daybreak come.
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的場静司の力をもってどころか、的場一門が束になっても太刀打ち出来ないであろう強さ。それは、今ここで対峙しただけで分かる。分かってしまう。
そして、彼らを従える神崎咲耶という人の底知れなさに、ようやく気付く。
この2人の大鬼は、おそらく神格に次ぐ者達。
「的場静司さん」
何かと気に障る人物の声だが、今はその声こそが緊張を解くものだった。
頬を冷たい汗が伝い、息苦しさに喘ぐように深く息を吸い込む。
その間も、咲耶は変わらず笑みを浮かべている。
「祖父ではなく、私なら手に負えると思ったんですか?子供で、女だし?上手く引き込めれば、一門にとってはおとなしくて体のいいお飾りに出来ますもんね」
あははとわざとらしい笑い声を上げた直後、その笑みはあっという間に消え失せた。
「舐めないでくれる?」
たった一言を口にした声は、中学生の女の子とは思えない程に低く強い気魄がこもっていた。
もしかしたら、彼女にとって祓い人からの誘引は初めてのことではないのかもしれない。咲耶が口にした言葉は、実際に祓い人から浴びせられた言葉なのかもしれない。
自分もまた、そのような浅ましい連中のうちの1人だ。
同じ世界を視ることが出来るのは確かだろう。しかし、互いに立つ場所は明らかに違う。
咲耶という少女がいる場所は気高く眩しすぎて、的場のいる場所にいかに暗いかということがよく分かった。
祓い人になることにも、一門の頭首になることにも、迷いは無い。
しかし、裏切りの業が招いた運命というものに、俄に嫌悪は強まった。
何のために、神崎咲耶を一門に入れたかったのか。
もう1人の自分に問いかけられた質問に答えるなら、盾を、味方を欲していたのかもしれない。
得体の知れない不安は、いつも傍にいる。影のように。
思考を遮るように唐突に、ぐいと強烈な力で学生服の胸元を掴まれた。かと思うと、的場の体は易々と宙に浮いた。
眼前に迫ったのは、紅鬼の銀色の瞳。
その視線は氷のように冷たいのに、何故だろう、灼けるような熱を感じて今度は目を逸らすことが出来ない。
紅鬼の口の両端が釣り上がり、刃のような犬歯が覗いた。
『右眼に迫る影が視える』
楽しそうでありながら、その声は地を這うように低く、的場の心臓を締め上げる。
この鬼には、何が視えているというのか。それは、この先の未来の予見か。それとも、的場の心に巣食う不安というものを垣間見たのか。
「身の程を知ったなら、どうぞお帰りください。祓い屋に貸す名も手もありませんよ」
紅鬼の向こうでその姿を確認することは出来ないが、咲耶はまた笑っているのだろう。
紅鬼に参道脇の草むらに放り投げられ、強かに尻もちをついた後、どのようにして立ち去ったかは覚えていない。とにかく、走った。
そして、気が付いた時には、通学路から少し離れた川べりにいた。
下ろした両手は未だかすかに震えており、信じたくはないが、妖から初めて感じる真の畏怖というものに、委縮してしまっていた。
ざわざわと落ち着かない心境に反して、川面は夕陽を受けてキラキラと眩しい光を放っている。
何度も何度も、先刻の出来事を思い返しては思考する。思考の合間に、名取の言った言葉が通り過ぎた。
本当に、なんて思い通りにいかない世界だろう。
ふふ、と、自嘲に似た笑いがこぼれた。
何度思い返しても、脳裏に蘇るのはあの大鬼達ではない。美しい容貌で不遜に笑う神崎咲耶の姿が、どうにも焼き付いて離れない。
決して利用することなど不可能な存在だというのに。
「……諦めきれない」
何故そう思うのか、真意は的場にも分からないところにある。
ふと、肩に掛けるようにして羽織っていた"あの着物"を脱いだ。
今日、大鬼達と視線を交わしていた咲耶が"視える状態"だったとしたら、この着物は一体何色に視えていたのだろうか。
daybreak come./了
そして、彼らを従える神崎咲耶という人の底知れなさに、ようやく気付く。
この2人の大鬼は、おそらく神格に次ぐ者達。
「的場静司さん」
何かと気に障る人物の声だが、今はその声こそが緊張を解くものだった。
頬を冷たい汗が伝い、息苦しさに喘ぐように深く息を吸い込む。
その間も、咲耶は変わらず笑みを浮かべている。
「祖父ではなく、私なら手に負えると思ったんですか?子供で、女だし?上手く引き込めれば、一門にとってはおとなしくて体のいいお飾りに出来ますもんね」
あははとわざとらしい笑い声を上げた直後、その笑みはあっという間に消え失せた。
「舐めないでくれる?」
たった一言を口にした声は、中学生の女の子とは思えない程に低く強い気魄がこもっていた。
もしかしたら、彼女にとって祓い人からの誘引は初めてのことではないのかもしれない。咲耶が口にした言葉は、実際に祓い人から浴びせられた言葉なのかもしれない。
自分もまた、そのような浅ましい連中のうちの1人だ。
同じ世界を視ることが出来るのは確かだろう。しかし、互いに立つ場所は明らかに違う。
咲耶という少女がいる場所は気高く眩しすぎて、的場のいる場所にいかに暗いかということがよく分かった。
祓い人になることにも、一門の頭首になることにも、迷いは無い。
しかし、裏切りの業が招いた運命というものに、俄に嫌悪は強まった。
何のために、神崎咲耶を一門に入れたかったのか。
もう1人の自分に問いかけられた質問に答えるなら、盾を、味方を欲していたのかもしれない。
得体の知れない不安は、いつも傍にいる。影のように。
思考を遮るように唐突に、ぐいと強烈な力で学生服の胸元を掴まれた。かと思うと、的場の体は易々と宙に浮いた。
眼前に迫ったのは、紅鬼の銀色の瞳。
その視線は氷のように冷たいのに、何故だろう、灼けるような熱を感じて今度は目を逸らすことが出来ない。
紅鬼の口の両端が釣り上がり、刃のような犬歯が覗いた。
『右眼に迫る影が視える』
楽しそうでありながら、その声は地を這うように低く、的場の心臓を締め上げる。
この鬼には、何が視えているというのか。それは、この先の未来の予見か。それとも、的場の心に巣食う不安というものを垣間見たのか。
「身の程を知ったなら、どうぞお帰りください。祓い屋に貸す名も手もありませんよ」
紅鬼の向こうでその姿を確認することは出来ないが、咲耶はまた笑っているのだろう。
紅鬼に参道脇の草むらに放り投げられ、強かに尻もちをついた後、どのようにして立ち去ったかは覚えていない。とにかく、走った。
そして、気が付いた時には、通学路から少し離れた川べりにいた。
下ろした両手は未だかすかに震えており、信じたくはないが、妖から初めて感じる真の畏怖というものに、委縮してしまっていた。
ざわざわと落ち着かない心境に反して、川面は夕陽を受けてキラキラと眩しい光を放っている。
何度も何度も、先刻の出来事を思い返しては思考する。思考の合間に、名取の言った言葉が通り過ぎた。
本当に、なんて思い通りにいかない世界だろう。
ふふ、と、自嘲に似た笑いがこぼれた。
何度思い返しても、脳裏に蘇るのはあの大鬼達ではない。美しい容貌で不遜に笑う神崎咲耶の姿が、どうにも焼き付いて離れない。
決して利用することなど不可能な存在だというのに。
「……諦めきれない」
何故そう思うのか、真意は的場にも分からないところにある。
ふと、肩に掛けるようにして羽織っていた"あの着物"を脱いだ。
今日、大鬼達と視線を交わしていた咲耶が"視える状態"だったとしたら、この着物は一体何色に視えていたのだろうか。
daybreak come./了
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