男性不信の女子がチョコレート渡してみた

その後、上機嫌なグランツさんはウィック君と中庭を後にしたため、私は一人中庭に取り残されていた。
まあ…、最後の少しばかりの強引さにはびっくりしちゃったけど、上機嫌になってくれたのはうれしかったりする。だから中庭の入口を見つめたまま一人フフっと笑ってしまった。

すると、閉じたはずの入り口のドアがガチャリと開いたもんだからビクッと体を振るわせる。


「なんだ。暴力女じゃないか。」


開いたドアから入ってきたのは墓守のクレスさん。両肩に見るからに重たそうな土嚢を抱えている。


「ど、どうしたんですかそれ?」

「庭師が一人で運んでいたから僕が運ぶと言ったんだ。」


…クレスさんは口が悪いけれど優しい人だ。かわいいエマが一人で運んでいるのを放ってはおけなかったんだろうなぁ…。
そう思うとなんだかまたほっこりしてニコッと笑顔が零れてきた。…まあ、「何笑ってるんだお前」って言われながら変な顔されたんだけどね。


「ところでお前はここで何してる?」

「あ、いや…、何かしてるってわけでは…」


ただ今はボーっと突っ立ってるも同然だったからおずおずとそう言うも、せっかくだからクレスさんにもチョコを渡しておこうと思い立った。だってゲームで一緒になった際には高確率で救助しに来てくれるしね。
だからチョコを取り出してクレスさんに差し出してみる。するとクレスさんはなぜかビクッと体を振るわせた。


「あああ!ご安心ください!怪しいものではありませんのでっ!」

「た、退魔護符じゃないのか?」

「日頃の行いが悪くてすみませんっ!でも違うんですっ!チョコですチョコっ!」

「………チョコ?」

「はい!
な…、何でも今日は“ばれんたいん”とのことで…。もし嫌でなければお受け取りくださ……い?」


最後まで言い終わる前にクレスさんの顔がみるみる内に真っ赤に染まっていったもんだから、それを不思議に思いながらただただ見ていた。一方のクレスさんは、震える口をおずおずと開く。


「う、嘘なら…、早く、言えよ!」

「は、はい?」

「ほら、はやくしろよ…!」

「え?えっと…」


クレスさんの言っている言葉をいまいち理解できない。だから頭に疑問符をいっぱい浮かべながら首を傾げていると、クレスさんは私の両手をその大きな手でギュッと掴んできた。
思わず「ひゃっ!」と情けない声を漏らすも、その手が退くことはない。むしろ更に力が強くなった。



「ぼ、僕は…愛して貰っても…、いいのか…?」



「……………ふぁいっ!?」





(愛!?愛し…、愛す…、愛して貰って……………、愛いぃぃーっ!!?)
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