daybreak come.
名前を変える
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
会合で知り合った名取周一は、祓い人として着実に歩み出した。
そして、自分————的場静司は、間違いなく時期的場一門の頭首になる。
的場一門の頭首になるということ。それが現実味を帯びる程、確実性を帯びる程、脳裏にはっきりとした輪郭を現してくる名前がある。
神崎家
古代、冥府の役人でもあった術師の末裔であり、代々続く宮司の家系である、神崎家。
先代の当主が強い妖力を持っていたということは、祓い屋界隈でも有名な話だった。
最近になり、その孫がさらに強力な妖力を持っているという噂が広がった。
伝説でしかない"十二天将"を蘇らせ、神域を司る者とも交渉が出来るという。
その噂が真実なら、神崎家の孫の力を得ることで、この先の的場一門の地位はより磐石なものとなる。
そして、
その先のことを考えようとして、やめた。
眼前に迫りかけた不安を払うように、ごしごしと右眼をこする。
————
「こんばんは」
思い立ったその日のうちに、的場の足は神崎家の現当主が宮司を務める神社へと向いた。
石造りの荘厳な鳥居をくぐり、参道を進むと、その先に1人の少年の姿があった。
しゃがみ込んで、飼い猫らしき三毛猫と触れ合っていた彼は、掛けられた声にすぐに顔を上げる。
夕暮れの下でも分かる整った容貌は大人びており、的場よりも幾分歳上であることが分かった。
境内の掃除をしていたのか、脇に置いていた箒を手に立ち上がると、少年は人慣れした表情で一侑する。
三毛猫は、的場の姿を見るとすぐにどこかへ行ってしまった。
「こんばんは。社務所はもう閉まってますが、どうぞご自由に参拝されていってくださいね」
営業用であろう笑顔。その目の前を、害の無い3枚羽根の蝶の妖がひらと横切った。
しかし、少年の目はそれを追わない。
「……今、珍しい蝶が飛んでいきましたね」
ふとした違和感に、敢えてそこに触れる。
少年は、きょとんとした顔で的場の視線を辿った。
「蝶?全然気が付かなかったな……暗くて見えなかったのかも」
あははと笑って再度一侑すると、そのまま参道脇の小道から住居の方へと立ち去った。
その後ろ姿を見送りながら、呆然としてしまっていた自分に気付く。
はたと我に返り、肩に掛けていたバッグをぎゅうと掴んだ。そこには、"視える人"の妖力の高さによって見え方の異なる着物が入っていた。
「……試すまでも無かった」
落胆が声となって吐き出される。
試す前に分かってしまった。
神崎家の孫は、妖力云々以前に、視えすらしない人だった。
思い返せば、全ては出処の知れない噂話だったのだ。
そんな噂話の裏も取らずに飛び付くなど、一体どうしたというのだろう。まるで、的場静司らしくもない。
————心のどこかに不安でもあるのか。
かすかに耳元を掠めたような自分の声に聞こえないふりをし、踵を返した。
鳥居をくぐったところで、自分の浅はかな行動を振り返り溜め息をついた。
気が抜けたためか、唐突に感じた視線に辺りをきょろきょろと見回す。その視線の主は、天を仰ぎ見なければ分からない場所、鳥居の上にいた。
荘厳でひんやりとした印象の大鳥居、その上にちょこんと座る2つの小さな影。
その姿は日本人形のように小さく、1人は紅い仮面を、もう1人は白い仮面を被り顔を隠している。そして、2人の頭上には、それぞれに小さくも鋭い2本の角が生えている。
鬼の子か、或いはそもそもが小柄な鬼か。
いずれにしても悪しきものではなく、害も無いように見えた。
2人の小鬼は的場をじっと見下ろしているが、何故か関わってはいけない気がして、そっと視線を外す。
しかし、祓い人として気になり、もう一度見上げてみると————
視線を外したのは数秒にも満たない時間だったが、そこにはもう誰の姿も無かった。
幻などではなかったはず。
だとしたら、あれは、神崎家の先代が従えていた式だろうか。
そして、自分————的場静司は、間違いなく時期的場一門の頭首になる。
的場一門の頭首になるということ。それが現実味を帯びる程、確実性を帯びる程、脳裏にはっきりとした輪郭を現してくる名前がある。
神崎家
古代、冥府の役人でもあった術師の末裔であり、代々続く宮司の家系である、神崎家。
先代の当主が強い妖力を持っていたということは、祓い屋界隈でも有名な話だった。
最近になり、その孫がさらに強力な妖力を持っているという噂が広がった。
伝説でしかない"十二天将"を蘇らせ、神域を司る者とも交渉が出来るという。
その噂が真実なら、神崎家の孫の力を得ることで、この先の的場一門の地位はより磐石なものとなる。
そして、
その先のことを考えようとして、やめた。
眼前に迫りかけた不安を払うように、ごしごしと右眼をこする。
————
「こんばんは」
思い立ったその日のうちに、的場の足は神崎家の現当主が宮司を務める神社へと向いた。
石造りの荘厳な鳥居をくぐり、参道を進むと、その先に1人の少年の姿があった。
しゃがみ込んで、飼い猫らしき三毛猫と触れ合っていた彼は、掛けられた声にすぐに顔を上げる。
夕暮れの下でも分かる整った容貌は大人びており、的場よりも幾分歳上であることが分かった。
境内の掃除をしていたのか、脇に置いていた箒を手に立ち上がると、少年は人慣れした表情で一侑する。
三毛猫は、的場の姿を見るとすぐにどこかへ行ってしまった。
「こんばんは。社務所はもう閉まってますが、どうぞご自由に参拝されていってくださいね」
営業用であろう笑顔。その目の前を、害の無い3枚羽根の蝶の妖がひらと横切った。
しかし、少年の目はそれを追わない。
「……今、珍しい蝶が飛んでいきましたね」
ふとした違和感に、敢えてそこに触れる。
少年は、きょとんとした顔で的場の視線を辿った。
「蝶?全然気が付かなかったな……暗くて見えなかったのかも」
あははと笑って再度一侑すると、そのまま参道脇の小道から住居の方へと立ち去った。
その後ろ姿を見送りながら、呆然としてしまっていた自分に気付く。
はたと我に返り、肩に掛けていたバッグをぎゅうと掴んだ。そこには、"視える人"の妖力の高さによって見え方の異なる着物が入っていた。
「……試すまでも無かった」
落胆が声となって吐き出される。
試す前に分かってしまった。
神崎家の孫は、妖力云々以前に、視えすらしない人だった。
思い返せば、全ては出処の知れない噂話だったのだ。
そんな噂話の裏も取らずに飛び付くなど、一体どうしたというのだろう。まるで、的場静司らしくもない。
————心のどこかに不安でもあるのか。
かすかに耳元を掠めたような自分の声に聞こえないふりをし、踵を返した。
鳥居をくぐったところで、自分の浅はかな行動を振り返り溜め息をついた。
気が抜けたためか、唐突に感じた視線に辺りをきょろきょろと見回す。その視線の主は、天を仰ぎ見なければ分からない場所、鳥居の上にいた。
荘厳でひんやりとした印象の大鳥居、その上にちょこんと座る2つの小さな影。
その姿は日本人形のように小さく、1人は紅い仮面を、もう1人は白い仮面を被り顔を隠している。そして、2人の頭上には、それぞれに小さくも鋭い2本の角が生えている。
鬼の子か、或いはそもそもが小柄な鬼か。
いずれにしても悪しきものではなく、害も無いように見えた。
2人の小鬼は的場をじっと見下ろしているが、何故か関わってはいけない気がして、そっと視線を外す。
しかし、祓い人として気になり、もう一度見上げてみると————
視線を外したのは数秒にも満たない時間だったが、そこにはもう誰の姿も無かった。
幻などではなかったはず。
だとしたら、あれは、神崎家の先代が従えていた式だろうか。
1/5ページ