先輩のクラスには先生と話す木村先輩がいた。しかも、揉みあいになっている。
先生が木村先輩に怒鳴った。
「お前のそのニヤけた顔、うざいんだよ！」
木村先輩は戸惑いながら、目を閉じていた。
私は思わず教室に飛び込み、木村先輩の前に入り、言った。
「先生やめてください！木村先輩が怖がってるじゃないですか！」
「今年の４月に入ってきた一年じゃねえか。先生が悪いっていうのか？」
その先生はすごく威圧的だった。しかも、先生とは思えないほど言葉が汚かった。
私の後ろにいた先輩が震えながら口を開いた。
「……山本さん、いいのよ。かばわなくて」
「だって先輩が……」
「大丈夫。私が一度殴られるだけで済むんだから。」
先生はフッと口角を上げ、笑いながら言った。
「さっき聞いただろ、一度殴られるだけで済むって。なぜだかわかるか？」
その先生からは威圧感と嘲るような態度を感じた。なぜこんなにも笑っていられるのか、私にはわからなかった。
「俺が木村楓の父親だからだよ」
私は開いた口が塞がらなかった。
木村先輩と放課後話す機会はあったものの、家族の話はしてくれなかった。友人の身に起こったうれしかったこと、自分の趣味や特技などばかりだった。私には心を開いてくれていると思っていた。しかし、これは木村先輩の優しさなのかもしれない。私に危害が加わらないようにするための。
再び先生は言った。
「これでわかっただろう。俺が楓のことをおもっていることが」
違う。これは愛なんかじゃない。恐ろしい地獄に投獄されているような気分になった。
どうしても、私は木村先輩を救いたい想いでいっぱいになった。
「先輩、逃げましょう！」
「え…？」
唖然としていた先輩の手をひっぱり、教室を勢いよく飛び出した。廊下を走り、学校の出口を出た。
私は何度も後ろを振り返った。しかし、追いかけてくる様子はなかった。
「先輩のことを匿うので、私の家に来てください」
先輩はうつむきながら言った。
「…いいえ、だめよ。すぐ見つかっちゃう…」
相手は自分通っている高校の教師。生徒の個人情報などいとも簡単にみることができる。先輩はきっと、私や私の家族を心配して言ってくれたのだろう。
「わかりました。だからといって、先輩のことを一人にしませんからね！」
先輩は、それじゃぁ、と言い、秘密の場所に案内してくれた。