1.元後輩たちが上司になって現れた件について
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港ではすでに軍艦が止まっており、支部の海兵たちがずらりと敬礼して並んでいる。その並びに一緒に来た部下たちとその延長線に並ぶと少し顔を俯かせながら敬礼した。
──きっと、私のことなんて覚えてない……──。
そう自分に言い聞かせたものの、気まずさやらなんやらで心臓が爆発しそうほどバクバクと大きな音を鳴らしている。おまけに冷や汗もタラタラと垂れてきて、もうここから逃げ出したくってたまらなかった。だけども当の元凶は着実にこっちへ向かってきているわけで。どうか私に気付かず立ち去ってくれという気持ちから敬礼はそのままに俯かせていた顔を更に俯かせた。
けど、それが逆に目立ってしまったのかもしれない。近付いてきていた足音は私の前でぴたりと止んだ。
これに嫌な予感を感じながらゆっくりと顔を上げてみる。すると、案の定目の前に目を輝かせながら笑顔を浮かべているコビー君がいた。
「やっぱり!やっぱり【名前】さんですよね!お久しぶりです!」
元気にそう言ながら私に向かって敬礼をしてくるコビー君。そんな光景を口をぽかんと開けながら穴が開きそうなほど見てくる海兵たちの視線が痛い……。そりゃあそうだろう。いまやコビー君は海兵たちにとって憧れの存在。そんな彼が位が下の者に向かって進んで敬礼しているんだから。正直やめてほしいなんてことを考えた私の冷や汗はより一層ダラダラと垂れ流れてきた。
「……お…っ、覚えてらしたんですね……。」
「もちろんです!随分と雰囲気が変わっていて一瞬わからなかったですけど……、でも!お会いできて本当にうれしいです!」
「確かに随分変わったなァ【名前】。一緒にいた頃なんか色気も何もなかったくせに随分と垢抜けちまって。」
「ヘルメッポさん、それセクハラだからね。」
「まあよかったじゃねェかコビー。前日からお前ずっとそわそわニマニマしたもんな。」
「ヘルメッポさん!!」
実は一緒に来ていたらしいヘルメッポ君がコビー君の背後からヌッと現れるなりいらないことをいっぱい言って、顔を真っ赤にしたコビー君に叱咤されている。すっごく懐かしい光景だ。一緒にいた頃はこれがコントみたいでおもしろくって笑いながら仲裁に入ったものだ。でも今の私にはそれを楽しむ余裕も仲裁に入る余裕もありゃしない。
「あの…、コビー大佐にヘルメッポ少佐、中で中将がお待ちかと思います。」
お世辞なんていいからとにかく早くここから立ち去ってほしかった私は、目を泳がせつつも早く行くようにとそれとなく催促してみる。だけど、コビー君はきょとんと、ヘルメッポ君は怪訝そうにじ~っと私の顔を見てきた。
──だ…っ、だめか──…。そう諦めかけたけれど、きょとんとしていたコビー君はニコッと笑った。
「そうでした。当分お世話になることですし、ご挨拶に行かないといけませんね。」
「え? 『当分』?」
「では、後ほどゆっくりお話ししましょう!積もる話がたくさんあるので!」
コビー君は続けて「では!」と元気よく言うと、軽く敬礼をしてから行ってしまった。
いや、だけど待ってほしい。「当分」とは? あと「後ほど」とは?? それから「積もる話」?? それも「たくさん」??
このたった数秒の間に飛び交った言葉を処理できない私の頭はぐるぐると混乱した。だというのに、更に追い打ちをかけるように近くにいた海兵からこんな言葉が聞こえてきた。
「もしや!コビー大佐はこの支部に
それはもううれしそうな声色だ。それがまるで伝染していくかのように他の海兵たちもうれしそうにどよめく。
だけど私の心中は穏やかではない。恐怖にも似た感情からついに白目をむいてしまったかと思えば、頭がぐあん、がくんと回る。周りの海兵たちが「【名前】少尉!?」と驚きながら呼ぶ声で私は倒れこんだんだと気付いたけれど、もう起き上がる気力なんてもうなかった……──