初恋

それは、運命の歯車が再び動き始めるような感覚だった。
ギルバート・デュランダルは最初から、アーヤ・ファンが自分を慕うのではないかと、どこかで確信しているようなところがあった。彼女を監視し続けた十三年のあいだ、彼女の成長を、彼女の心の変遷を誰よりも知っているという自負があったからだ。
しかし、それが『恋』になった瞬間を知った時、彼の胸には確かに衝撃が走った。

「アーヤ、もう遅いから君は寝なさい。あとは私がやっておくから」
「……はい、議長」

彼女はなんでもないように返事をしたが、デュランダルはその些細な変化を見逃さなかった。感情の上澄みだけを取り出したかのような繊細な声、何かを言いたげに開かれては閉じる唇、熱を帯びた瞳、震えるように伏せられた睫毛。

(——まさか)

思わず彼女の瞳を覗き込むと、アーヤは驚いたように目を逸らした。
デュランダルはそれだけで理解した。

(これは、恋だ)

その瞬間、デュランダルは胸の奥にあった感情が掻き乱されるのを感じた。期待とも、恐れともつかない複雑な感情が湧き上がる。

「……アーヤ」

名前を呼ぶ声の震えを、デュランダルは抑えることができなかった。
彼女はその声に耐えられないかのように視線を落とす。

(ああ、間違いない)
(君は今——私に恋をしている)

知ってしまった。もう知らなかった頃には戻れない。
どうしようもないほど愛おしい。どうしようもなく、嬉しい。でも、同じくらい、抗いがたいほど罪悪感を感じる。
君の初恋を奪ってしまった。もう一度——いや、二度目だ。

『にーにー、あのね、えっとね……』

デュランダルの中に、13年前の記憶が蘇る。

『だいすきだよ……!』

小さな身体をもじもじとさせて、顔を真っ赤にさせながら一生懸命に言ってくれた『だいすき』を。
幼いながら、当時17歳だったデュランダルを慕っていた少女の姿を。

(私は……どうすればいい?)

君の気持ちに応えるべきなのか、それとも、君の気持ちが確かなものになるまで待つべきなのか。

(だが、最初からわかっていた——)

本当はもう、ずっと昔から答えは出ていた。

(君を愛している——)

だから、この手を伸ばせばいい。君の心を受け入れればいい。君を抱きしめて、君は私のものだと、愛していると囁けばいい。

しかし、その夜、デュランダルは何も言わず、ただ「おやすみ、アーヤ」とだけ呟いた。その言葉がどこか優しく、どこか甘く響いていたことに、彼女は気付いただろうか。
いや、今は気付かなくてもいい。ゆっくりと知っていけばいい。時間はまだある。十三年間も待ったのだ。これからも待ち続けよう。
デュランダルは仮眠室へ向かうアーヤの背中を見送りながら、彼女が幼かった頃の柔らかな日々を思い出していた。
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