1.元後輩たちが上司になって現れた件について
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『そのまま壁に手をついて尻を突き出しておけ』
『抵抗は絶対にするな? 泣き言もごめんだ』
『よォしいい子だ。ご褒美をくれてやる』
嫌な記憶がぞくぞくと蘇る。途端に全身がぞわぞわとして、怖くて怖くってたまらなくなった──
「──いっ、いや……ッ!!」
恐怖から混乱した私は、振り返るなり自分の手首を掴む手を叩いて振り払った。だけどその直後、コビー君の驚いた顔が目に入ってくる。
そうだった──。この手はコビー君の手だったんだ──。
そう気付いた私はひどく焦ってしまった。
「……ごっ、ごめんコビー君…!今の、違うの…っ!私っ、そんなつもりじゃ………っ!!」
焦ったあまり咄嗟に出てしまったタメ口にハッとして、思わず口を押える。上官に対してのタメ口が絶対に禁物だというのはこの支部に来てから学んだこと。いや、絶対コビー君ならそんなこと許してくれるだろうとはわかっている。わかっているものの、厳しく矯正されてきただけにとても怒られてしまうのでは…というまたも別の恐怖が襲いかかってきた。
「あ……、ご…っ、ごめんなさいコビー大佐…っ!」
「あ、あの…、【名前】さん!?」
「申し訳ございませんっ!!」
気まずさに焦りに恐怖に……と、混乱に混乱を重ねた私の頭はぐるぐるとする。そして、もうこの場をどう取り繕えばいいのかなんてものもわからなって、狼狽えながら2、3歩後ろへ下がった。
そんな時不意に後ろに出口があることに気が付く。そんなものを発見してしまってはとにかくここから逃げ出さなくちゃという思考で頭の中がいっぱいになって、もう何が何だかわからないまま出口に向かって駆け出した。
「【名前】さん!?」
コビー君にそう呼び止められたものの、正常な判断力を失っている私の足は止まらなくて。そのまま医務室を後にすることに成功する。でも、廊下出てからも私の足は止まってくれなくて、そのまま自分のデスクがある部屋へと足を走らせていた。
滑り込むように部屋に入ると、部屋の中にいた部下の海兵たちが一斉にこちらに顔を向ける。しかしながら私の今のこの姿は異様なんだろうか。部下たちは一瞬ギョッとすると、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「【名前】少尉!?大丈夫でありますか!?」
「ご体調も大丈夫でしたか!?」
「……だっ、大丈夫、です……っ、ご心配、おかけしました……っ」
「とても大丈夫にはお見受け致しません!」
「もう少し休まれていては……」
「いえ……、仕事もまだ残っていますので。」
心配してくれる部下たちを安心させるかのように笑いかけながらそう言うと、部下たちは一瞬互いの顔を見合わせる。そしてどうにか納得してくれたようで、何かあれば言うようにと一言言葉をくれて各々席へと戻っていった。……本当にできた人たちだ。自分たちだって少々のパワハラに苦しんでいるというのに。だからこそ私はこの人たちのフォローする立ち回りができるようがんばらなきゃ──……。そんなことを考えながら自分の席に着く。
席について書類とペンを手に取るなり、私の横からニュッと手が伸びてきてデスクにコトリとお茶が置かれる。腕を伝った結果、部下の一人が気を利かせて持ってきてくれたことに気が付いた。
「体が温まります。どうかご無理はなさらないでくださいね。」
「あ……、ありがとうございます……。」
せっかくなのでそのお茶を手に取る。偶然にも茶柱が浮いているお茶を見て、ふとガープ中将の顔が頭によぎった。次いでコビー君とヘルメッポ君と過ごしたいろんな思い出までもが頭をよぎってきて、ついには先ほど私がしでかしてしまったことまでもが頭に蘇る。その記憶を振り切るようにグッと深く眉間にしわを寄せると、しばらくしてからお茶をゆっくりと口に含んだ。
そんな折、お茶をくれた部下が「あ、そういえば……」とおもむろに口を開く。
「【名前】少尉は眠られていたためお聞きではないかと思いますのでご報告があります。」
「はい、どうしましたか?」
「コビー大佐とヘルメッポ少佐ですが、1カ月ほどはこの支部に滞在されるとのことです。」
それを聞いた瞬間、飲んでいたお茶が思わず気管に入り、ゲホッとむせ返る。近くにいた数名の部下がわざわざ駆け寄って私の背中を叩いてくれたことにより事なきを得たけれど……──、
「──今、なんと……?」
「はっ!コビー大佐とヘルメッポ少佐が1カ月ほどはこの支部に滞在されるとのことです。」
「詳細は分かりかねますが、なんでもガープ中将の代わりに来たとかで。」
「場合によっては滞在期間が伸びるとのことです。」
……再び、頭がぐるぐるとしてきて混乱しそうになる。幸いにも部下の前で醜態は見せまいという気力が働いてどうにか持ちこたえたものの……、なんという悲劇だろうか。ただでさえ会うことすら気まずかったのに、更に気まずさに気まずさを重ねてしまった……。
明日から一体どう立ち振る舞えばいいのか──、それを考えると気が気でなくなった私は仕事なんて手につかなくって徹夜する羽目になった。