2.
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資料室に来るなり嫌な出来事が2つ起こった。
まず1つ目。「資料室の電気がつかない」。
……まあ、これはこの支部のあるあるだ。あちこちで電球が切れている。あくまで噂の話だが、基地長たちが本部より支給されている資金を横領しているからこういう細々したところまで行き届かないのだとか。
今は陽が上っているとはいえ、紙の日焼け防止のためにカーテンは閉め切られており、部屋全体が薄暗くなっている。まあ、何があるかがわかる程度に明るいのはせめてもの救いかな……。
そして2つ目。「誰かいる」。
きっとガープ中将に鍛えてもらった賜物だ。“見聞色の覇気”こそ使えないけれど人の気配というものは察知することができる。でも今回はばかりはそれが災いして資料室に入るなり誰かがいるということがわかってしまった。
基地長が資料室に来ることはまずないだろう。だけど、基地長を取り巻く上官の内はたまに資料室に来ることがある。……まあ、その上官たちにも嫌なことをされたことがあるわけで──……。
ああ、思い出したくもない記憶をふと蘇ってきてしまったせいで背筋がぞわぞわとする。もうこうなったらとっとと言われた資料を探して持っていこう。「2時間はかけてこい」と謎めい指示はされたけど、上官に会って絡まれるよりヘルメッポ君に嫌味を言われる方が正直何十倍もマシだ。
そんなことを考えながらあまり足音を立てないよう気を付けながら資料を探し始める。だけど、これは早々にして無駄に終わったようだ。「誰か」がこちらに向かってくる足音が聞こえたのだ。これには思わず大きなため息が出てきてしまったものの、こちらに向かってきているのならもうどうしようもないわけで。嫌だな……とは思いつつ敬礼をしてその人物を待っていた。
だけど、その人物の姿を捉えるなり私は敬礼のまま白目をむいて固まった。
「あの……、大丈夫ですか【名前】さん?」
よりにもよってその人物とは、なんとコビー君だった。
「あ、【名前】さん汗が…。本当に大丈夫ですか? よかったらハンカチ使ってください。」
「あ……、いや……」
「あれ? 少し震えてます? もしかして暗い場所が怖いとか?」
「あ……、いえ……」
「ドアが開いた瞬間【名前】さんだとわかったんですが、どうも様子がおかしかったので心配になって……。」
「あ……、えーと……」
「でも、大丈夫です!僕がついてますから!」
「……………。」
いや、全然大丈夫じゃないっ!
心の中でそう叫んだけれど、そんなことを露ほども知らないコビー君はニッコニコと笑っている。いっそのこと逃げてしまおうか。その笑顔の眩しさに当てられながらそんなズルいことを考えた私は、敬礼をしたまま目だけをチラリとドアの方に向ける。まあ、通常であればここからドアまで余裕で駆け込める距離なのだけど……、なんせ相手はコビー君だ。逃げ切るのはまず無理だろう。
となると、もう覚悟を決めるしかないわけで。軽く深呼吸するとコビー君の方に向き直った。
「あの……、昨日は本当に──」
「あ。そのことなんですが、謝らなければならないのはきっと僕の方です。」
意を決して面と向かって謝ろうと思った矢先、コビー君は申し訳なさそうに眉を下げながらこう言った。これにはきょとんとしたものの、コビー君はある疑問を投げ掛けてきた。
「【名前】さんは、もしかして背後に立たれるのが怖いんじゃないですか?」
思わず目を見開いた。次いで目を泳がせながら「あ……。」と声を漏らしたものの、その後に続く弁明の言葉が見つからない。だからこれがコビー君の疑問に対する答えになってしまったんだろう。コビー君は更に言葉を続けた。
「昨日【名前】さんの後ろに立った時、【名前】さんから恐怖心みたいなものが伝わってきたんです。後々考えてみたらあれは後ろに立たれたことへの恐怖だったんじゃないかなって。なのに僕、無遠慮にも後ろに立ってしまったので……。そのせいできっと怖い思いをさせたんだろうなぁって。だから、本当にごめんなさい。」
そう言って深々と頭を下げるコビー君のことを数秒ほどはボーっと見ていた。けれど、ハッと我に返った私は思わず敬礼をやめるほど慌てふためいた。
「いっ、いえ!頭を上げてくださいコビー大佐!悪いのは私の方です!だってほら!手を叩いてしまいましたし!」
「そんなの全然気にしてませんよ。それに、それだって【名前】さんが怖い思いをしなければ起こらずに済んだ話ですし。」
顔を上げたコビー君が眉を下げながら申し訳なさそうに微笑んでいる。いや、確かにそれはそうなんだけど……、上官にこうも謝られるのはなんだか忍びない……。だからどうにか謝罪の釣り合いを取ろうと謎の気遣いをする私はコビー君に謝罪すべきことを考えた。
「あぁ~…っ!でも、私だって……」
悲しいかな。謝罪すべきことがいっぱいある気がする……。それを自覚した途端、申し訳なさ過ぎてもういたたまれなくなってくる。そのせいで汗を滲ませた私は目をそらしながら「その…」と口ごもりつつ口を開いた。
「今朝、隠れて挨拶しなかったですし?」
「あ、確かにそれはショックでした。」
申し訳なさそうな微笑みはそのままに、どこか悲しそうな声色で放たれたこの言葉がグサッと刺さる。私はただ単に気まずいという思いから挨拶を避けてしまったのだけど、その声色から察するにコビー君をなかなかに傷つけてしまっていたらしい。おまけに隠れていたことがやっぱりバレていたのかとかまで考えると、途端に罪悪感やら申し訳なさやら「なんで隠れていたことを告白してしまったのか」ということに対するズルい後悔やらが込み上がってきた。そのせいで軽くパニックに陥り目が泳ぐ。