It’s raining cats and dogs.
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もう1枚の呪符を取り出すより先に、体が動いていた。
咲耶を庇うように妖の前に回り込んだ時、突然ぴんと空気が張り詰めた。
『……小物が、調子に乗ってんじゃねえぞ』
深い釜の底から響いてくるような声とともに、影の妖の背後に紅い小鬼がゆらと姿を現す。
その姿を見ていなくとも睨まれていることは理解しているようで、影の妖は声も出せずにぶるぶると体を震わせ始めた。
『来な』
紅い小鬼が優雅に手招きをすると、影の妖は引き寄せられるように宙に浮く。そして、
『ぎゃ…………』
ほんの一瞬の断末魔の後、空中に吸い込まれるようにして消え、残響すら無かった。
消えたというより、どこかへ連れて行かれたのだろうか。見ると、紅い小鬼の姿も無い。
訪れる静寂。
見る限り咲耶に怪我は無いようだったが、様子がおかしい。
大切な飼い猫を亡くして沈んでいるだけ。それだけが理由では、拭いきれないかすかな違和感がある。
それがどこから感じるものなのかは、すぐに分かった。
いつもなんとなく、"そういうもの"として視ていたが、咲耶を包むオーラのような柔らかな覇気が無いのだ。
「……ありがとうございました」
目が赤い。ここで泣いていたのだろうか。
「紅白の鬼達を従える程の君が、あの程度の妖を祓えないとは思えないけど。ましてや十二天将を式にする程の君が、ね」
跳ね返されることを承知の上で、鎌をかけた。
いつものように不敵に笑い、手加減の無い辛辣な言葉で突き放せばいい。
そう思っていたのに、返事の代わりに、咲耶の目からぽたりと涙が落ちた。
頭のてっぺんから、さっと血の気が引いた。
言い方を間違えたのか。この人を、傷付けてしまったのか。
咲耶は手の甲で涙を拭うと、すぐに的場から顔を逸らし、「そうですね」とだけ呟いた。
そして、そのまま振り返ることなく石段を下りていく。
今までどこにいたのか、白い小鬼がふわりと咲耶のあとを追って行った。
頬を撫でる風が、やけに冷たい。
肌に触れる程だった針は、もう少し深くに突き刺さる。何本も、何本も。
思わず、学生服の胸元をぎゅうと掴んだ。
「痛い…………」
後悔しているというのか、この的場静司が。
今は、ここに当てはまる他の言葉が見付からない。
胸はちくちくと痛むのに、咲耶の無事に安堵する自分もいて、本当に奇妙なことだと思う。
重い足を引き摺り、一人で石段を下りる。
足元に伸びた自分の影が、酷く寂しげに見えた。
It’s raining cats and dogs./了
咲耶を庇うように妖の前に回り込んだ時、突然ぴんと空気が張り詰めた。
『……小物が、調子に乗ってんじゃねえぞ』
深い釜の底から響いてくるような声とともに、影の妖の背後に紅い小鬼がゆらと姿を現す。
その姿を見ていなくとも睨まれていることは理解しているようで、影の妖は声も出せずにぶるぶると体を震わせ始めた。
『来な』
紅い小鬼が優雅に手招きをすると、影の妖は引き寄せられるように宙に浮く。そして、
『ぎゃ…………』
ほんの一瞬の断末魔の後、空中に吸い込まれるようにして消え、残響すら無かった。
消えたというより、どこかへ連れて行かれたのだろうか。見ると、紅い小鬼の姿も無い。
訪れる静寂。
見る限り咲耶に怪我は無いようだったが、様子がおかしい。
大切な飼い猫を亡くして沈んでいるだけ。それだけが理由では、拭いきれないかすかな違和感がある。
それがどこから感じるものなのかは、すぐに分かった。
いつもなんとなく、"そういうもの"として視ていたが、咲耶を包むオーラのような柔らかな覇気が無いのだ。
「……ありがとうございました」
目が赤い。ここで泣いていたのだろうか。
「紅白の鬼達を従える程の君が、あの程度の妖を祓えないとは思えないけど。ましてや十二天将を式にする程の君が、ね」
跳ね返されることを承知の上で、鎌をかけた。
いつものように不敵に笑い、手加減の無い辛辣な言葉で突き放せばいい。
そう思っていたのに、返事の代わりに、咲耶の目からぽたりと涙が落ちた。
頭のてっぺんから、さっと血の気が引いた。
言い方を間違えたのか。この人を、傷付けてしまったのか。
咲耶は手の甲で涙を拭うと、すぐに的場から顔を逸らし、「そうですね」とだけ呟いた。
そして、そのまま振り返ることなく石段を下りていく。
今までどこにいたのか、白い小鬼がふわりと咲耶のあとを追って行った。
頬を撫でる風が、やけに冷たい。
肌に触れる程だった針は、もう少し深くに突き刺さる。何本も、何本も。
思わず、学生服の胸元をぎゅうと掴んだ。
「痛い…………」
後悔しているというのか、この的場静司が。
今は、ここに当てはまる他の言葉が見付からない。
胸はちくちくと痛むのに、咲耶の無事に安堵する自分もいて、本当に奇妙なことだと思う。
重い足を引き摺り、一人で石段を下りる。
足元に伸びた自分の影が、酷く寂しげに見えた。
It’s raining cats and dogs./了
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