終えてから、我ながらキザな台詞を口走ってしまったと気付いたのか、その白い頬がふわと赤くなる。
子供ながらに男らしい一面もあるのだなと感心した時、
「おい、来たぞ」
ニャンコ先生の声とほぼ同時に、背の高い草葉ががさりと揺れた。
ずるりと姿を現した影のような体は、つい数分前よりも濃い黒色に変化している。そして、その顔は、
「お前は」
能や狂言で使用される
三上との契約は、あの時浄化とともに断たれたはずなのだが。
とはいえ、この妖を浄化し元の世界へ帰せるか、もしくは跡形も無く祓い去ることになるかは、正直なところ一か八かだった。
「……ちゃんと向こうの世界へ帰れたのね。でも、どうして戻ってきたの?」
離れていても感じるのは、悲しみや怒りや憎しみという、まとわりつくような負の感情。一体、何がこうさせているのか。
「知っている妖ですか?」
「夏目君がうちの実家に来た時、訪ねてきた祓い屋がいたでしょう。あの男の″もと″式よ」
妖から目を逸さずにいたため表情は分からないが、夏目は「えっ」と声にならない声を漏らした。
『…… 神崎…… 咲耶…………』
『頼みが、ある……あ、あの男が……かつて主人だったた……人間が、に、憎くて仕方が……無い。ふ、ふ、復讐が、したい……』
緩やかな吃音。しかし、その声音はどんどん低く暗くなっていく。
ここへ来て、妖は急速に邪気を帯び始めていた。
その時、傍らでどろんと白煙が渦を巻いた。
「善良な妖が憎しみによって悪鬼と化す。よくある話だ。どけ、この私が追い払ってやる」
本来の姿である″斑″の姿へ変化したニャンコ先生が、
ニャンコ先生の手に掛かれば、すぐに片付く話なのだろうが、そんなことは許さない。
「いくら貴方達でも、私の前で勝手な真似は許さないわよ!ニャンコ先生、下がりなさい!」
「なんだと……!?この私に向かって……」
「夏目君、この毛玉黙らせなさい!」
「はっ……はいっ!」
こうしている間にも、妖の体の黒色はまた濃くなった。
ニャンコ先生ではなく咲耶であっても、この妖を強制的に浄化することは出来る。しかし、それでこの妖の心はどうなるというのだ。
一歩、
「で、私に頼みごとって何なの?復讐を手伝えってこと?」
それは核心だが、妖の本心ではないような気がした。