2.
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たくさんの水を飲んでようやく落ち着いたらしいヘルメッポ君は、私の隣の席に座っていてうなだれている。……うーん…、まあヘルメッポ君の自業自得だとは思う。私が手に持っているコーヒーを盗み取って勝手に飲んだのだから。とはいえ、私の特製コーヒーのせいでこんな苦しい思いをさせてしまったのだなぁと思うと、とても居たたまれないという気持ちもあり……。そんな思いから私は冷や汗を一筋垂らしつつ「申し訳ございません」と謝った。すると、ヘルメッポ君はキッと私を睨み付けると、目を飛び出させながら大きく口を開いた。
「なァにが『申し訳ございません』だ!!なんつーもん飲んでんだ!!まさかあんなもん毎日飲んでんのか!?体壊すだろ!!大丈夫かてめェ!!?」
「本当に申し訳ございません。」
「てめェの心配してんだよ!!!」
勢いのあるツッコミがしばらくしてから私の心配だと気付き、思わず目をぱちくりとさせた。なぜヘルメッポ君が私の心配なんかをしてくれるのか。嫌味こそ言われる心当たりは……悲しいことにあるけれど、心配してもらえる心当たりというか権利というか……そういうものは正直ない気がする。
そんなわけで何か返す言葉が見つからなくてあわあわとした。すると、ヘルメッポ君は呆れたような拗ねたような顔で「ったく」と呟くと、私のデスクの上にあったメモ用紙を1枚引きちぎって口を開いた。
「久しぶりに会ったらよォ、嬉しそうな顔一つもしやがらねェしよそよそしく敬語使いやがるし変なもん飲むようになってやがるし。おまけに今朝に至ってはコソコソと隠れてただろお前。」
この瞬間、ギクリと大きく体を震わせた。やっぱりあの時、気付いていたのか。ということはコビー君も? いや、実はヘルメッポ君だけ? ……いや、申し訳ないけどきっとそんなわけはない。となれば、なぜあの時コビー君は何も言わずに??
たくさんの疑問が次々と浮かび上がるものの、なぜかそのいずれもを口にすることができなくて。だけど、そんな私に構わずにヘルメッポ君は続ける。
「ホントはよ、お前に会ったら嫌味をいっぱい言ってやろうと思ってた。ある日異動にかこつけて突然居なくなりやがって。おまけに俺らにはもちろん、ガープ中将にまで挨拶がないなんてすげェ納得いかなかったからな。」
「う゛……」
「だけど、昨日のあの感じといい、すっかりしゃべれるようになっちまってるその敬語といい、【名前】にもいろいろあったってことがわかった。……まあ、俺は何があったのか進んで聞かねェが、あいつのことはちゃんと頼ってやれよ。」
「あいつ…?」
「コビーだよコビー!わかれよそんなぐらい!」
それが結構強めな口調だったせいか、はたまた顔をわざわざこちらに向けてきたせいか、ヘルメッポ君の声と共に唾が顔にビチャビチャとかかる。これが結構不快だったため思わず怪訝な顔になった。だけどヘルメッポ君はそんなこと構わずに、引きちぎったメモ用紙に何かを書きながら「まあ、その内でいいけどな。」と呟くように言った。
その言葉がやんわりと胸に刺さり、心がじんわりと温かくなる。だけど、その一方でなんだか動揺してしまって頭の中が真っ白になってしまった。
えっと……、ヘルメッポ君の言葉にどう返そうか──。そんなことを考えながら目を泳がせていたところ、突然目の前にピッとメモ用紙を突き付けられる。このおかげでどうにか我に返ることができた私は、ハッとしながらそのメモ用紙に視線を定めた。
「………ヘ、ヘルメッポ少佐、これは……」
「あー、そこに書いてある資料を全て借りてェ。」
そう言われ、メモ用紙を手に取って改めて内容を見る。書かれていた資料の内容は、ある事件とその事件を引き起こした海賊団についてのことだ。
……『全て』借りたいのか。なんと勉強熱心なんだろうヘルメッポ君は。というのも、これら『全て』の資料となると、この海賊団の船長が引き継いだ思想やら思想を引き継いだ元の海賊についてやら事件の現場となった島の歴史的背景などの資料も必要なるため、なかなかの量の資料が必要となるはずだ。
「わかりました。では、資料室へご案内しますね。」
感心はしつつも特に詮索はせず、気を利かせてこう言った──つもりだった。でも、ヘルメッポ君は独特のセンスのサングラスをクイっと下に下げて私の顔を見据えると、次第に目をにんまりと意地悪く愉快そうに歪ませた。
「違うだろ~【名前】少尉ィ~。俺は“少佐”であんたは“少尉”だ。つまり俺の方が3階級も上なんだ。言ってることわかるよなァ【名前】少尉ィ~?」
……つ、つまり、このメモに書かれている資料を全て持って来いということか……。そう察した私はギリギリ笑顔を保っているものの、この顔と煽り文句も相まって口の端を思わずヒクヒクと動かした。
だけどヘルメッポ君の言う通り、今や私の方が下僚なわけで。資料を取ってこいと言われたら取ってこなければいけない。気を抜けば浮かびそうになる青筋をどうにか鎮めながら「わかりました」と一言添えてメモ用紙を受け取った。
「あ~、ただし全っ然急いでねェから。間違っても急いで持ってくるなよ。少なくとも2時間はかけてこい。」
まるで釘を刺すように指をさされながらこう言われ、ん?と眉間にしわを寄せる。だって、普通こういう場合に言われるのは「急いで持ってこい」である。なのに「急いで持ってくるなよ」って……。
疑問符がたくさん浮かぶものの、とりあえず部屋を後にする。
「なんなら明日でも3日後でもいいからなァ!」
更に釘を刺すようにこう言われ、更に疑問符が浮かんでくる。そんな急ぎでない資料であればなんでわざわざ私に頼むのか。下僚をパシらせたせめてもの気遣いだろうか。……いや、それはまずないな。だって、あんなに腹が立つ煽り顔をしながら煽り文句を言ってきたんだもん。……じゃあ一体何なんだ──?
資料室に向かいながらいろいろ考えてみたけれど、考えたところでヘルメッポ君の魂胆が全く分からなかった。