わがまま(白無常)



アスレには板はまだ残っている。中央をカートさんが解読し終わるまで私がチェイスを伸ばせばいい!

「なんであんな刃が飛ばしてくんのよ!」

「命中して運が良かったですよ。……しかも[#dn=1#]さんにね。」

なんとかアスレには辿り着き、板を上手く使わないとと思っているとトレイシーが箱を漁っているのが目に入ってしまった。

「トレイシー!リッパーいる!早く逃げて!!」

くるりと後ろを向き、リッパーに向けて信号銃をぶっぱなした。

「ハアアアア、許しませんよ、[#dn=1#]。絶対に許しませんよ。」

「ごめん、[#dn=1#]。」

「リッパー!アスレで待ってるよー☆」

トレイシーは箱から出したボールを握りしめ、走って行ったのでホッとしたが、凄く怒りに満ちていたリッパーにギョッとした。

「直ぐに行きますよっ[#dn=1#]さん。」

リッパーは声を張った所で通電を告げるサイレンが鳴り響いた。

「えっっ、い、今?ちょ、まっ。」

折角の加速は板裏待機で潰れてしまい、板を倒すのと同時に刃が飛んできたため、壁に身体を打ち付けてしまい、足がもつれて倒れ込んでしまった。

「フフフ、[#dn=1#]さんさえ出血死でもさせれたらそれで満足ですからね。」

「まっま、ま、まってね、ちょ、っとだけでいいからっ、まってっ。」

バキっと板が踏み割られ、ギュッと目をつぶった。

「ヘアアアアアアアアっ。」

「……全く。お人好し過ぎますよ、銃をあんなタイミングで無くすなんて。」

鈍い音とリッパーの悲鳴と謝必安の溜め息混じりの声が重なっていた。

「謝必安!?ふええええ、怖かったよおおお。」

「大丈夫でしたか?これに懲りて協力狩りに行くのは辞めましょうね、[#dn=1#]。」

「我儘言ってごめんなさいいい。」

泣きじゃくる[#dn=1#]を見守っていたが、崩れ落ちる程の痛みから立ち上がったリッパーに冷たい声をかけた。

「海岸側のゲートにサバイバーがまだ居るみたいですよ。私の持ってきた幽閉がまだありますから早く行ってみてはどうです?」

「…………。」

「[#dn=1#]へのダウンを狙っていたのですが、手元が狂ってしまい貴方の後頭部に一撃が当たってしまったようですね、謝罪を申し上げておきます。」

「……そんな謝罪……許せませんねっっ。」

謝必安はリッパーの攻撃のモーションに入る前に顔面に黒いヘドロを投げ、続けて煙幕を投げた。

「クッ、何をっっヘアアアアアアアア。」

「おや、今日は本当に手元が狂いやすい日みたいですね。存在感溜めれる位しかサバイバーを殴れませんでしたし、すこぶる今日は調子が悪い様です。
さて[#dn=1#]。お待たせしました。」

ギラリと赤い瞳でニコリと笑い、私の前に手を差し伸べてくれたので、手を取るとそのまま引き上げ、砂ぼこりをはたいてくれた。

「……リッパー、生きてるかな?」

泥が飛び散った音とガラスが割れる音と、
先程より鈍い音がした後、リッパーはピクピク痙攣すらしている気がする。

「この男があっさり死ぬと思いますか?そんな事よりもゲートには煩わしいサバイバーが集まっているみたいですから、そちらの電話でバールを貰いましょうか。」

「……バール?あのバール?」

「ええ。あのバールです。見た事ありますか?」

[#dn=1#]はパァァァァと顔を輝かさせていたのでハンカチで涙の跡と鼻水を拭ってやり、姫抱きをした。

「あ、謝必安、歩けるよぅ。」

「ふふふ、いつもの様に甘えて頂けないとなると寂しくなりますよ、[#dn=1#]。」

「そう?じゃあ謝必安に歩いてもらおー?」

「ええ、[#dn=1#]の毎日のお世話もしてあげたいくらいです。リッパーが起きてはまた面倒ですからお電話してきて下さい?」

電話の前でゆっくりと[#dn=1#]をおろすと、[#dn=1#]が笑顔で受話器を取っていた。

「さて……。」

傭兵から拝借した通信機に「行って!私は地下に行く!」と発信するとワラワラとサバイバー手当やついて来てなどとチャットを飛ばしてきていた。早く出れば良いものを。

サバイバーを忌々しく思っていたが、ふとあの男の事を思い出した。

[#dn=1#]を諭し、約束を守ろうという姿勢が見えたので、ゲームが始まり居そうな所をまわっていると傭兵がいたので直ぐに一発殴って提案した。

通信機を貸してくれたら私の通信機を代わりに渡す。そして勿論[#dn=1#]は守るのと、通電後はサバイバーを逃がしてあげる事を条件に上げると、傭兵は少し考えていたが二つ返事で了承した。

「通電前は怪しまれない程度にサバイバーは殴りますし座らせますが、キャンプはしないのでそこは貴方の仕事ですよ。」

「分かった……。[#dn=1#]は船上か船下の暗号機にいる。」

「交渉成立ですね、キチンと暗号解読している様ですね。」

ゆったりとした動作で船に向かっていく謝必安の後ろ姿を見送った。

「……胃がもたん……。」

「ええっと、ハンターが近くにいるとでも送信すれば[#dn=1#]は逃げますかね?
そろそろリッパーがチェイスしているサバイバーがこちらに逃げ込んでは[#dn=1#]が巻き込まれますからね。」

ポチりと船に向かいながら送信すると、直ぐに暗号機が爆発した音がして、船の上から[#dn=1#]が飛び降りて、しっかりと転がり受け身を取っていた。

「………………。あれほど危ないから階段から降りなさいと言っているのに……まだまだお説教が必要ですね。」

謝必安は傘を構えて小屋に狙いをつけた。

「范無咎、少しだけ頼みますよ。」
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