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この荘園に来て初めてお酒を口にした私は、お酒とはなんて美味しいものなんだろうと感動したものだ。むしろなぜ今までの人生ではお酒を飲まなかったのかと後悔すらした。
そんな私であるけれど、今猛烈に痛感させられている。お酒とはなんと恐ろしいものなんだろうと──。
お酒とは自分の体質や飲める量をちゃんと理解して飲まないと酔っ払ってしまうらしい。そして酔っ払ってしまうと判断力がかなり鈍って、想い人の部屋に押し掛けたいなんていう願望を実行に移してしまうらしい。頭の片隅に追いやられた理性がそんな分析し、ほんの少し冷静さを取り戻した私に猛烈な後悔と羞恥が押し寄せてくる。
でも、まだドアをノックしていない今なら何事もなかったことにできるわけで。だからどうかこのまま引き返せと理性は私に命令してきた。だけどやはりお酒のせいで判断力が相当鈍っている私はそんな命令なんてお構いなし。やってしまえ!という逸る気持ちに負けてしまい、ついに目の前にあるドアにノックをしてしまった。
「ああ、少し待っていてくれ。」
もう夜だ、人との交流が好きな彼は誰かとお酒を飲むべくもう部屋を後にしているかもしれない──、理性はそんな淡い期待を抱いたもののその期待は簡単に崩れ去り、やってしまったという後悔がドッと押し寄せる。だけど同時に胸を高鳴るほどの期待も押し寄せてきて、もう私の心臓は痛いくらいに鼓動を打っていた。
「おや? 【名前】ちゃんじゃないか。どうしたんだい?」
私の想い人ことアユソさんはほんの一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、すぐにいつもの大人の余裕を感じさせるような笑みを浮かべた。ああ、私はアユソさんのこの笑顔が好きだ。この笑顔にはとても弱い。だから先程の後悔も期待も忘れて、つられるようにふにゃりと笑った。
「デミちゃんにお酒いただいちゃったんです。でも一本丸々一人で飲み切れる自信なんてなくって……。だからアユソさん、一緒に飲んでくれません?」
手に持っていたお酒を顔の横に掲げつつそう言った自分に、デレデレしながらも我ながらうまく言えたものだと感心した。だけどアユソさんはほんの一瞬固まると、目線を泳がせるように背けてからしどろもどろと口を開いた。
「あぁ……、あれだ、もしかして【名前】ちゃん相当飲んだのかい?」
「ええ。デミちゃんと。あの子とっても強いからつられていっぱい飲んじゃって。どうしてわかったんです?」
「その……、ほっぺが随分と可愛らしいことになっているからね。」
「えっ?! やだ! そんなに赤くなってます!?」
「ハハハ、そうだね。……だから、その酒は次回の楽しみにとっておこう──」
紡がれる言葉から断られると分かった瞬間、私はしゅん…と眉を下げるとアユソさんを見上げた。これが自分で自分に引いてしまう程にあざとい行動だということはわかっている。だけど、女性に対する庇護欲が強いアユソさんにはきっと効果的だろうと思ったのだ。普段の私なら絶対にしないだろうこんな行動に冷静な部分の私がやめてくれ!!と悲鳴を上げた。本当にお酒って恐ろしい…!
一方でやっぱりアユソさんにこれが効果的だったようで。眉間にシワができる程目を固く瞑りながら下唇を噛んだアユソさんはしばらくその状態で唸ると、ドアを人一人通れる程度そっと開いた。
「──いや、せっかくだ。やっぱり一杯だけ一緒に飲もうか。」
「ふふ、ありがとうございます。うれしい。」
決死の行動の甲斐あって誘いを受けてくれたのはうれしいものの、なぜかアユソさんの笑顔にはいつものような余裕を感じられなかった。だけど、お酒のせいで知能指数が下がっている今の私は特にそんなこと気にするでもなく招かれるまま部屋の中へとお邪魔した。
「さて、どうやって飲もうか?」
「あ……、ごめんなさい。私ったらお酒しか持ってきてなくって……」
「ならストレートで飲もうか。【名前】ちゃんは大丈夫かい?」
「はい。アユソさんは?」
「ハハ! 僕はもっぱらストレートかロックでね。」
そんな会話をしながら案内された椅子に座ると、アユソさんは棚から持ってきたグラスを机の上にコトリと置いた。そのグラスにゆっくりとお酒を注ぐと、お互い手に取ってカチンと乾杯の音を鳴らしお酒をゆっくりと口の中に含んだ。
お酒を飲む時は大概水や炭酸水で割って飲んでいる。それだけにストレートで飲むお酒とは新鮮だ。割って飲む時には感じられない鼻に突き抜けてくる香りを味わえるという楽しみがあるのはもちろん、アルコールが脳に直接やってくるようなそんな感覚に陥られる。そのおかげでただでさえふわふわとしている頭が余計に愉快な気分になってきた。
「どうだい味は?」
「実はお酒をストレートで飲むのは初めてだったんですけど、なかなかおいしいですね。脳にアルコールが直接グッとくる感じというか。」
「ハハハ、なかなかおもしろい表現だね!」
「でもこれじゃあ、もっと酔っ払っちゃいそう。この部屋ではアユソさんと二人きりだというのに……」
やめろォ!!と叫ぶ理性も無視して、私はアユソさんに仕掛けるべくアユソさんの目をじっと見つめながら意味深な言葉を口にする。するとさすがはアユソさん、私のこの言葉から何かを感じ取ってくれたらしく、お酒を口からブフーッと吹き出すというリアクションを見せてくれた。
「……どうしました? 大丈夫ですか?」
「…あ…、あぁ……。大丈夫だ……。」
きっと大丈夫なんかじゃない──。
そうわかっている私は、落ち着け!落ち着け!と騒ぎ立てる理性に構いやせず密かにクスッと笑いを零すと、アユソさんをじっと見据えたまま膝をアユソさんの膝にちょん、と触れさせる。すると口を腕で拭っていたアユソさんは目を見開いて体を反応させ、私の方へ視線を向けた。
目が合った私はニコリと不敵に微笑んでみせる。そんな私の笑顔を見たアユソさんは、ハハハとあからさまに狼狽えたような笑みを浮かべると、その狼狽えをごまかすかのようにお酒を口の中へと流し込んだ。
「いやあ……、今日の【名前】ちゃんは積極的だね……。」
「あら、こんな私はもしやお嫌いだったり?」
「いいや、素敵さ。まるで口説かれてるようでね。」
「ようやく気付いてくれました?」
私がそう言った瞬間、アユソさんはまたも口からブフーッとお酒を吹き出した。そしてその後は再び腕で口を拭っていたけれど、じっと自身を見つめてくる私の視線に気付いたらしく、ハッとこちらの方に顔を向けてくる。そんな彼を逃がすまいと私は再び不敵に笑みを浮かべると、ゆっくりと口を開いた。
「そう。口説いてるんです、アユソさんのこと。」
改めて私の口からそう言うと、アユソさんはええっ!?と言わんばかりに目を見開きながらあんぐりと口を開いて驚いている。あんまりにも間抜けなその表情に再びクスッと笑いを零すと、お酒をクイッと口に含んで喉の奥へと流し込む。またも脳にアルコールが直接やってくるような感覚によりようやく理性を奪われた私は、その本能のままアユソさんに思いの丈をぶつけた。
「好きですよ、アユソさん。だからこそ欲が出ちゃって、毎日される挨拶代わりの口説き文句じゃ物足りなくなっちゃった。私を殺す程の口説き文句が欲しい……だなんて。
ああ、それか──
──体で説き伏せてみます?」
徐々に体を近付けていった私は、最終的にアユソさんの耳元でこう囁く。こんな私自身にわずかに残っている理性があああ~…と頭を抱えながら嘆いている一方で、私はアユソさんがこの後どのような行動に出るのかと期待でいっぱいだった。だって、もし期待通りに一晩中アユソさんに口説き文句を言われ続けたらどんなに素敵な夜だろうと思う。仮にもし体の関係になったとしてもきっと後悔はしない。
さあ……、さあ、どう出るの…?!
そんなことを考えてアユソさんの耳元でニヤリと口角を上げる。一方、私が自身の耳元で不敵な笑みを浮かべているなんて知らないだろうアユソさんはしばしの間固まった後、ごくり、ごくりと喉を鳴らした。コト、と音がした方を見てみると、空になったグラスが机の上に置かれている。確かアユソさんのグラスにはまだお酒が半分以上残っていたはず──、呑気にもそんなことを考えていたその時、突然体がふわりと宙に浮いた。
「……アユソさん…、」
抱き上げられたとわかったのはそのすぐ後で、ああ私はアユソさんに抱かれるんだと思った。だけどそんな私の期待とは裏腹にベッドからはどんどんと遠ざかっていき、ついには部屋の外へと出てしまった。
「ア……っ、アユソさん…っ?!」
私が掲げた選択肢以外の行動に困惑するものの、アユソさんは構わずに無言のままズンズンと歩いていく。そうしてたどり着いたのは私の部屋で、アユソさんは「失礼するよ」と一言言うと不用心にも鍵をかけ忘れていた私の部屋の中へと入った。
そして抱きかかえていた私をベッドの上にそっと優しく降ろす。ああ、自分の部屋ではなく私の部屋で私を抱きたいのかと思った私はなんだかそわそわとした。だけども咄嗟に何か言わなくちゃと考えて開いたその唇にアユソさんの人差し指がそっと添えられる。
「ご所望なんだろう? 殺し文句を。
……だが、それは今日じゃない。」
その言葉に目をぱちくりとさせる。そんな私を見たアユソさんは、ようやくいつもの大人の余裕を感じさせる笑みを浮かべた。
「ご希望とあれば一晩中でも一日中でも君のためだけに囁くさ。だけど、それはぜひ君が素面の時にさせていただきたいね。」
この瞬間、不思議なことに私は脳をふやかしていたアルコールがサーッと引いていくような、そんな感覚に陥った。それにより頭の片隅に追いやられていた理性が盛り返してきて、先ほどの私自身の言動に絶望にも似た羞恥をもたらしてきた。それにより白目をむいた私は口をぱくぱくとさせたものの、アユソさんはハッハッハッ!と笑いながらドアへと向かった。そして、ガチャリ、とドアを開くと同時にこちらへ顔を向けると、ニヤリと口角を上げた不敵な笑みでこう言ってきた。
「どうか、その時は逃げないでくれよハニー」
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【おまけ】台詞のみ
「鍵はちゃんと閉めておいてくれよ」と大人の余裕と格好を付けて【名前】の部屋を後にした後のカウボーイ(in 傭兵の部屋)
アユソ「俺はッ!!!がんばったッッ!!!!!」
ナワーブ「ああ、お前はよくがんばった。よく耐えたよ。とりあえず……、もっと飲むか?」
アユソ「ああ!」
ナワーブ「(ダセぇ)」
【酒は飲むとも飲まるるな fin.】
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好きな女のため格好をつけた漢と、この後その漢から逃げまくる夢主(でもその内捕まる)。
(あとがき ⇒ 「【リクエストあとがき】酒は飲むとも飲まるるな(カウボーイ)」)
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