2.
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「ふあぁ……っ!!」
込み上がってきた眠気に耐え切れず思わずあくびをしたものの、ハッとして目を見開く。
いけない私ったら。誰がどこで見ているとも知れないのに──。そんなことを考えて周りを見渡してみる。幸いにも上官の姿は辺りに見当たらなかったし、後ろをついてきている部下たちも雑談をしていて私のあくびには気付いていないようだった。
ああ、よかった。いくら昨夜は書類作成のために徹夜をしたからといってもここは支部の中だ。ちゃんと気を引き締めていこう。
そう思った矢先のことだった。
「あ!コビー大佐にヘルメッポ少佐!」
後ろをついてきていた部下の一人が嬉しそうにそう声をあげた。その名前に思わず体をギクッと大きく震わせる。「コビー大佐」に「ヘルメッポ少佐」──、他でもない私が今一番会いたくない人物だ。特にコビー君には!
そんなことを考えた私は挨拶すべく敬礼をする部下たちをよそにあたふたと周囲を見渡す。すると、ふと目に入ってきたのは恰幅のいい部下の姿。私は咄嗟に彼の後ろにさっと隠れた。
「【名前】少尉!?」
「ごめんなさい!どうかこのまま動かないで!」
私の不審な行動に部下たちが一様に疑問符を浮かべている。だけど、こんな不審な行動を取る上司なんかよりもきっと“海軍の英雄”の方が優先順位が高いわけで。部下たちは私のことはさて置いて、近付いてくる憧れの人にピシッと敬礼を決め込んだ。
「「「「「お疲れ様です!!コビー大佐にヘルメッポ少佐!!」」」」」
「皆さんもお疲れ様です!」
「お疲れさん。」
部下たちの元気な声に負けじと張られたコビー君の声。隠れるのに必死で見えないけれど、お手本となるような敬礼を返しているコビー君の姿が想像に難くない。そんな想像をしながらも私は気が気でなかった。咄嗟に部下の後ろに隠れたけれど、よくよく考えたらコビー君は“見聞色の覇気”を使えるのだ。つまり、こう隠れていてもすぐに見つけ出せてしまうだろう。
そう気付いてからは滝のような冷や汗が流れ出てくる。ああ、どうしよう……? 上官に挨拶をしないなんて以ての外だ。かと言って昨日の一件があるので、顔を合わせるのは非常にばつが悪い。つまりどっちに転んでも地獄……!!ならいっそ、どうかこのまま見つからずに────いや!でも絶対無理!!
「では、失礼します!」
「じゃあな。」
そんな葛藤をしていたのにも関わらず、コビー君とヘルメッポ君は意外にもあっさりとどこかに行ってくれた。
はあ、よかった──。そう胸を撫で下した私は、ふう、と大きなため息を吐いて姿勢を楽にする。でも、やっぱりこんな上司の姿は不審だったんだろう。部下たちが怪訝そうに私の様子を見ていた。その視線がとても痛い……。
「【名前】少尉……」
「ど、どうかしましたか?」
やっぱりこうなるよね……。わかっていた展開に落ち着いたはずの冷や汗が再び滲んでくる。
「いえ……、そのぉ~……、彼の背中にゴミくずが……。あ、でももう取れたので安心です?」
いや、もうこれは不審者そのものの言動だ。そう自覚して自分に呆れ返り、滲ませていた冷や汗を垂れ流す。だけど私の部下たちは本当によくできた人ばかりで、「そうですか」とみんな一様にほほ笑むとこの話を終わらせてくれた。
助かったぁ──…。そう胸を再び撫で下ろしたけれど、こんなごまかしは果たしていつまで続けられるんだろう……? そんな新たな疑問が頭によぎり、少し頭がくらりと眩んだ。
部屋に戻りデスクワークを進める。昨夜徹夜ついでに提出期限が先の書類の作成も少しだけ進めておいた。おかげでほんの少しではあるものの、抱えている仕事の量が減っている。なら、このまま頑張って自分の仕事を更に減らしておけば部下たちの仕事を手伝うことができるかもしれない。
……いかんせん、ここは基地長によるハラスメントが横行している独裁国家のようなところだ。対して、何度も言うが私の部下たちは本当によくできた人ばかりである。だから彼らには基地長よりもきっとふさわしい上官がいるだろう。つまりは、彼らにはそんな上官に早く巡り会ってこんなところから出ていってもらいたいのだ。
でも、ここは実力が物を言う天下の海軍である。そんな上官に巡り会えても実戦力がなければ意味ないわけで。となれば自身を鍛える必要があり、その時間が必要となる。上から押し付けられた範疇外の仕事までする時間なんて彼らにはもったいない。
だから私がもっとがんばらなきゃ──、そんなことを考えながら
しかし、なんだろう? 先程から部下たちがなんだか少しざわざわとしている気がする。マグカップ片手に書類に目を通しながらそう思ったその時、手に持っていたマグカップを不意に奪われた──
「──ぶっへええぇっ!?なんだこのコーヒー!?」
横を向いた瞬間、思考が停止した。なぜなら……、私のマグカップ片手に目を飛び出させながら舌を出し叫んでいるヘルメッポ君の姿がそこにあったからだ。
これには思考が戻るなり思わず椅子から転げ落ちた。だけどヘルメッポ君はそれどころじゃないらしく、私の部下が持ってきた水をものすごい勢いで飲んでいる。
……私の目が冴えるよう作ってる私特製のコーヒーだからな…。デスソースだったりジョロキアだったりを淹れる時にぶち込んでいる。普通の人はまずおいしいとは思えない産物だろう。実のところ私ですらも少し慣れてきたとはいえ、おいしいと思ったことは全くない。
椅子によじ登った私の目には、水片手に出した舌を必死で仰いでいるヘルメッポ君の姿が見える。これを見て申し訳なく思った私は、苦笑いを浮かべながら冷や汗を一筋垂らした。