カタバミの花
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「いえ…………」
親指が優しく咲耶の手の甲を撫で、そして、離れていく。ゆっくりと、名残惜しそうに。
その大きな手の体温が少しだけ熱く感じたのは、気のせいだっただろうか。
離された手には、甘く痺れるような火照りが残った。
わざとなのか的場は黙ってしまい、そのことで余計に照れてしまう。
「そ……そういえば、今日はどうしてスーツなの?」
苦し紛れに話題を変える。
タイミングが掴めず切り出せなかったが、今日の的場は和装ではなく濃紺のスーツを纏っている。それも、上はジャケットではなくジレ。
的場は、あたかも今思い出したような顔をした。
「前に、ジレが似合いそうだと言ってくれたでしょう?ようやく見せに来れました」
心なしか得意げに見える表情。そこには、いつもの自信と少しばかりの子供っぽさがある。
この人は、こんなに可愛い言動をする人だったのか。
それを口に出さない代わりに、思わず笑ってしまった。
「ええ、やっぱり似合うわ。悪の組織の幹部って感じね。……あ、そのまんまの感想だったわ」
「褒められているのかどうなのか分かりませんねぇ」
言いながら、的場は特に不満とも満足とも言い難い微妙な笑みを浮かべた。
咲耶は、傍に置いていた箒と塵取りを持ち上げる。
「もし時間があるならお参りしていって」
柄にも無く浮かれた気持ちで歩き出せば、背後に的場がついてくる気配が無かった。
不審に思って振り返ると、咲耶を見つめる的場と目が合う。
振り向いた咲耶に目を細め、わざとらしく我に返ったという仕草を見せる。
「咲耶の神主姿は初めて見たもので。……可愛いので目に焼き付けていたところです」
たまに、この人は恥ずかしいことを恥ずかしげも無く口にする。
性格が性格なため、いちいち照れ隠しをしなければいけないこっちの身にもなってほしい。
「さっきの褒め言葉へのお返しなら結構よ」
「本心なのですが。というか、さっきのあれ、私は褒められていたんですね」
さして表情を変えず、的場はようやくこちらへやって来る。
「今日は人が少ないから境内の案内も出来るわ。観光シーズンだから、三上さんのついでにこの神社の境内でゆっくり出来るのはラッキーなのよ」
何気ない話題だったのだが、的場は何かが気になったらしく、困った顔で咲耶を見下ろした。
「言っておきますが、貴女に会いに来るのは何かの″ついで″ではありませんよ。三上がここを訪れるということは、後で分かったんですから。……なんです?その顔は」
ポカンとして話を聞いていると、不意に頬をちょんと指でつつかれた。
一体どんな顔をしていたというのか、つつかれた頬に手を当てても、そこには的場の指の感触が残るだけ。
「私が、恋人に会うためだけに外出するのがそんなに不思議ですか?…… 咲耶と会う時の私は、祓い屋ではなくただの的場静司個人なんですよ」
「いつだってね」と続け柔らかく笑むと、咲耶の反応を待たずに参道を歩き始める。
今この人が浮かべた笑みは、的場静司という人が持つ本来の表情に違い無い。
的場から咲耶へ向けられる言葉や行動が、本心からくるものということは、きっともう分かっている。
しかし、たとえ名取の助言があったとしても、彼の本心を信じきれない自分もいる。
的場は、咲耶が妖力など持たないただの人であっても、今と同じ好意を抱いてくれただろうか。
今後もし、妖力を失うようなことがあったとしても、大妖達との繋がりを絶ってしまったとしても、会いに来てくれるだろうか。今日のように。
それは、白い服に付いたインクの染みのように、じわりとした不安。
親指が優しく咲耶の手の甲を撫で、そして、離れていく。ゆっくりと、名残惜しそうに。
その大きな手の体温が少しだけ熱く感じたのは、気のせいだっただろうか。
離された手には、甘く痺れるような火照りが残った。
わざとなのか的場は黙ってしまい、そのことで余計に照れてしまう。
「そ……そういえば、今日はどうしてスーツなの?」
苦し紛れに話題を変える。
タイミングが掴めず切り出せなかったが、今日の的場は和装ではなく濃紺のスーツを纏っている。それも、上はジャケットではなくジレ。
的場は、あたかも今思い出したような顔をした。
「前に、ジレが似合いそうだと言ってくれたでしょう?ようやく見せに来れました」
心なしか得意げに見える表情。そこには、いつもの自信と少しばかりの子供っぽさがある。
この人は、こんなに可愛い言動をする人だったのか。
それを口に出さない代わりに、思わず笑ってしまった。
「ええ、やっぱり似合うわ。悪の組織の幹部って感じね。……あ、そのまんまの感想だったわ」
「褒められているのかどうなのか分かりませんねぇ」
言いながら、的場は特に不満とも満足とも言い難い微妙な笑みを浮かべた。
咲耶は、傍に置いていた箒と塵取りを持ち上げる。
「もし時間があるならお参りしていって」
柄にも無く浮かれた気持ちで歩き出せば、背後に的場がついてくる気配が無かった。
不審に思って振り返ると、咲耶を見つめる的場と目が合う。
振り向いた咲耶に目を細め、わざとらしく我に返ったという仕草を見せる。
「咲耶の神主姿は初めて見たもので。……可愛いので目に焼き付けていたところです」
たまに、この人は恥ずかしいことを恥ずかしげも無く口にする。
性格が性格なため、いちいち照れ隠しをしなければいけないこっちの身にもなってほしい。
「さっきの褒め言葉へのお返しなら結構よ」
「本心なのですが。というか、さっきのあれ、私は褒められていたんですね」
さして表情を変えず、的場はようやくこちらへやって来る。
「今日は人が少ないから境内の案内も出来るわ。観光シーズンだから、三上さんのついでにこの神社の境内でゆっくり出来るのはラッキーなのよ」
何気ない話題だったのだが、的場は何かが気になったらしく、困った顔で咲耶を見下ろした。
「言っておきますが、貴女に会いに来るのは何かの″ついで″ではありませんよ。三上がここを訪れるということは、後で分かったんですから。……なんです?その顔は」
ポカンとして話を聞いていると、不意に頬をちょんと指でつつかれた。
一体どんな顔をしていたというのか、つつかれた頬に手を当てても、そこには的場の指の感触が残るだけ。
「私が、恋人に会うためだけに外出するのがそんなに不思議ですか?…… 咲耶と会う時の私は、祓い屋ではなくただの的場静司個人なんですよ」
「いつだってね」と続け柔らかく笑むと、咲耶の反応を待たずに参道を歩き始める。
今この人が浮かべた笑みは、的場静司という人が持つ本来の表情に違い無い。
的場から咲耶へ向けられる言葉や行動が、本心からくるものということは、きっともう分かっている。
しかし、たとえ名取の助言があったとしても、彼の本心を信じきれない自分もいる。
的場は、咲耶が妖力など持たないただの人であっても、今と同じ好意を抱いてくれただろうか。
今後もし、妖力を失うようなことがあったとしても、大妖達との繋がりを絶ってしまったとしても、会いに来てくれるだろうか。今日のように。
それは、白い服に付いたインクの染みのように、じわりとした不安。