神立の向こう、遠い光
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「今日この件を収めることが出来たのは、周一先輩が立ち合ってくれて、東雲と早天が傍にいてくれたから。ありがとうございました」
心のままを言葉にすれば、名取は祓い人でも俳優でもない顔で笑い、東雲と早天は寄り添うように咲耶の傍にやって来る。
祖父と父への報告と警察への相談。井戸の蓋や注連縄の修繕に呪詛のお祓いなど、やらなければいけないことは山程ある。
三上の所業と、犠牲になった動物や妖のことを考えると、怒りと後悔で心が揺れる。
それでも、今は戻ってきた平穏を噛み締めずにはいられない。
「先輩、うちの実家に寄っていってください。服、そのままじゃ風邪引くかもしれませんし」
神崎に関わった祓い人が体調を崩したなどという噂が呪術師界隈で広がっては、今度はそれをネタに脅してくる祓い人が出るかもしれない。
かすかでも、そう思ってしまったことは胸の奥にしまった。
「助かるよ。お言葉に甘えようかな」
名取は、眼鏡に付いた水滴を指で拭いながら微笑んだ。
「それにしても、結局最後まで水神の姿は無かったね。天候を操る程の神格の水の精……案外、河童みたいな感じだったりしてね」
冗談だと思ったのは咲耶だけではないようで、小鬼達二人と一緒に、次の言葉を待った。
あははという笑い声が妙に虚しく聞こえ、何の反応も得られないと悟った名取の表情からキラキラが消えていく。
「……え?なんでそんな無反応……?まさか」
神に近しい存在であればある程、その妖は姿を視せる相手を選ぶことが出来るという。
「ああ……周一先輩は選ばれなかったんですね」
大袈裟に憐れんで見せれば、名取は急にあたふたし始める。
「咲耶さんには視えたってことかい!?えっ、いつ!?」
この様子では、気配すら感じることが出来なかったのだろう。
普段は割と悠然としている名取の悔しがる姿に、思わず笑ってしまった。
東雲が、フンと鼻を鳴らす。
『伊達眼鏡の奥の目玉は節穴だったみてえだな』
「水神のご意志なら私の目のせいじゃないぞ、チビ鬼君」
雲行きが怪しくなりそうな二人のやり取りに、今日これまでの疲れがどっと押し寄せてくる。
ふうと息を吐き、井戸を振り返った。
日頃から土地の水脈を護り、気まぐれに人と波長を合わせてくれる優しい友人。
きっと、そうではないのだ。
水の恩恵にあずかることが出来る毎日に感謝を。それを護る視えない存在には、心からの敬意を。
尊き隣人。もう二度とまみえることは無いだろう。どうか、これからも白蛇神の眠りが安らかでありますように。
空気中の水気と雨に濡れた井戸が柔らかい日差しに照らされ、妙に神々しく見えた。
まるで演出されたような光景に、思わずふふと笑ってしまう。
帰ろう。帰って祖父に話そう。
踵を返し、その先で取っ組み合いの喧嘩になりかけている名取と東雲の姿を見、急に現実に引き戻された。
空中に浮かんだまま、その二人を眺めている早天を指でつつく。
「黙って見てないで止めてくれない?」
『雨降って地固まるのを待っている』
「……うまいこと言ったつもりなんだろうけど、待ってる時間が勿体ないのよ」
早天のドヤ顔をもう一度指でつつき、名取と東雲の仲裁に入る。
あれ程低く垂れ込んでいた雨雲はこの時にはすっかり消え去り、何も知らない晴天がどこまでも広がっていた。
fin.
心のままを言葉にすれば、名取は祓い人でも俳優でもない顔で笑い、東雲と早天は寄り添うように咲耶の傍にやって来る。
祖父と父への報告と警察への相談。井戸の蓋や注連縄の修繕に呪詛のお祓いなど、やらなければいけないことは山程ある。
三上の所業と、犠牲になった動物や妖のことを考えると、怒りと後悔で心が揺れる。
それでも、今は戻ってきた平穏を噛み締めずにはいられない。
「先輩、うちの実家に寄っていってください。服、そのままじゃ風邪引くかもしれませんし」
神崎に関わった祓い人が体調を崩したなどという噂が呪術師界隈で広がっては、今度はそれをネタに脅してくる祓い人が出るかもしれない。
かすかでも、そう思ってしまったことは胸の奥にしまった。
「助かるよ。お言葉に甘えようかな」
名取は、眼鏡に付いた水滴を指で拭いながら微笑んだ。
「それにしても、結局最後まで水神の姿は無かったね。天候を操る程の神格の水の精……案外、河童みたいな感じだったりしてね」
冗談だと思ったのは咲耶だけではないようで、小鬼達二人と一緒に、次の言葉を待った。
あははという笑い声が妙に虚しく聞こえ、何の反応も得られないと悟った名取の表情からキラキラが消えていく。
「……え?なんでそんな無反応……?まさか」
神に近しい存在であればある程、その妖は姿を視せる相手を選ぶことが出来るという。
「ああ……周一先輩は選ばれなかったんですね」
大袈裟に憐れんで見せれば、名取は急にあたふたし始める。
「咲耶さんには視えたってことかい!?えっ、いつ!?」
この様子では、気配すら感じることが出来なかったのだろう。
普段は割と悠然としている名取の悔しがる姿に、思わず笑ってしまった。
東雲が、フンと鼻を鳴らす。
『伊達眼鏡の奥の目玉は節穴だったみてえだな』
「水神のご意志なら私の目のせいじゃないぞ、チビ鬼君」
雲行きが怪しくなりそうな二人のやり取りに、今日これまでの疲れがどっと押し寄せてくる。
ふうと息を吐き、井戸を振り返った。
日頃から土地の水脈を護り、気まぐれに人と波長を合わせてくれる優しい友人。
きっと、そうではないのだ。
水の恩恵にあずかることが出来る毎日に感謝を。それを護る視えない存在には、心からの敬意を。
尊き隣人。もう二度とまみえることは無いだろう。どうか、これからも白蛇神の眠りが安らかでありますように。
空気中の水気と雨に濡れた井戸が柔らかい日差しに照らされ、妙に神々しく見えた。
まるで演出されたような光景に、思わずふふと笑ってしまう。
帰ろう。帰って祖父に話そう。
踵を返し、その先で取っ組み合いの喧嘩になりかけている名取と東雲の姿を見、急に現実に引き戻された。
空中に浮かんだまま、その二人を眺めている早天を指でつつく。
「黙って見てないで止めてくれない?」
『雨降って地固まるのを待っている』
「……うまいこと言ったつもりなんだろうけど、待ってる時間が勿体ないのよ」
早天のドヤ顔をもう一度指でつつき、名取と東雲の仲裁に入る。
あれ程低く垂れ込んでいた雨雲はこの時にはすっかり消え去り、何も知らない晴天がどこまでも広がっていた。
fin.
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