1.元後輩たちが上司になって現れた件について
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「コビー大佐がまたやってくれたらしいぞ!」
突如として耳に入ってきた懐かしい名前に思わずハッとした。
声がした方に顔を向けてみると、自主訓練の休憩中と思われる海兵たちが目を輝かせながら楽しそうに雑談している。だけど、私の視線に気付くと雑談を止めて「お疲れ様です!」と元気な声をあげながら敬礼をしてくれた。私は途端に気まずくなってはにかみながら軽く会釈をするとその場を足早に去った。
コビー大佐……、今や海軍の英雄の一人に数えられている彼だけど、元は私の後輩だった。
私は元々この支部ではなくガープ中将の下にいた。実の孫のように可愛がってくれるガープ中将を私もまた慕っていた……というのはまた別の話で、任務から帰ってきたある日、ガープ中将は出向いた先の“東の海”から連れてきたというコビー君とヘルメッポ君を紹介してくれた。
「歳が近いからすぐ仲良くなるじゃろう」というガープ中将の思惑は見事的中。私たち3人は程なくしてすぐに仲良くなり、私が面倒を見るという名目でよく行動を共にするようになっていった。特に3歳年下のコビー君とは気が合って、故郷の話やガープ中将に拾われるまでの話、将来の夢についてなどいろんな話をした記憶がある。……まあ、“麦わら”の話になるとすごくテンション上がるから若干引いていたけど。
彼らとはこれからもずっと高め合っていける仲だと思っていた。
……だけど、私自身が彼らと高め合っていけるようなできた人間ではなかった。
当時曹長だった私の地位に、コビー君はあっという間に追いついてしまったのだ。これには彼の、いや彼らの血の滲むような努力が報われたんだと喜ばしく思う反面、追いつかれたという焦りやら私は3年かかったのにという妬みやらそこまでの努力ができてしまう羨ましさやら……そんなよろしくない感情がぐるぐると渦巻いた。
……まだ、ヘルメッポ君のように「お前のことなんてすぐに追い抜かしてやるからな!」なんて負けん気の強いことを言ってくれてたら少しは気持ちが楽だったのかもしれない。
『いえ!僕なんてまだまだです!』
『きっと【名前】さんや皆さんのおかげなので感謝しなきゃ…!』
『もっとがんばります!』
はにかみながら謙虚にそう言うコビー君のその言葉がなんだか辛かった。
共に高め合ってきた後輩の成長を素直に喜べない自分が卑しく思えてガープ中将に相談してみた。ガープ中将は「ぶわっはっはっはっ!」と豪快に笑い飛ばしてくれた。「お前はお前のペースで強くなりゃあいいんじゃ」とも言ってくれた。だけど私の心の中に初めて芽生えたどす黒い感情は消えてはくれなかった。
挙句の果てには“頂上戦争”だ。これでコビー君は“見聞色の覇気”を覚醒させてしまった。これにはいよいよ「追いつかれた」という純粋な焦りから、「追い抜かれる」「置いて行かれる」という絶望にも似た焦りに変わってしまった。
そんな折、今いる支部の基地長をしている中将がガープ中将の元に来た。なんでも人手不足だから人員を割いてほしいという旨の申し出だ。
ガープ中将はこれをきっぱり断ったらしいけれど、私はこれをチャンスだと思ってしまい、基地長に支部へ連れて行ってほしいと直談判をした。
その結果私の異動は確定し、私はガープ中将の下を……、そしてコビー君やヘルメッポ君から離れることになった。……お別れの言葉も何も言わずに。
正直ほっとした。あの2人が、…コビー君が「自分なんてまだまだだ」なんて謙遜するくせに着実に強くなっていく姿をもう見なくていいんだって。
だけど、それとは別問題で異動してきたこの支部は酷かった。基地長による様々なハラスメントが横行していて、手柄も幹部たちに横取りされていく──、まるで独裁国家のようだった。私ももちろんハラスメントの対象になっていて………いや、それ以上のことをされた。
これを「心の殺人」とはよく言ったものだ。こんな形で私は『男の人』というものを知ってしまった私は、ガープ中将の下にいた時のような熱意も思い描いていた「夢」ももうすっかりどうでもよくなってしまった。
「コビー君、私のことなんてもう忘れてるだろうなぁ……。」
蛍光灯が切れている薄暗い廊下で足を止めた私は、自嘲的な笑みを浮かべながらそんなことをふと呟く。……本当に嫌な人間だ私は。自分でここに来ることを決めたくせに、…コビー君にもわざと何も言わずに来たくせに何を感傷的になってるんだろう。
──その時、ありがたいことに突然前方からバタバタと慌ただしく駆けてくる足音が聞こえてきた。おかげで感傷的なこの気持ちをかき消えて我に返ることができた私は正面を向いてみると、部下である海兵たちがバタバタとこちらに走ってきた。
「どうかしましたか皆さん?」
「【名前】少尉!大変です!」
「只今海軍本部よりコビー大佐が来られました!」
「え…っ!?」
駆け寄り質問した私にわざわざ立ち止まり敬礼をしてくれた海兵たちは口々にこう言う。それに思わず驚きの声を漏らした。噂をすれば……とはこういうことなんだろうか? そう思ってしまうほどあまりにもタイミングが良すぎる。
いや、だけど元後輩とはいえ今や彼は上官だ。上官がわざわざ支部に来るとあってはお出迎えしなければならないというのが暗黙の了解というものだ。だから私も慌てて部下たちと駆け出した。
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