カタバミの花
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名取をもしつこく勧誘していたという理由が分かった。
あの人は、祓い人でありながら的場一門とは別の道を進んでいる。
「妖だけではなく、場合によっては同業の者すらも汚い手を使って従わせ、利用する。大家とはいえ、そのような手法に賛同する人間ばかりではない。私は、そういった術師達を集めています」
スイッチが入ったのか、三上は饒舌に語り始める。
的場一門がどのような集まりで、どのようなやり口で妖祓いをしているのか。中には、的場に逆らったがために手酷い仕打ちを受けた術師もいるとか。
話の大半は、的場一門への批判や恨み言で、ほとんど中身が無い。
世間知らずとは恐ろしいものだ。
新参で、祓い人の世界を深く知らないからこそ、強気でいられる。
自分で言ったように、いずれこの男も手酷い仕打ちを受けることになるのだろう。的場一門、あるいは的場静司本人に。
大体、そのように熱く語られなくとも、的場一門がどのような連中かなどよく知っている。
三上は、細い目で同情を求めるように咲耶を見る。
「清廉な貴女なら分かるでしょう?あの一門、特に頭首は妖よりタチが悪い。私と一緒に、祓い屋……術師の世界の構図を変え、そして、人ではないもの達の世界を整えましょう」
ああ、あの人は、黒くドロドロとした感情に晒される世界で生きている。
だとしたら、ますます祓い人などに関わるわけにはいかない。
「どうして、″清廉″な私が貴方達と同じ思考だと思ったんです?」
信じられないと言う代わりに、大仰に肩を竦めて見せた。
「一人で立ち向かうのが怖いから仲間を集めてるとか、面白すぎるんですけど。子供の喧嘩じゃないんですから、もう少しまともな理由を持ってきてくれませんか。……持ってこられたところで、祓い屋の貴方に貸すような手はありませんけど。あ、すみません、貴方は″自称″祓い屋でしたね」
意図せずこちらまで饒舌になってしまう。
自分で思う以上に、あの人を侮蔑されたことが頭に来ているようだ。
「覚悟も無く面白半分で祓い屋になったような貴方に、的場を蔑む資格がありますか?あの一門をどうにかしたいなら勝手にやればいい。結果は分かってますよ。ゴミが何人集まったってゴミなんですから」
掃除の途中だったからとはいえ、我ながら酷い暴言が出た。
三上の笑みは引き攣り、その眉間には皺が寄っている。
「……なるほど、どうあっても我々に手は貸していただけないのですね。それならば、神崎邸に禍いが降りかかるかもしれませんね」
この男は、いつまで神崎咲耶を舐めているのだろう。
水神の山のみではなく、今度は咲耶の実家に呪詛でも行ったのか。もしそうだとしても、実家は結界で護られている。
そんな脅しには乗らない。そう言おうとした時、背後に人の気配がした。
咲耶の後ろを見た三上が、あっと声を呑む。
「三上さん、困りますね。散々、彼女には近付かないよう忠告しているのに」
低く涼しげで、癖のある声。
振り返るより早く、その人は咲耶のすぐ傍までやってきた。
棘のある端正な容貌に、右目を覆う眼帯。不敵さと冷たさと静かな迫力を従えるような佇まい。
「静司さん……」
驚いてうまく声が出なかったが、それでもその人————的場静司は、しっかりと咲耶と視線を交わして微笑む。
どうやら、というかやはりというか、全て分かっているようだった。
「さて、三上さん。貴方の言う神崎邸への禍い……もとい呪詛ですが、ここへ来る途中に立ち寄って回収しましたよ。この程度のもの、放っておいても神社の結界に触れれば勝手に消滅したでしょうが」
言いながら和紙の紙切れを三上に見せると、それを咲耶に手渡す。
受け取った和紙には分かりやすく「呪」の一文字が書かれており、確かに呪詛が込められているが、咲耶にとっては他愛もないものだった。
すぐに、受け取ったその和紙をぐしゃぐしゃと丸めた。
いつもどおり淡々としている的場に対し、三上はまさに蛇に睨まれた蛙のようだった。的場一門に対して強い言葉を吐きながら、頭首本人を前にしてはこうも怖気づいてしまうとは。
三上は、さらに苦々しい顔をする。
「神崎と的場……忌み嫌い、反発し合う家柄のはずでは。聞いていた話と違うぞ」
動揺の原因はそれのようで。
同じ祓う者の家系でありながら、神官として正道を行く神崎家と″祓い人″として陰に生きる的場家は、実際に対立していたこともあったという。
くだらないと言いたげに、的場は鼻で笑う。
「一体いつの時代の話をされているのでしょうか。立場が対極すぎて、今は家同士の関わり合いなど皆無だというのに」
因縁が無いわけではないことは、咲耶も的場も分かっているが、それは口には出さない。
少ない手持ちのカードは出し尽くしたようで、三上は何も言えずわなわなと震えている。
「三上さん」
ふと、的場の声が凄みを帯びる。
「これで最後です。二度と神崎咲耶に近付かないでください。これ以上の無礼は的場が許さない。……まあ、たった一匹の式を手放した時点で、祓い屋として貴方にできることは何も無いんですが」
式を手放し、大した術も使えない。だからこそ、脅しという強硬な手段で咲耶を引き込もうと躍起になった。
式と呼べる程の妖に巡り合うこと。それがどんなに貴重なことか、この男は知らなかったのだ。
あの人は、祓い人でありながら的場一門とは別の道を進んでいる。
「妖だけではなく、場合によっては同業の者すらも汚い手を使って従わせ、利用する。大家とはいえ、そのような手法に賛同する人間ばかりではない。私は、そういった術師達を集めています」
スイッチが入ったのか、三上は饒舌に語り始める。
的場一門がどのような集まりで、どのようなやり口で妖祓いをしているのか。中には、的場に逆らったがために手酷い仕打ちを受けた術師もいるとか。
話の大半は、的場一門への批判や恨み言で、ほとんど中身が無い。
世間知らずとは恐ろしいものだ。
新参で、祓い人の世界を深く知らないからこそ、強気でいられる。
自分で言ったように、いずれこの男も手酷い仕打ちを受けることになるのだろう。的場一門、あるいは的場静司本人に。
大体、そのように熱く語られなくとも、的場一門がどのような連中かなどよく知っている。
三上は、細い目で同情を求めるように咲耶を見る。
「清廉な貴女なら分かるでしょう?あの一門、特に頭首は妖よりタチが悪い。私と一緒に、祓い屋……術師の世界の構図を変え、そして、人ではないもの達の世界を整えましょう」
ああ、あの人は、黒くドロドロとした感情に晒される世界で生きている。
だとしたら、ますます祓い人などに関わるわけにはいかない。
「どうして、″清廉″な私が貴方達と同じ思考だと思ったんです?」
信じられないと言う代わりに、大仰に肩を竦めて見せた。
「一人で立ち向かうのが怖いから仲間を集めてるとか、面白すぎるんですけど。子供の喧嘩じゃないんですから、もう少しまともな理由を持ってきてくれませんか。……持ってこられたところで、祓い屋の貴方に貸すような手はありませんけど。あ、すみません、貴方は″自称″祓い屋でしたね」
意図せずこちらまで饒舌になってしまう。
自分で思う以上に、あの人を侮蔑されたことが頭に来ているようだ。
「覚悟も無く面白半分で祓い屋になったような貴方に、的場を蔑む資格がありますか?あの一門をどうにかしたいなら勝手にやればいい。結果は分かってますよ。ゴミが何人集まったってゴミなんですから」
掃除の途中だったからとはいえ、我ながら酷い暴言が出た。
三上の笑みは引き攣り、その眉間には皺が寄っている。
「……なるほど、どうあっても我々に手は貸していただけないのですね。それならば、神崎邸に禍いが降りかかるかもしれませんね」
この男は、いつまで神崎咲耶を舐めているのだろう。
水神の山のみではなく、今度は咲耶の実家に呪詛でも行ったのか。もしそうだとしても、実家は結界で護られている。
そんな脅しには乗らない。そう言おうとした時、背後に人の気配がした。
咲耶の後ろを見た三上が、あっと声を呑む。
「三上さん、困りますね。散々、彼女には近付かないよう忠告しているのに」
低く涼しげで、癖のある声。
振り返るより早く、その人は咲耶のすぐ傍までやってきた。
棘のある端正な容貌に、右目を覆う眼帯。不敵さと冷たさと静かな迫力を従えるような佇まい。
「静司さん……」
驚いてうまく声が出なかったが、それでもその人————的場静司は、しっかりと咲耶と視線を交わして微笑む。
どうやら、というかやはりというか、全て分かっているようだった。
「さて、三上さん。貴方の言う神崎邸への禍い……もとい呪詛ですが、ここへ来る途中に立ち寄って回収しましたよ。この程度のもの、放っておいても神社の結界に触れれば勝手に消滅したでしょうが」
言いながら和紙の紙切れを三上に見せると、それを咲耶に手渡す。
受け取った和紙には分かりやすく「呪」の一文字が書かれており、確かに呪詛が込められているが、咲耶にとっては他愛もないものだった。
すぐに、受け取ったその和紙をぐしゃぐしゃと丸めた。
いつもどおり淡々としている的場に対し、三上はまさに蛇に睨まれた蛙のようだった。的場一門に対して強い言葉を吐きながら、頭首本人を前にしてはこうも怖気づいてしまうとは。
三上は、さらに苦々しい顔をする。
「神崎と的場……忌み嫌い、反発し合う家柄のはずでは。聞いていた話と違うぞ」
動揺の原因はそれのようで。
同じ祓う者の家系でありながら、神官として正道を行く神崎家と″祓い人″として陰に生きる的場家は、実際に対立していたこともあったという。
くだらないと言いたげに、的場は鼻で笑う。
「一体いつの時代の話をされているのでしょうか。立場が対極すぎて、今は家同士の関わり合いなど皆無だというのに」
因縁が無いわけではないことは、咲耶も的場も分かっているが、それは口には出さない。
少ない手持ちのカードは出し尽くしたようで、三上は何も言えずわなわなと震えている。
「三上さん」
ふと、的場の声が凄みを帯びる。
「これで最後です。二度と神崎咲耶に近付かないでください。これ以上の無礼は的場が許さない。……まあ、たった一匹の式を手放した時点で、祓い屋として貴方にできることは何も無いんですが」
式を手放し、大した術も使えない。だからこそ、脅しという強硬な手段で咲耶を引き込もうと躍起になった。
式と呼べる程の妖に巡り合うこと。それがどんなに貴重なことか、この男は知らなかったのだ。