2.
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「ごごごご、ごめんなさい……!! きっ、…昨日っ!その…、手を叩いてしまったりあんな醜態を見せてしまったりしたので、なんというか気まずくて…!あああ!でもまさかそんなショック受けてたなんて思ってもみなくって…!っていうかそもそも私のこと覚えてるなんて思ってなかったし……って違う違う!!これは話が変わってくるよね!?とにかく今朝のことはホントにごめんなさ──」
ここでハッとして両手を口で塞いだ。
ここ数年はこうも慌てふためくことなんてなかったから気が付かなかったのだけど、昨日といい今といい、どうやら私は慌てたり混乱したりするとタメ口が出てしまうらしい。コビー君はそんな人間じゃないとわかっていながらも、やはり上官にタメ口を使ってしまったことに対する恐怖がじわりじわりと込み上がってくる。まるでその恐怖ごと隠すかのように口を塞いだまま恐る恐るとコビー君の顔を見上げてみる。
だけど、なぜかコビー君は嬉しそうな顔をしながら込み上がる笑いを堪えるかのように口を噤んでいる。これに疑問符を浮かべた私が素っ頓狂な顔をすると、コビー君は「あ…」と申し訳なさそうに冷や汗を一筋垂らした。
「ごめんなさい【名前】さん。つい、昔のことを思い出して……」
「昔のこと……?」
「はい。昔……、僕とヘルメッポさんが本部に異動して間もない頃、【名前】さんはよく僕たちの訓練に付き合ってくれたでしょ? だけど、当時の僕はとても弱かったから【名前】さんの一撃を全然受け止められなくて…。そしたら【名前】さん、毎回すごく焦りながら謝ってくれて。今の【名前】さんを見てたらその時のことを思い出しちゃったので、すごく懐かしいなって思っちゃいまして。」
思わず「あ…。」と声が漏れた。それと同時に鮮明にその時の記憶が蘇ってくる───
──ボコッ!!
『ったぁ…!!』
『大丈夫かコビー!?』
『ごごごごごめんなさい!!ボガードさんが本気でいけって言うからホントに本気でいっちゃった!!って!やだ!でっかいたんこぶ!!どどどどどうしよう!!?ホントにごめんなさい!!』
『いえ!こんなの大丈夫です!それに、本気で来てもらった方がありがたいですから──』
──ああ、そういえばそんなできごともあった。その頃のコビー君はまだまだヒョロヒョロで、筋肉なんて全然なくって私より身長が低くって。私が本気でいくと容易くボコボコになっていた。「訓練だ」とは言われたけれど、ボコボコにしてしまったコビー君を見る度いたたまれなくなって平謝りしていた。それでもコビー君はめげないから私も付き合わざるを得なくて、こっちが音を上げたくなったことが何度もあった。
……まあ、こんなだからこの後すぐに私の一撃なんて受け止められるようになっていくんだけど。
「……よく、覚えてましたねそんなこと。」
「忘れるわけないじゃないですか。僕の大切な思い出の一つですから。」
そんなことを言われて、心がまたじんわりと温かくなる。この切なさを伴った温かさは一体何なんだ──、そんな秘かな葛藤をして眉間にしわを寄せる私の心情を知ってか知らずか、ちょっと照れ臭そうに微笑んでいるコビー君は言葉を続ける。
「【名前】さんは以前よりずっとキレイになっていて敬語も話せるようになっていて……、すっかり大人の女性になったけど、やっぱり【名前】さんは【名前】さんなんだなぁと思いまして。……あ!こっ、これはセクハラとか決してそういうのじゃないですよ!?」
冷や汗をダラダラ流しながら両手を左右にブンブンッと振りって慌てているコビー君を見た私はついにクスっと笑いを零してしまった。だって、締まらないなぁと思ってしまったのだ。でも、それと同時になんだか嬉しくも感じた。今やコビー君は海軍の英雄の1人だというのに、コビー君だってコビー君のままなんだもん。
そんなことを考えながら目線だけを上げてコビー君を見る。するとばっちりと目が合って、コビー君は真っ赤な顔のまま一瞬ビクリと体を揺らした。だけど、なぜかもう気まずいという感情は消えていて、また笑いが零れそうになる。
「……改めましてごめんなさい。」
「僕の方こそごめんなさい。」
お互いにそう謝ると、どちらからともなくクスクスと笑った。……あ~あ。私も随分と卑怯なことを考えるようになったものだ。逃げようとしたり隠れたりをせずともちゃんと彼らと向かい合っていればこうもうまいこと事が運んだかもしれないのに。
そう考えて少し反省した私は、あとでヘルメッポ君にもちゃんと謝ろうと思った。
「そういえば、【名前】さんはどうして資料室へ?」
そんな時、コビー君からこう話題を振られて思い出した。そうそう、他でもないそのヘルメッポ君からパシらされていたんだった。それを思い出した私は事情を説明しながらポケットをまさぐり、ヘルメッポ君から渡された紙をコビー君に見せる。すると、コビー君は「んー?」と大きく顔を傾けながら難しい顔をした。
「おかしいなァ。これ、僕が頼まれた資料と同じです。」
その瞬間、口元は弧を描いたままながら目を見開いた私は雷の直撃を受けたかのような衝撃を受ける。……いや、ありがたいのはありがたい。こうしてコビー君と話ができたわけなので。
だけど……、そう。嵌められたのだ。あのケツアゴに。
「あとでヘルメッポ君にもちゃんと謝ろう」などと思った私自身をちょっと恨めしく思ってしまった。
「ヘルメッポさん……、頼んだことを忘れるくらい疲れてるのかなァ?」
一方で、自分が嵌められたとも気付いていないコビー君はそんな優しい独り言を言っていて、思わず苦笑いをしてしまった。