秘められた才能

その日、デュランダルはザフト軍の士官学校であるアカデミーを訪れていた。今は新学期前の休暇期間であり、学生たちの姿はなく、教室も廊下も普段の喧騒とは虚しくがらんとしている。
デュランダルはアカデミーの責任者に案内されるまま、応接室のソファに腰掛けた。

「デュランダル博士、これが今年の新入生のデータです」
「ありがとう、いつも助かるよ」
「いえ、高名なあなたの研究のお役に立てることは、アカデミーとしても名誉なことですから」
「それはよかった。さっそく見せてもらおう」

デュランダルは手渡された書類に目を通す。そこには数日後に入学式を控える新入生たちの顔写真やプロフィール、そして事前に行われたテストの結果などが詳しく記載されていた。
デュランダルは軽く目を通しながらも、興味深くそのデータを確認する。
そしてとある生徒のデータに差し掛かった時、彼の瞳が一瞬輝きを映した。

「ん……?この子は……この目はどうして色が違うのですか?何か聞いていますか?」
「ああ、彼女ですか。やはり目に止まると思っていました。名前はアーヤ・ファン。瞳に生まれつき遺伝子異常があり、右目は見えません。しかし学力面でも体力面でも大変優秀な子で、入学前のテストでもとてもいい成績をおさめていました」

遺伝子異常——その言葉にデュランダルは思わず反応し眉を動かす。

「遺伝子異常か……気になるな。調べてみたい。彼女の生体データはあるかな?」
「ええ。全ての新入生の生体データを提供可能です。入学前の検査で採取した唾液と血液を冷凍保存しています」
「そうか、それはありがたい。助かります」
「いえいえ、こちらこそ、あなたの研究には私どももとても助けられていますから」

そしてもう一人、彼の興味をそそる生徒がいた。

「あとは……この子も気になるな。他の成績はまずまずだが、反射反応テストだけこの好成績とは……何かありそうだ」
「シン・アスカですね。彼の全体成績は中の上程度ですが、確かに反射反応テストだけは優秀でした。彼はオーブ出身で、戦闘に巻き込まれた際に家族が目の前で殺されているんですよ。そして一人でこのプラントへとやってきた……特異な経歴の持ち主です」
「うむ……その特異な経歴は、戦闘においてもきっと彼の力を引き出してくれるだろう、期待できる」

デュランダルは顎に手を当て思わず唸った。彼の脳内では書類の生徒が戦士として活躍する情景が鮮明に映し出されていた。その生徒の活躍が今後の情勢にどのような影響を引き起こすのか、彼の中で一瞬のうちに未来のビジョンが組み上がった。

「他に、気になる子はいませんか?」
「ううん……そうだな……ああこの子、レイ・ザ・バレル。彼はこの私が推薦したんですよ。私の親戚のような子でね、付き合いが長いんだ」

デュランダルは書類を持つ左手の親指で、その生徒の顔写真を撫でるように触る。彼の中のその生徒への期待が込められているようだった。

「お話は聞いています。彼は全てのテストでS評価またはA評価ですよ。本当に素晴らしい子だ。こんなに優秀な子に入学していただけるとは……本当に感謝していますよ」
「感謝するのは私のほうだよ。毎年データを提供してくれて本当に助かっています。おかげで私の研究も、日々完成に近づいていますからね」
「それはよかった。是非お役立てください。アカデミーは協力を惜しみません。今度学舎にも、彼らの様子を見に来てくださいね」
「もちろんだとも。アーヤ・ファン、そしてシン・アスカ……今すぐにでもこの目で見たいくらいだ」

デュランダルは先ほど目に留めた二人の生徒のデータを改めて目に通したあと、彼らのデータが書かれた紙を書類の束の一番上に重ね、ファイルに入れたあと自らのビジネスバッグに閉まった。

「入学式は週末ですから、お時間があれば是非」
「それは是非行かせてもらおう。彼らの華々しいスタートを見守れるのは私にとっても幸運なことだからね」
「お待ちしております」
「ええ。ではまた。帰りに生体データもいただいていこう」
「わかりました。すぐに準備させます」

デュランダルはドライアイスと共に専用の容器に入れられた生体データを受け取った後、アカデミーの責任者と握手を交わし、校舎を後にした。
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