嫌いなあいつ(傭兵)
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「……だが、ここまで取り乱すとは思ってなかった。悪かった。」
そう言うと、俺は退魔師の手首をそっと離す。だが、そんな俺の様子にきょとんとしている退魔師を見て、再びため息を吐いた。
「……写真、助かった。」
俺が気まずそうにそう言うと、退魔師は驚いたように少し目を見開きながら俺のことをじっと見てくる。これに更に気まずさを感じた俺は、目を瞑りながらポリポリと頭を掻いた。
「アレ、大事なやつだった。うっかりゲームに持ってきちまってな。あんたが身を挺して変態紳士から守ってくれたって聞いた。
……ありがとな。」
そう礼を言ってからしばしの沈黙がやってくる。これに耐えきれなくなり思わずうっすらと片目を開けて退魔師を見てみると、退魔師は相変わらず少し目を見開いたままだった。俺が礼を言う姿がそんなに珍しかったのか、そんなことを考えてこっぱずかしくなってきていたその時、突然退魔師は口を開く。
「……それは、よかったです…。」
おずおずとそう言いながら柔らかく微笑んでいる──、こんな退魔師の顔に俺は思わず見入ってしまった。
「チェ……、チェイス中、ふと振り返ったら鉤爪のハンターさんがあの写真を切り裂こうとしてるのが見えて……、なんだか大事な物な気がして……。
やっぱり大事なものだったんですね。無事お渡しできてよかったです。」
微笑んだままそう言う退魔師から俺は視線を外せなくなっていた。だが、徐々に気まずそうな顔になっていく退魔師を見てハッと我に返った俺は、自分の頬を力いっぱいひっぱたいた。そんな俺の突然の行動に退魔師はひどく驚いていた。
「ど、どうしましたかッ!?蚊でもいましたかッ!?」
「………気にすんな。」
見入っていた──、そんなこと言えるもんか。そう思った俺は退魔師から顔をそらせつつそう言ったが、退魔師はおろおろと動揺しているようだ。
「あああああ…っ、でも、傭兵さんのほっぺたが、赤くなってます……!痛そう……って、いつも攻撃してしまっている私がそんなこと言う権利なんてないんですが……、でも……っ!」
そう言いながら退魔師はあわあわと手を動かしている。だが俺は構わず立ち上がると、忙しく動いている手の片方を掴んで引っ張り上げた。それにより座り込んでいた退魔師は立ち上がり、俺の眼前にやってくる。
「ナワーブ・サベダー。」
「は、はい?」
「好きに呼べ。」
その距離感のままそう言ってやると、退魔師は少し目を泳がせて何かを考え始めた。だがしばらく経ってから何か閃いたのか、恥ずかしそうに、でも少しの無邪気さを含んだ笑顔を浮かべた。
「……じゃ、じゃあ!サベダーさんとお呼びしても…?」
好きに呼べと言ったのに律儀に聞いてくる退魔師に「ああ」と返事をしてやると、退魔師は少し嬉しそうに微笑む。その笑顔にこちらまで頬が緩みそうになったが、そんな顔を見せられるかと平然を装った。
ところでここでふと疑問が浮かんできた。
「……フルネームは?」
そう。退魔師は名前は名乗っているものの、なぜか名字を名乗りはしない。この荘園に来るぐらいだ、何か事情はあるんだと思うがなぜだか今無性に気になってしまう。だから思い切って聞いてみたのだが、退魔師はこの質問に気まずそうな顔をした。
「わ、たし…、名字はないです……。
………両親を、裏切って国を出たんです。両親にも国を出るなら名字は捨てていけと言われたし……。だから…、親から受け継いだ名字を名乗れる資格はないんです。」
バカでしょ、と自虐的に笑った退魔師の顔は今にも泣き出しそうだった。
確かにバカみたいだ。その様子じゃ親の忠告も無視して若気の至りで国を飛び出して。だが、親を裏切った自分を許さず今日に至るまで名字を名乗らずにきたことや素直に事情を話してきたことを少しいじらしくも思った。
胡散臭いやつではあるが、案外信用できるかもな。そう思った俺はついに頬の筋肉をほんの一瞬緩ませてしまった。
「【名前】」
また頬の筋肉を引き締めた俺は、退魔師の名前を呼んでみる。当の退魔師はというと、そんな俺をきょとんとした目で見上げてきた。
「……って呼んでいいか?」
退魔師の大きな黒い瞳から逃れるように視線をそらしながらそう言う。すると目の端にわずかに映る退魔師が「はい!」と言いながらふにゃりと笑っていた。
食わず嫌いのようなものをせずにもっと早く話してみるべきだったな──。
密かにそう思っていた俺だったが、ここで突然妙な気配を感じ取った。これに嫌な予感を感じた俺が恐る恐る【名前】に視線を戻すと、笑っていたはずの【名前】の顔が青ざめている…!
ここで俺はようやく気付いた。この距離感はこいつにとって近いということを。そして【名前】は男性不信だと言うことを……。
「イヤアアアァァァァーッ!!!」
【名前】のこんな叫び声の直後、腹部に意識を手放すほどの強烈な痛みがやってきたのは……、言うまでもないだろう。
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ナワーブ「ところで、タイマゴフって何でこんなに痛ェんだ?」
【名前】「霊体を、直接殴っているようなもんだからです。」
ナワーブ「……流石は詐欺師。よくできた設定だ。」
【名前】「詐欺師ッ!? 設定ッ!!?」
傭兵の二人称が「あんた」と「お前」が入り交じってるのは……、わざとです。
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