伏字だらけのアイラブユー
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「今日は優鬼をしてくださるということかしらリッパー“さん”?」
私は困ったようにはにかむとそう言った。というのも暗号機を解読する私の横には、何を考えているのかさっぱり読めない無機質な仮面をした紳士が立っているからだ。彼は通称“リッパー”と呼ばれていて、私たちサバイバーを愉快げに、そして残忍に狩る恐ろしいハンターだ。
とはいえ、そんな彼が今日は狩りを楽しむ気配がない。もしかしたらいわゆる優鬼のつもりなのかもしれないけど、私も彼には何度も何度も体を切り刻まれたことがあるため、側にいられるだけで背筋がなんだかぞわぞわとする。だからついに耐えかねて嫌味混じりに冒頭の台詞を言ったのだけど…、リッパーはそんな私の台詞をもろともせずフフフ…と不気味に笑うだけ。
「なんせ私は紳士ですからね。傷心の女性を切り刻むなんてことできやしないのですよ。」
そう言われ思わずハッとする。そしてそれと同時に私の手は、自分の表情を確かめるかのようにスゥ―っと頬をなぞっていた。
「フフ、安心してください【名前】さん。このゲームに参加している者で貴女の異変に気付いたのは私ぐらいでしょう。」
これには内心ホッとした。確かに今日のメンバーは少し幼さが残るトレイシーちゃんに人との交流を苦手とするモウロさん、そして社交恐怖を患っているカール君だから私がよっぽど顔に出さない限りはバレないだろう。でも、もしこの中の誰かが別の人だったらバレていたかもしれない。例えば天眼を持つクラーク君や女性の些細な変化にはすぐに気付くアユソさん、気遣い上手なエミリーやパトリシア、そしてバカのふりして実は聡いあの人……──
「──もしかして、傷心の原因はオフェンスの彼ですか?」
私の脳に彼の笑顔が浮かんだ瞬間そう言われたものだから思わず目を見開いた。そして見開いた目のままゆっくりリッパーの方へ顔を向ける。だけども、その無機質な仮面のせいで今彼がどんな表情をしているかだなんてわからなかった。
「おや、やはり当たりでしたか。いやね、貴女が彼を見る時、なんだか他の方より情熱的に見ているような気がしまして。」
リッパーはわざとらしく少し驚いてみせるとそう言った。そんなリッパーを見ながら私は少しばかり眉を顰めながら額にわずかに脂汗を滲ませる。なぜなら、リッパーの言った通り私は以前からエリス君に秘かに好意を寄せていたからだ。
それは昨日の出来事だ。珍しく落ち込んでいる彼を励まそうとした流れでつい彼への好意を彼自身に漏らしてしまったのだ。しまった、うっかりしていたと内心動揺している私の目を、エリス君は大きく見開いた目で見据えていた。だけど私はそんな彼の視線が気まずくてフイっと目を逸らしてしまった。そうして数秒間の沈黙が私たちを包む中、その沈黙を破ったのはエリス君のハハ、と弱弱しい笑いだった。
『あ…、ありがとな【名前】さん。励ましてくれて。』
『で、でもよ!嘘はいけねぇよ!』
『【名前】さんが俺のこと好きだなんてそんなうまい話あるわけねぇじゃん!』
『ったく!【名前】さんも案外人が悪ィなぁもう!』
弱弱しいあの笑いから一転、いつも通りニカッと笑ったエリス君は私の肩をポンポンと叩きながらおどけたようにそう言った。…彼は聡い人だ。私を傷付けないようにそうおどけながら私の好意を断ったんだろう。だけど、その優しさが痛々しく胸に沁みてきて余計に辛かった…。
「あんたのことは好きじゃない」、そうきっぱり言ってくれた方が何十倍も優しかったよエリス君…──
「──よほど傷心なのですねぇ【名前】さん。」
回想と共に感傷に浸っている中、突然降ってきた低い声により現実へと引き戻される。そんな私の目の前には、私に視線を合わすために腰をかがめたリッパーが私の顔を覗き込んでいた。相変わらずこの無機質な仮面のせいで今彼がどんな表情をしているのかということはわからないけれど、仮面に開いた二つの穴からわずかに見える瞳が私をしっかり捉えているのがわかった。リッパーは私を捉えているその目を仮面の奥でにんまりと歪めると、かわいそうに、と優しい声で言ってきた。
「今の【名前】さんは見ていられませんよ。」
続けてそう言ったリッパーは、腰をかがめたまま鉤爪の付いた手をゆっくりと私の前に差し伸べてきた。まるで私をエスコートするかのように差し伸べられたその手からは敵意を感じられない。なら、本当に私を労るつもりでこの手を差し伸べてくれたのだろうか……。そんなことを考えている最中に通電を知らせるサイレンがゲームステージ中に響き渡る。
「よければゆっくりとお話を伺いましょうか【名前】さん…?」
ああ、普段は残忍な彼のことだ、これには絶対何か裏がある──。そう思ったものの傷心のあまり何かに縋りたかった私にとって今の彼のこの声もこの気遣いもあまりにも優しかった。だから……、私はこの手を取ることを選んでしまった。
けたたましくサイレンが鳴り響く中差し出した私の手を握り返してきたリッパーは、相変わらず目をにんまりと歪めたまま再びフフフ…と不気味に笑っていた
あれから数日後、夜な夜な増えていく胸元の赤い痣を鏡で確認した私はそれを服で覆い隠すと自室を後にする。そしてこそこそと隠れるように長い廊下を歩いていたその時、「【名前】さん」と私を呼び止める大きな声がしたものだから思わずビクリと体を揺らした。
「…もう外出禁止時間だぜ?」
私の様子を伺うように控えめに発せられたその声の主が誰だかなんて確認しなくてもわかった。だけども振り向いてみたところ、そこには案の定エリス君がいた。私を心配そうに見るエリス君の様子がなんだか気まずくて思わず脂汗が滲んでくる。
「こんな時間にどこ行くんだ?」
「………エリス君こそ。」
鼓動が響く中できるだけ冷静にそう返したつもりだった。だけどエリス君はどうにも何かが引っかかったらしい。少し眉を顰めたかと思いきや、「そういえば」とおもむろに口を開いた。
「何日か前のゲームでリッパーが優鬼してたんだってな。」
「……それがどうかした?」
「トレイシーが【名前】さんとリッパーが話し込んでたって言ってた。おまけに通電後も脱出してこなかったって。大丈夫だったか?」
「ええ、別に。
「──【名前】さん、」
私が言い終わる前にエリス君が遮るように割って入ってくる。そして眉間に深く皺を寄せて目を鋭くさせると、その目で私を見据えてきた。
「リッパーのこと、いつから“ジャック”と呼んでんだ?」
その指摘に私は思わず両手で口を覆って彼から目を逸らす。だけど私のそんな行動のせいでエリス君の顔は何か確証を得たらしく、見る見る内に顔を険しくさせていった。
「リッパーに何かされたんだな!? 一体何が…──」
すごい剣幕でそう言いながら私の肩を掴んで体を揺らすエリス君を私は力いっぱい突き飛ばした。すると意外にも彼はあっさり突き飛ばされてくれて、二、三歩後ろへよろめくこととなった。そんな私の行動はエリス君にとって意外だったのか、エリス君はひどく驚いたような様子で私を見ている。そんなエリス君の様子に心がズキンと痛んだけれど、そんな自分を自分で騙すように私は嘲笑を浮かべた。
「……たっ、…例え……っ!
……例え何かがあっても、少なくともあなたには関係ないわよね?」
更にそう言い放った私はグッと眉を顰めると、逃げるようにその場を後にした。
「おや、遅かったですねぇ【名前】さん…。」
その後、ジャックに教わっていた道をひたすら走りハンターの居館へとやって来た私は、そのままジャックの部屋へと駆け込む。だけどジャックはそんな私の様子にも動じることもなく、すましたようにそう言うとゆっくり近付いてきた。そうして私の前へとやって来た彼に私は何かを振り払うように思わず抱きついた。
「おやおや、今日は積極的なんですねぇ。」
ジャックは愉快げにそう言うと、抱きつく私を少し離して顎に手を添えてきて軽く持ち上げる。
「何かありました?」
「……見ての通り、走ってきたのよ。」
「ほォ、そうでしたか。
……して、走ってきただけですか?」
「………何で?」
「フフ…、いいえ。
どちらにしてもかわいらしくてね。」
ジャックは更に愉しそうな様子でいまいち的を得ないことを言うと、片手で器用にネクタイを解いて私の目を隠すように巻き付ける。そしてその手をそのまま胸辺りに移動させると、プチリ、プチリ、とボタンを開けて露出させた私の胸元に吸い付いた。
チクリとした小さな痛みが私を襲ったと同時に私の目からはなぜか涙が一筋零れていた。
【ヘヴンリー・アンダーグラウンド】fin.
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「切り裂く」のが好きなリッパーと両片想いだったオフェンスと夢主。
(ネタ提供元はドロロン様!ありがとうございますっ!そしてめちゃくちゃ長くなってごめんなさい…!)
(『NTR』というパワーワードと『優しい言葉に溺れておきながら想い人の顔が浮かんで涙する夢主』というネタ提供をいただいて滾りに滾った結果こうなりました!)
(ここでちゃっかり裏話…。リッパーは以前からオフェンスと夢主が両片想いだということを知っていました。)
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