せめて君の隣で

いつからか、アーヤが笑わなくなった。執務に追われ、流れるような日々の中で、私は計画への野心と欲望に囚われ、彼女を支配し、操り、そして彼女は笑わなくなった。
去年のこの日を、私はふと思い出す。彼女が「こんなものしか用意できなくて」と買ってきた売店のケーキは、胸焼けがするほど甘ったるくて、イチゴなんて欠片程度しか入っていなくて、まるで酷いものだった。それに加えて「忙しかったから通販で選んだ」という流行りのブランドの手袋。この時期に使うには厚手すぎて、私は結局使うタイミングを逃してしまった。それでも、そんな何気ない日々が続いてほしいと思っていたのは、私の心からの願いだった。

そして今年。日付が変わるその時、彼女は執務室のソファで寝入っていた。私もその横でついうとうとと眠りに誘われていた。自分でも忘れていた今年の誕生日は、これといった言葉もなく静かに始まった。
去年は——そう、アーヤは0時00分になる前からそわそわとしていて、彼女の考えていることは顔を見ればすぐにわかった。彼女は「議長、お誕生日おめでとうございます!」と笑って、仮眠室からケーキとプレゼントを持ってきた。甘すぎるケーキと少し早い手袋。今では幻のようだ。

アーヤ……君は今、何を考えているんだ?君は壊れてしまったのか?
いや、私が壊してしまったのだ。これは私の罪だ。君が笑わないのは私のせいだ。彼女は自らの意思を封じ込めて、生きることだけに精一杯で、そして今、私の隣で眠っている。それだけが事実だ。彼女の手を握っても何も反応がないことが、私に現実を知らしめる。
今更ながらに思う。嗚呼、アーヤ、私は本当に、君を愛していたのだと——
本当に今更なことだ。彼女はもう元には戻らない。それでも私は、この手を離すことが出来ずにいる。
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