わがまま(白無常)
バタバタバタと2人分の足音と荒い息遣いが廊下に響く。
何故、全力疾走かと言うと、サバイバーの館に堂々と白無常が入って来て私に用があるから呼び出して欲しいとウィリアムから伝言を聞いたから。
今は、慌てて食堂に走っている所。
「ねえー謝必安が?どうしたの?怒ってるの?」
「知らねーよ。ただすげー形相だったぜ……何かやらかしたのか?」
「……食べこぼしを拭いてくれるのはいつもだし、すぐ疲れるからおんぶしてもらうのもいつもだし…。お菓子が足りないって我儘言ったからかな?」
「……つまりいつも通りなんだな?」
「うーん。なんだろー。」
やけに重苦しい雰囲気のドアを開けて、ピリピリした空気のする食堂へと飛び込んだ。
──────────────
「はあ、はあ、はあー、謝必安ー、どうしたの?」
「こんにちは、[#dn=1#]。随分と遅かったですね。」
あれ?いつもの優しい声では無い気がする。
いつもならさっき来たとか、気にしないでと言うのに。
「……謝必安、怒ってるの?[#dn=1#]が悪い事何かした?疲れてないのにおんぶしてって頼んだから?もう、[#dn=1#]と友達辞めちゃうの?」
自分で言っておきながら鼻がツーンとして、じわりと涙が滲んできた。
「いいえ、[#dn=1#]。違います……が、あるサバイバーから聞いたのですが、もうすぐ始まる協力狩りに行かれるのですか?」
「ちっ……。だ、だってさ、香水だって使いたいし、ステッキだって持ちたいじゃん!」
誰がばらしたんだろう。謝必安に知られたら直ぐに止めにくると分かっていたから、昨日から楽しみにして黙っていたのに。
舌打ちを思わずしてしまったが、チラリと謝必安を見るとニコリと笑っていたので少しホッとした。
「箱を開けたらいいじゃないですか?
[#dn=1#]?もしも、[#dn=1#]の身に何かあってからでは遅いのですよ?」
「注射器しか出ないんだもん~。謝必安~お願い!今回は見逃して~。」
凄い形相をしてサバイバーの館に来ていた白無常に、数人のサバイバーが距離を取りつつ見守っていたが、いつものだと分かると早々に解散をし始めていた。
しかし、どの口がサバイバーの心配をしているのだろうか。……そんな、言葉をだれも口にはしなかったが。
「駄目です。普通のゲームで他のハンターと対戦になるのは仕方ありませんし、そうしなければ[#dn=1#]はここに居れません。
ただ、協力狩りはお遊びでしょう。駄目です。」
くっっ、反論は何も思い浮かばず、勢い良く立ち上がった。
「やだやだやだやだやだやだ!」
「友達辞めますか?」
「っっっ謝必安の馬鹿!!っっ酷いよっ、冗談でも言って、欲しくなかったのにっっ、謝必安なんて知らない!!」
[#dn=1#]の頬を大粒の涙がボロボロと伝い、うわーんと声をあげて泣きじゃくり始めてしまった。
「っっ[#dn=1#]!!……すみません、言ってはいけない言葉を言ってしまいました。
……分かりました。一戦だけですよ?約束出来ますか?」
「ほんとに?やったー!!謝必安大好きー。」
先程の涙はどこへやら、[#dn=1#]は私に抱き着いてきて、頬擦りもしていた。
もしかして……私の服で拭ってませんか?[#dn=1#]。
さっとポケットからハンカチを取り出して[#dn=1#]の少し乾いた頬を拭ってやり、ついでにポケットに入っていた飴玉の包み紙を開いて、[#dn=1#]の口に近付けてあげると、とても可愛い笑顔でパクリと頬張っていた。
「いちごだー、謝必安ありがとう。」
「喜んでもらえて私も嬉しいですよ。ゆっくり[#dn=1#]と過ごしたい所ですが、協力狩りの準備が必要でしょう。ではまた。」
謝必安はニコリと笑い私の頭を撫でて傘を投げてドロリと溶けてしまった。
「っっっやったあああ、協力狩り行ってもいいんだって!やったあああ!!」
嬉しそうに笑う[#dn=1#]に、遠くから拍手を送った。
「あら、許してもらえたのね……白無常はやっぱり甘いわねぇ。でも……いや、楽しそうだから私も参加しないと。」
ウィラはくるりと踵を返して、ゲームの待合室に向かった。
1/6ページ