わがまま(白無常)
「[#dn=1#]が居るなの!」
隣に座ったエマは喜びながら私にハイタッチを求めてきた。
「そうなの!おっけーもらったの!エマちゃん頑張ろうね!」
盛り上がっていた所に水を差すような、声が隣から聞こえてきた。
「……協力狩り…本当に行っていいのか?」
隣のナワーブはどこか顔色が悪いし、珍しくなんだか弱気に見えた。
「大丈夫!大丈夫!一戦だけなら良いって!!」
「そうか……。」
ナワーブの頭にはふと、あの時の会話が蘇っていた。
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あの時のハンターは白黒無常で、あと暗号機は1台。
二人は先に飛び、俺も飛び確。どうせ負けは濃厚だったからせめてノートンだけでも救助しようとしたが、救助狩りをされてダウンしたので、投降しようと思っていた時に声をかけられていた。
「そう言えば傭兵…貴方、前回のゲームで[#dn=1#]を見捨て判断をした事に間違いありませんか?」
「……それは……仕方なかった。寄生されてたし、全体に負荷がかかっていて、立て直しをした方がいい判断だったからだ。
[#dn=1#]も助けなくていいとチャットを飛ばしていたから……だ。申し訳なくは思っている。」
カッとなり傘で殴られるのかと思ったら、フーと大きな溜め息をついていた。
「[#dn=1#]を必ず救助して下さい。これは絶対です。戦況がどうであれ関係ありません。」
冷たく言い放つ白無常のうしろで、叫び声を上げながらノートンは飛んで行ってしまった。
「救助失敗なら仕方無しに多目に見てあげますが、救助に行かない事は無いよう約束して頂けますよね?勿論。」
目の前に傘が突き出され、ここで嫌だと言ったら確実に眼球を潰されそうな気がする。
いや、眼球ならましな方なのかもしれない。
「…分かった。必ず救助には行く。」
「サバイバーのわりに物分りが良くて助かります。ハッチは船側のゲート付近にありましたよ。」
見逃してくれそうな割には冷たく言い放たれ、興味を失った様に近くの椅子に座り休憩を始めていたので、立ち上がれる様に目を瞑って頭痛を鎮める事に集中した。
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あの約束のせいで仲間にも、なんなら[#dn=1#]からも怒られ、恋心を[#dn=1#]に持っていると噂もながされた。
まあ、当然青筋をくっきりとさせた白無常がゲームでファーストチェイスから通電後まで追われ続け釈明は本当に大変だったが。
だから[#dn=1#]に取らせるべき行動は1つしかない。
「囮は要らないから、隠密中心で解読するんだ。分かったな?」
「え?やだ。」
この女っっ……察してくれっ。頼む。
「協力狩りの暗号機はいつもより時間がかかるから皆で回さないといけないんだ。」
「香水もステッキも腐るじゃん?電話もしてみたいんだよね。楽しみじゃんー。」
こめかみ辺りの神経が切れる音がした。
「五月蝿い……解読しろ!」
「嫌だよーだ!チェイスの方が楽しみだから。小手も使いたいしー。ボールの方が良いかな?」
プイッと横を向くと、頬杖をついたウィラがニッコリと笑っていた。
「[#dn=1#]、解読でもチェイスでもどちらでもポイントは溜まるのよ?
それに……ポイントがなきゃアイテムは買えないのよ?……だから最初は解読した方がいいんじゃない?」
ウィラの言葉に納得し、改めて苦虫を噛み潰したような顔をしていたナワーブに向き直した。
「仕方無し!解読するよー。……初手は。」
「っっこの馬鹿女!」
「………馬鹿じゃないわよ、この無理救助フード!肉壁馬鹿傭兵!小手無駄遣いシャドーボクサー!」
「──────」
ナワーブの言葉は闇にかき消されて、目の前が真っ暗になり、私の心はワクワクと踊っていった。