1周年リクエスト企画
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【名前】とは、いつもころころと笑っているような明るい女だ。それに加え心優しく、だがここに来た辛かったろう経緯を微塵も感じさせない強かさもある。そんな明るい【名前】に陰気臭い夜虫のような俺もいつしか好意的に思うようになっていた。
だが、この“好意”が“恋愛感情”だということ気が付いたのは最近のことだ。まさか俺という人間にそんな感情があるだなんて正直驚いているが、その一方で柄にもなく案外悪くはねぇなんて思ってしまっている。
だからこそ、今この状況が非常におもしろくないと思っている。
「──それでっ、ファーチェの時についに限界が来て、あーもー誰か助けてー!って思いながら『手を貸して!早く!』ってチャットを送ったの!そしたらなんと、そのチャットの意味理解してくれたイライ君がすぐさまフクロウちゃんを飛ばしてくれたの~!彼って判断力すごいわよねっ!」
「へー。」
「セカチェの時はねっ、もうダメだ〜!って思った時、チャットを送ってもないのにガンジ君が助けに来てくれたのよ!リッパーさんをバコンっ!ってぶっ飛ばして助けてくれたその様は、まるでお姫様の窮地に助けに来た王子様のようだったわ!」
「へー。」
「それで、ガンジ君の粘着のおかげで4通電できたのだけど、私が脱出しようとゲートに着いた瞬間、リッパーさんが瞬間移動で飛んできちゃって…。でもっ!私の後ろから来てたパトリシアがお猿さんでリッパーさんを呪ってくれて…!その時のパトリシアったら勇ましくって!もう惚れちゃったかも!」
「………。」
なんでパトリシアにまで惚れてんだよ。
そう思いながら俺は青筋を浮かべつつジトリと【名前】を見る。だが、【名前】は俺のこんな視線には気付きもせず相も変わらず頬を赤らめながらニコニコ、ホクホク、と笑っている。
先述したことはこのことだ。俺は【名前】にゲームの戦局を聞いただけなのだが、なぜか【名前】は同じくゲームに参加していたメンバーの活躍がいかにかっこよかったかという話をしてきた。
大体な、チェイス中の人間が放つ「手を貸して!」のチャットはほぼイライに向けてするようなもんだろ。もしそのチャットを送ってもフクロウ飛ばしてこなかったら俺だったらキレる。あと、ガンジのことを「まるでお姫様の窮地に助けに来た王子様のよう」だと? あんな目ぇギラギラさせた躁状態の王子様が居てたまるか。そしてパトリシアは……、論外だ。
青筋を浮かべつつそんなことを考えた俺は、余計に苛立って更に青筋を浮かべてしまった。……いや、だが【名前】は元々何かにつけて人をすぐ褒めるような人間だ。その上今はゲーム後で、興奮していることも相まっているだけで他意はないのだろう。興奮が冷めないままの赤らんだ顔でいつもの癖を言ってきたもんだから、俺はまるで【名前】が別の男を賞賛するように聞こえてしまって非常におもしろくないと、そう思ってしまっただ。
そう考えた俺は、自分自身を落ち着かせようと眉間をギュッと強く押さえてみた。…ここは何かのツボなんだろうか。存外落ち着く。
「だ、大丈夫ナワーブさん!? もしかして頭痛い!?」
「何もねぇ。…つまり、4逃げで勝てたんだな?」
「ええ!みんなのおかげで勝てたのっ!」
明るい声色でそう言う【名前】を眉間を押さえつつちらりと見てみると、無邪気にころころと笑っている。眉間を押さえていたのも相まってか、その無邪気な笑顔を見ている内に俺は落ち着きを取り戻していった。
「まあ、一番の功労者はお前なんじゃないか。」
俺はほんの少し微笑みつつそう言った。実際【名前】の話を聞いていると、他の奴らの補助があったとはいえ5台分のチェイスをしている。それが今回のゲームで勝てた大きな要因といってもいいだろう。尤も、自分の手柄を鼻にかけず「みんなのおかげ」だと言ってしまえるところが【名前】のいいところではあるのだが。
一方で、俺の言葉を受けた【名前】は照れながら「えへへ」と笑っている。
「ナワーブさんにそう言ってもらえるとすっごくうれしいな。」
ああ…、クソ…。そんな笑顔をすんじゃねぇ。
【名前】が黒いバラの花を握りしめつつ浮かべた屈託のない笑顔に思わず笑顔が綻びそうになった俺は、そんな顔を浮かべてなるものかと眉をしかめた。
…それにしてもだ。明るい【名前】には花が似合……──
……
……
………って、ちょっと待て。
【名前】の話に気を取られていたせいか、今の今まで気付かなかった。何なんだあの薔薇は。
いや、だが女に花を贈るなんてキザな真似をする奴に俺は心当たりがあった。だから憎々しげに薔薇の花を睨みつけるように見ていると、その視線に気付いたらしい【名前】が「ああ、これ?」と嬉しそうに微笑みつつ言った。
「リッパーさんがくれたの!『貴女のその明るい性格のように前しか見ないチェイスに今日もしてやられてしまいました』な~んて言葉と一緒に!
ふふ、素敵よね!さらっと薔薇の花を渡してくるなんて!大人の男性の魅力に溢れてるわ!」
…それ、嫌味じゃねぇかよ。
そう思いながらも俺の中でふつふつと苛立ちが溜まり始める。無理もねえ。好きな女から他の男+αを散々賞賛する言葉を聞かされた挙句、クッソいけ好かねえ某変態似非紳士から薔薇の花をもらったという話を満面の笑みで話されたんだ。まだ他の男ならめちゃくちゃ苛立つ程度で済んだが、あの変態似非紳士となれば論外だ…!!
苛立ちに苛立ちが重なった俺は【名前】との間に空いていた距離をツカツカと詰め寄って縮める。そしてそんな俺をきょとんとしながら見上げる【名前】の頬を両手でむぎゅりと挟んでやった。これにより【名前】は唇が前へ押し出され、タコのような不細工な顔になる。だけども当の【名前】は、きょとんとしながらその唇をパクパクと動かして「どうしたのナワーブしゃん!?」などと言っている。
ああ、言ってやりてぇよ…!「お前のことが好きなんだよ」と…!「好いてる女が他の男を褒めてる言葉なんか聞きたかねぇんだよ」と…!だが、それのどれもが俺の口からは出てきやしねぇ。だけども一方で苛立ちだけは肥大化していきやがるもんだから、それによる感じてしまうこのもどかしさに俺は更に苛立った。
俺はフンと嘲るように鼻を鳴らすと【名前】の頬から手をどける。そして体を反転させるとツカツカとその場を去っていこうとした。だが、そんな俺の服の裾を【名前】がグイっと掴んでくる。なんだよとふてくされつつ振り返った瞬間、今度は俺が【名前】に両頬を挟まれた。とはいえ、俺と違ってその柔らかい両手でやんわりと優しく添える程度に。
「いやだわナワーブさん…っ!私、何か気に障る様な事をしてしまった…?」
顔をグイっと近付けてきた【名前】は大層不安げな顔をしながらそう言った。その不安そうな瞳の中にはきょとんとした俺の顔が映っている。その間抜け面を見て、ああ、なんて大人げねぇんだと自分で自分に呆れた。だから、はあー…と大きくため息を吐いてから、「あー…」と照れる気持ちを隠すように気だるげに口を開く。
「………悪い。妬いた。…めちゃくちゃ。」
不器用な俺にはこれが精一杯だった。だが、これだけでも俺が何を言いたいかは十分伝わってしまうだろう。さて…、【名前】がこれをどう思うだろうか、それを考えると柄にもなく不安になる。まあだが、【名前】がどんな返事をしてきたとしても俺は今までと変わりなく【名前】に接しよう。
若干顔に熱を集めながらそんなことを考える。だが、焦ったような顔をした【名前】がくわっと開いた口から出した言葉は意外なんてもんじゃなかった。
「“
それで機嫌が悪かったのね!? さてはナワーブさん強火で作ったでしょ!? 料理は火加減なのよ!何でもかんでも強火で作ればいいもんじゃないのっ!!」
「ふっっっざけんなよてめえッ!!!」
【ふざけんな fin.】
----------
不憫な傭兵と鈍感すぎる夢主。
(あとがき ⇒ 「【リクエストあとがき】ふざけんな(傭兵)」)