カタバミの花
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「……どうぞお引き取りを」
敵意を込め、意図して低められた声は、傍で聞いているだけでも気圧されてしまう程で。
三上は、真っ青な顔で踵を返す。一瞬何か言いたそうな顔をしたが、何を言っても勝てないと察したのか、結局そのまま逃げるようにして去っていった。
一段落した気配に、咲耶は安堵の思いも込めてふうと息を吐く。
「静司さん」
見上げると、すでに的場は咲耶を見下ろしていた。言いたいことが山程あると言いたげな目。
「どうして、もっと早く相談してくれなかったんです?」
いつもどおりの声音に戻ったその口調に、垣間見えたのは少しばかりの感情の揺れ。
「三上さんのこと?……そんなの、相談する頃にはもう大体のことは知れてるじゃない。的場は耳ざといんだから」
説教じみた言い方に反発して憎まれ口を叩いても、何故か今日は溜め息しか返ってこない。
「でも……私は、咲耶に頼られたかった」
不満そうなその一言に、名取が言った台詞を思い出す。
的場こそ、咲耶が何故祓い人を頼らないのか、頼れないのか、その理由をよく知っているはずなのに。
的場の感情の揺れに、もしやと思う。
「……どうしたの?何をそんなに苛々してるの?」
指摘をすれば、少しの間が。
ほんの一瞬だが、的場の目が戸惑うように泳ぐ。
「名取とは…………会っているのでしょう?」
観念したような一言に、咲耶の予想はおおよそ確かなものになる。
的場のその感情に気付いていいのか迷ったが、名取の言葉に背中を押された。
「もしかして、妬いてる……とか?」
思い返せば、こちらへ戻ってきてからというもの、的場と直に会うのはこれが初めてだ。
そっと込み上げてきた申し訳なさを隠して様子をうかがうと、ぎゅむっと左頬を摘まれた。
目の前には、にっこりと意地の悪い笑顔。
「誰のせいでしょうね?」
「痛っ……くはないけど酷い!こんなことして、許ひゃないわよ!」
すぐに手は離され、かと思うと、的場は身を屈めてくっくと可笑しそうに笑う。
頬を摘まれたまま喋ったため思い切り言葉を噛んでしまったわけだが、それがそんなに面白かったのか。
「可愛い姿が見られたので、今回はよしとします」
「……私は納得できないんだけど」
それも本音ではある。しかし、こうも満たされた気持ちになるのは、的場が嫉妬心を否定しなかったからだ。
今よりもほんの少しでも、素直になってもいいのかもしれない。
「あらためて……久し振りですね、咲耶」
よそではあまり聞かない柔らかな声で、名前を呼ばれる。
「怖い思いなどはしていませんか?」
「……大丈夫よ。私を誰だと思ってるの」
ああ、あの時水神の山で名取に重ねた姿は、この的場静司のシルエットだった。
出会った頃は本当に嫌いだったのに、いつから無意識にも想ってしまうようになったのだろう。
「でも……心配してくれて、ありがとう」
それは予想外の反応だったようで、的場は目を丸くする。
かと思うと、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「ええ、心配でしたよ。咲耶からはほとんど連絡をくれないし、あまり会ってもくれないし」
珍しく素直な咲耶に、いつもとは様子が違うと察したようで、ここぞとばかりに不満を打ち明けられる。
「そういえば、守護のために送った式は秒で返却されましたっけね。あと御守りも。式はともかく、神社の娘である貴女に御守りを贈ったのは間違いだったかと反省しましたが、まあまあショックでしたよ。それから……」
「ああもう!悪かったわ、ごめんなさい!でも、あれはそっちが悪いのよ!式も御守りも、ビジュアルが的場のセンス全開で全然可愛くないんだから!」
逆ギレかとつっこまれるならまだマシで、ともすれば嫌われかねないというのに、的場は変わらずニコニコと笑っている。
「……心配だったんです。でも、きっと……それは私自身が安心したいがためだった。すみません」
それほど悪びれる様子は無いのに、謝られては振り上げた手をそっと下ろさざるを得なくなる。
それは、心のどこかでは、咲耶を案じる的場の本心に気付いているから。
「咲耶、会いたかった」
今に至るまでの的場静司の全ての感情が、その一言に詰まっている。
普段は何を考えているか分からないことの方が多い人なのに、今日は違う。表情や仕草から、今考えているであろうことが伝わってくる。
彼なりに気持ちを抑えきれていないのかもしれないと思ったら、途端に可愛らしく見えた。
しかし、素直さのサービスはそろそろ終わりだ。
「そう思ってもらえて光栄だわ。私も、とは言わないけど」
「おや」
ふんと鼻を鳴らせば、的場はあははと笑った。まるで、こちらの本心を見透かすように。
「それでこそ咲耶ですね。安心しましたよ」
なんとなく、これまでよりも心の距離が縮んだように感じたのは、咲耶だけではないようで。
「……何?」
的場の手が、下ろしていた咲耶の手をそっと握った。
敵意を込め、意図して低められた声は、傍で聞いているだけでも気圧されてしまう程で。
三上は、真っ青な顔で踵を返す。一瞬何か言いたそうな顔をしたが、何を言っても勝てないと察したのか、結局そのまま逃げるようにして去っていった。
一段落した気配に、咲耶は安堵の思いも込めてふうと息を吐く。
「静司さん」
見上げると、すでに的場は咲耶を見下ろしていた。言いたいことが山程あると言いたげな目。
「どうして、もっと早く相談してくれなかったんです?」
いつもどおりの声音に戻ったその口調に、垣間見えたのは少しばかりの感情の揺れ。
「三上さんのこと?……そんなの、相談する頃にはもう大体のことは知れてるじゃない。的場は耳ざといんだから」
説教じみた言い方に反発して憎まれ口を叩いても、何故か今日は溜め息しか返ってこない。
「でも……私は、咲耶に頼られたかった」
不満そうなその一言に、名取が言った台詞を思い出す。
的場こそ、咲耶が何故祓い人を頼らないのか、頼れないのか、その理由をよく知っているはずなのに。
的場の感情の揺れに、もしやと思う。
「……どうしたの?何をそんなに苛々してるの?」
指摘をすれば、少しの間が。
ほんの一瞬だが、的場の目が戸惑うように泳ぐ。
「名取とは…………会っているのでしょう?」
観念したような一言に、咲耶の予想はおおよそ確かなものになる。
的場のその感情に気付いていいのか迷ったが、名取の言葉に背中を押された。
「もしかして、妬いてる……とか?」
思い返せば、こちらへ戻ってきてからというもの、的場と直に会うのはこれが初めてだ。
そっと込み上げてきた申し訳なさを隠して様子をうかがうと、ぎゅむっと左頬を摘まれた。
目の前には、にっこりと意地の悪い笑顔。
「誰のせいでしょうね?」
「痛っ……くはないけど酷い!こんなことして、許ひゃないわよ!」
すぐに手は離され、かと思うと、的場は身を屈めてくっくと可笑しそうに笑う。
頬を摘まれたまま喋ったため思い切り言葉を噛んでしまったわけだが、それがそんなに面白かったのか。
「可愛い姿が見られたので、今回はよしとします」
「……私は納得できないんだけど」
それも本音ではある。しかし、こうも満たされた気持ちになるのは、的場が嫉妬心を否定しなかったからだ。
今よりもほんの少しでも、素直になってもいいのかもしれない。
「あらためて……久し振りですね、咲耶」
よそではあまり聞かない柔らかな声で、名前を呼ばれる。
「怖い思いなどはしていませんか?」
「……大丈夫よ。私を誰だと思ってるの」
ああ、あの時水神の山で名取に重ねた姿は、この的場静司のシルエットだった。
出会った頃は本当に嫌いだったのに、いつから無意識にも想ってしまうようになったのだろう。
「でも……心配してくれて、ありがとう」
それは予想外の反応だったようで、的場は目を丸くする。
かと思うと、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「ええ、心配でしたよ。咲耶からはほとんど連絡をくれないし、あまり会ってもくれないし」
珍しく素直な咲耶に、いつもとは様子が違うと察したようで、ここぞとばかりに不満を打ち明けられる。
「そういえば、守護のために送った式は秒で返却されましたっけね。あと御守りも。式はともかく、神社の娘である貴女に御守りを贈ったのは間違いだったかと反省しましたが、まあまあショックでしたよ。それから……」
「ああもう!悪かったわ、ごめんなさい!でも、あれはそっちが悪いのよ!式も御守りも、ビジュアルが的場のセンス全開で全然可愛くないんだから!」
逆ギレかとつっこまれるならまだマシで、ともすれば嫌われかねないというのに、的場は変わらずニコニコと笑っている。
「……心配だったんです。でも、きっと……それは私自身が安心したいがためだった。すみません」
それほど悪びれる様子は無いのに、謝られては振り上げた手をそっと下ろさざるを得なくなる。
それは、心のどこかでは、咲耶を案じる的場の本心に気付いているから。
「咲耶、会いたかった」
今に至るまでの的場静司の全ての感情が、その一言に詰まっている。
普段は何を考えているか分からないことの方が多い人なのに、今日は違う。表情や仕草から、今考えているであろうことが伝わってくる。
彼なりに気持ちを抑えきれていないのかもしれないと思ったら、途端に可愛らしく見えた。
しかし、素直さのサービスはそろそろ終わりだ。
「そう思ってもらえて光栄だわ。私も、とは言わないけど」
「おや」
ふんと鼻を鳴らせば、的場はあははと笑った。まるで、こちらの本心を見透かすように。
「それでこそ咲耶ですね。安心しましたよ」
なんとなく、これまでよりも心の距離が縮んだように感じたのは、咲耶だけではないようで。
「……何?」
的場の手が、下ろしていた咲耶の手をそっと握った。