凍える羽根、夜の帷
雪が深々と降り積もるクリスマスの夜。デュランダルは一人、議長執務室で書類の山に囲まれていた。
彼の目にはクリスマスなど映らない。己の果たすべき使命に向けて、ただ淡々と責務を果たすだけだった。
その時、部屋にノック音が響いた。
現れたのは、赤い軍服を着たデュランダルの護衛官——アーヤ・ファン。廊下の光を背に受けて逆光に照らされるその姿は、まるで聖なる夜に降り立った天使のようで、デュランダルは一瞬だけ息を呑む。
「こんな時間に、どうしたんだね?」
デュランダルは動揺を見せまいと穏やかに問いかけるが、その表情には疲労が浮かんでいる。
アーヤは彼の前まで歩み寄ると、手にしていた小さな箱を差し出した。
「クリスマス、ですから」
彼女のオッドアイは純粋そのもので、デュランダルの思考を一瞬にしてかき消す力を放っていた。デュランダルが箱を開けると、中には小さな天使のオーナメントが入っていた。
「天使が悪魔に贈り物をするとは、面白いことをするね」
「議長は悪魔なんかじゃありません。たとえ誰かがそう言っても、私にとっては、いつだってみんなを救おうとしてくれてる人です」
デュランダルは驚きと共に少し目を見開いてから、バツが悪そうにその目を逸らして答える。
「君は天使のようだ。だが、天使が悪魔に心を許すのは……危ないことだよ」
「もし議長が悪魔でも、私は議長と共にいたい。私は、あなたを信じています」
「……ありがとう、アーヤ」
彼はそう静かに答えると、アーヤに近づき、アーヤの頬に手を当てる。彼女の顔が少し赤らみ、瞳が潤むのを見て、デュランダルはほんの少しだけ、その光の温もりに触れることができたように感じた。
そしてアーヤの顔をしばらく見つめてから、その肩をそっと引き寄せ、自身の外套を広げるようにして彼女を自身の懐に包み込んだ。その瞬間は、まるで彼の背中に黒い悪魔の羽根が広がり、その闇がアーヤの純白を守るかのような光景だった。
「悪魔の羽根で君を包み込むなんて、天使にとっては堕落だろうね」
デュランダルが自嘲気味に呟くと、アーヤは彼の胸に顔を埋めながら静かに答えた。
「それでも、議長の羽根なら、私は安心できるんです」
その言葉に、デュランダルはほんの少しだけ目尻を下げる。自分が今、どれだけのことをしようとしているのか、それが世界にどんな結果をもたらすのか、アーヤはその全てを知らない。けれども、この世でただ一人、彼女だけでも自分を肯定してくれるなら、彼は彼自身の何もかもを許せるような気がした。
その夜、悪魔の羽根に守られた天使は、雪が降り積もる外の世界を知ることもなく、議長室という小さな檻の中で微睡んだ。悪魔はその温もりに触れながら、ほんの少しだけ外の寒さを忘れ、胸元の小さな天使に救いを求め続けた。
彼の目にはクリスマスなど映らない。己の果たすべき使命に向けて、ただ淡々と責務を果たすだけだった。
その時、部屋にノック音が響いた。
現れたのは、赤い軍服を着たデュランダルの護衛官——アーヤ・ファン。廊下の光を背に受けて逆光に照らされるその姿は、まるで聖なる夜に降り立った天使のようで、デュランダルは一瞬だけ息を呑む。
「こんな時間に、どうしたんだね?」
デュランダルは動揺を見せまいと穏やかに問いかけるが、その表情には疲労が浮かんでいる。
アーヤは彼の前まで歩み寄ると、手にしていた小さな箱を差し出した。
「クリスマス、ですから」
彼女のオッドアイは純粋そのもので、デュランダルの思考を一瞬にしてかき消す力を放っていた。デュランダルが箱を開けると、中には小さな天使のオーナメントが入っていた。
「天使が悪魔に贈り物をするとは、面白いことをするね」
「議長は悪魔なんかじゃありません。たとえ誰かがそう言っても、私にとっては、いつだってみんなを救おうとしてくれてる人です」
デュランダルは驚きと共に少し目を見開いてから、バツが悪そうにその目を逸らして答える。
「君は天使のようだ。だが、天使が悪魔に心を許すのは……危ないことだよ」
「もし議長が悪魔でも、私は議長と共にいたい。私は、あなたを信じています」
「……ありがとう、アーヤ」
彼はそう静かに答えると、アーヤに近づき、アーヤの頬に手を当てる。彼女の顔が少し赤らみ、瞳が潤むのを見て、デュランダルはほんの少しだけ、その光の温もりに触れることができたように感じた。
そしてアーヤの顔をしばらく見つめてから、その肩をそっと引き寄せ、自身の外套を広げるようにして彼女を自身の懐に包み込んだ。その瞬間は、まるで彼の背中に黒い悪魔の羽根が広がり、その闇がアーヤの純白を守るかのような光景だった。
「悪魔の羽根で君を包み込むなんて、天使にとっては堕落だろうね」
デュランダルが自嘲気味に呟くと、アーヤは彼の胸に顔を埋めながら静かに答えた。
「それでも、議長の羽根なら、私は安心できるんです」
その言葉に、デュランダルはほんの少しだけ目尻を下げる。自分が今、どれだけのことをしようとしているのか、それが世界にどんな結果をもたらすのか、アーヤはその全てを知らない。けれども、この世でただ一人、彼女だけでも自分を肯定してくれるなら、彼は彼自身の何もかもを許せるような気がした。
その夜、悪魔の羽根に守られた天使は、雪が降り積もる外の世界を知ることもなく、議長室という小さな檻の中で微睡んだ。悪魔はその温もりに触れながら、ほんの少しだけ外の寒さを忘れ、胸元の小さな天使に救いを求め続けた。