-introduction-
名前を変える
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「え、○○神社……?」
箱崎邸探索からしばらく経ったある日、夏目貴志は名取と会っていた。
向かいでコーヒーを口に運ぶ名取周一は、カップから立ち昇った湯気で眼鏡が曇り、胡散臭さが倍増している。
「そう。隣の市にある由緒ある神社。名前くらいは知ってるだろう?」
県内でも有名な紫陽花の名所であり、五穀豊穣や厄除開運のご利益があるとされる○○神社。
実際に行ったことは無いが、旅行雑誌の表紙の写真を見た記憶がある。
唐突にメインの話題として出されたその神社が、一体何だというのだろう。こうして急に呼び出されたからには、妖絡みの重要な話なのだろうが。
怪訝な気持ちが顔に出ていたのか、夏目の表情を確認した名取は苦笑した。
「そんなに警戒しないでくれ。今回はちょっと、個人的に会わせたい人がいるだけだよ」
「会わせたい人?」
1ミリたりともピンとこず首を捻れば、名取はゆったりと頷いた。
その人の名前は、神崎咲耶。
○○神社の子であるその人は、人ならざるものを視、強力にして天才と謳われる程の妖力を持っているという。
何故会わせたいと思うのか名取の意図は分からないが、単純な好奇心でその誘いを受けることにした。もしかしたら、知りたいことを知るための手掛かりになるかもしれない。
そもそも、名取の紹介であるなら、変に不審がることも無いのだろう。
─────
「咲耶さんは今まで県外にいたんだけど、最近こっちに戻ってきたそうなんだよ」
あの後、間も無くカフェを出た2人。
名取の案内で電車を乗り継ぎ、隣の市の中心部で降りた。
目的の○○神社は、ここから差程離れてはいない住宅街へ入ったところにあるらしい。
「阿呆め、本当にのこのこついて行っていいのか?神崎とかいうそいつも、妙な祓い屋かもしれんのだぞ?」
ふと、肩に掛けたバッグの中からニャンコ先生が顔を出した。居眠りをしていたようで、移動中バッグの中はずっと静かで、すっかりその存在を忘れていた。
「先生」
目の前に名取がいるというのに、祓い人を全て一括りにするような言い方に肝が冷えた。
咎めようとしたが、前を行く背中は構わずに「あはは」と笑う。
「咲耶さんは祓い屋ではないよ」
一瞬目が点になり、思わず「えっ」と声にならない声が漏れた。
急いで名取の隣に並ぶ。
「でも……強い妖力を持っていて、強力な術を使う人だって言いましたよね?」
「言ったね」
「祓い屋界隈に名を馳せる人だって」
夏目を見下ろす眼鏡の奥の目が、意地悪く細められる。
「惜しい。私は、祓い屋界隈"にも"って言ったんだよ」
思い返せば、そうだっただろうか。
てっきり、名取の祓い人仲間に会いに行くのだと思い込んでいた。そのため、無意識に身構えてしまっていたようで、ふっと緊張が緩む。
しかし、強い妖力を持っていながら祓い人ではないとは、一体どういうことなのだろう。
「咲耶さんが祓い屋なら、わざわざ会わせようとは思わなかったよ。夏目は、妖力を持つ人が即ち祓い屋だっていう構図に囚われている」
神崎咲耶に会わせたいという名取の思惑が分かりかけた。
この人は、夏目が抱える迷いや苦悩、視える者としての将来などを、気に掛けてくれている。
きっと、今の夏目に変化をもたらそうとしてくれているのだ。
足元のアスファルトの感触が石畳のそれへと変わり、賑やかな街中から緩やかに景観が変わる。
「ほら、あそこだよ」
名取が示した道の先に、石造りの荘厳な鳥居が見えた。
その鳥居の真下まで来ると、紫陽花なのだろうか、夏目の背丈よりも低い樹高の木々が、参道両脇からずっと奥へと続いている。
今は時期ではないが、紫陽花の花が咲く頃に訪れたらどんなに美しいことだろう。
ふと、脳裏を藤原夫妻や友人達の姿が掠めていった。
いつか、大切な人達と一緒に来たい。優雅な紫陽花の参道を、皆と歩いてみたい。
ぼんやりと脱線した考え事をしていると、唐突に射抜かれるような視線を感じた。
熱せられた冷たい刃が首筋に触れるような、恐怖すら覚える一瞬の出来事。
「……どうかしたかい?」
急にキョロキョロと辺りを見回し始めた夏目に、名取は不思議そうに首を傾げた。
箱崎邸探索からしばらく経ったある日、夏目貴志は名取と会っていた。
向かいでコーヒーを口に運ぶ名取周一は、カップから立ち昇った湯気で眼鏡が曇り、胡散臭さが倍増している。
「そう。隣の市にある由緒ある神社。名前くらいは知ってるだろう?」
県内でも有名な紫陽花の名所であり、五穀豊穣や厄除開運のご利益があるとされる○○神社。
実際に行ったことは無いが、旅行雑誌の表紙の写真を見た記憶がある。
唐突にメインの話題として出されたその神社が、一体何だというのだろう。こうして急に呼び出されたからには、妖絡みの重要な話なのだろうが。
怪訝な気持ちが顔に出ていたのか、夏目の表情を確認した名取は苦笑した。
「そんなに警戒しないでくれ。今回はちょっと、個人的に会わせたい人がいるだけだよ」
「会わせたい人?」
1ミリたりともピンとこず首を捻れば、名取はゆったりと頷いた。
その人の名前は、神崎咲耶。
○○神社の子であるその人は、人ならざるものを視、強力にして天才と謳われる程の妖力を持っているという。
何故会わせたいと思うのか名取の意図は分からないが、単純な好奇心でその誘いを受けることにした。もしかしたら、知りたいことを知るための手掛かりになるかもしれない。
そもそも、名取の紹介であるなら、変に不審がることも無いのだろう。
─────
「咲耶さんは今まで県外にいたんだけど、最近こっちに戻ってきたそうなんだよ」
あの後、間も無くカフェを出た2人。
名取の案内で電車を乗り継ぎ、隣の市の中心部で降りた。
目的の○○神社は、ここから差程離れてはいない住宅街へ入ったところにあるらしい。
「阿呆め、本当にのこのこついて行っていいのか?神崎とかいうそいつも、妙な祓い屋かもしれんのだぞ?」
ふと、肩に掛けたバッグの中からニャンコ先生が顔を出した。居眠りをしていたようで、移動中バッグの中はずっと静かで、すっかりその存在を忘れていた。
「先生」
目の前に名取がいるというのに、祓い人を全て一括りにするような言い方に肝が冷えた。
咎めようとしたが、前を行く背中は構わずに「あはは」と笑う。
「咲耶さんは祓い屋ではないよ」
一瞬目が点になり、思わず「えっ」と声にならない声が漏れた。
急いで名取の隣に並ぶ。
「でも……強い妖力を持っていて、強力な術を使う人だって言いましたよね?」
「言ったね」
「祓い屋界隈に名を馳せる人だって」
夏目を見下ろす眼鏡の奥の目が、意地悪く細められる。
「惜しい。私は、祓い屋界隈"にも"って言ったんだよ」
思い返せば、そうだっただろうか。
てっきり、名取の祓い人仲間に会いに行くのだと思い込んでいた。そのため、無意識に身構えてしまっていたようで、ふっと緊張が緩む。
しかし、強い妖力を持っていながら祓い人ではないとは、一体どういうことなのだろう。
「咲耶さんが祓い屋なら、わざわざ会わせようとは思わなかったよ。夏目は、妖力を持つ人が即ち祓い屋だっていう構図に囚われている」
神崎咲耶に会わせたいという名取の思惑が分かりかけた。
この人は、夏目が抱える迷いや苦悩、視える者としての将来などを、気に掛けてくれている。
きっと、今の夏目に変化をもたらそうとしてくれているのだ。
足元のアスファルトの感触が石畳のそれへと変わり、賑やかな街中から緩やかに景観が変わる。
「ほら、あそこだよ」
名取が示した道の先に、石造りの荘厳な鳥居が見えた。
その鳥居の真下まで来ると、紫陽花なのだろうか、夏目の背丈よりも低い樹高の木々が、参道両脇からずっと奥へと続いている。
今は時期ではないが、紫陽花の花が咲く頃に訪れたらどんなに美しいことだろう。
ふと、脳裏を藤原夫妻や友人達の姿が掠めていった。
いつか、大切な人達と一緒に来たい。優雅な紫陽花の参道を、皆と歩いてみたい。
ぼんやりと脱線した考え事をしていると、唐突に射抜かれるような視線を感じた。
熱せられた冷たい刃が首筋に触れるような、恐怖すら覚える一瞬の出来事。
「……どうかしたかい?」
急にキョロキョロと辺りを見回し始めた夏目に、名取は不思議そうに首を傾げた。
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