嫌いなあいつ(傭兵)
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俺は、つい先日新しくこの荘園に来た退魔師が嫌いだ。
理由は簡単。あいつの歓迎会で初めてあいつに会ったわけだが、目が合っただけで謎の攻撃を受けたからだ。
…断末魔のような悲鳴と共に。
聞けば、オフダとかいう長細い紙を三種類のゴフとかいうやつに変えることができるらしく、その中のタイマゴフとかいうやつを俺に投げてきたらしい。その威力は衝撃的で、内臓が破壊されるような痛みだった。その日は俺だけでなく、野郎どもは全員そのゴフというやつを投げつけられ、全員床をのたうち回る羽目になった。
そんなことがあったもんだから退魔師にはいい印象を抱いていない。おまけに見た目も職業も胡散臭いから信用もできない。あと、話しかけようもんならプルプル震え出したり、断末魔のような悲鳴と共に攻撃してきたりと会話にもならないからイライラする。
「そんなこと言わないで!」
そんな話をマーサにすると少し怒りながらそう言ってきた。だから俺は思わず怪訝な顔をし、「は?」と声を漏らした。
「【名前】は男性不信なのよ。だから防衛本能っていうのか…、それで男にはあんな態度取ってしまうらしいの。」
「男性不信?」
「……親を裏切ってまで好きな人のために母国を出たのよ。なのに、その人にあっさり捨てられたの。
次の人には殴る蹴るの暴力を受けて、別の人には詐欺に遭ってお金だけ持っていかれて、更に別の人には愛人になれと関係を迫られたらしいの。挙句の果てにはホームレスよ?」
マーサの話は長いので要約する。つまりと
だが、ここまで聞いて俺は思う。
「自業自得じゃねぇかよ。」
長い話を聞き終わった感想を率直に言ったところ、マーサから岩のようなげんこつをガツンと食らう羽目になった。頭頂部を両手で押さえながら無言で痛みに耐える俺にマーサは「だからそんなこと言わないの!」と喝を入れてくる。
「それに…、【名前】の背中には無数の傷跡があるのよ。…恋人から受けた傷じゃないかしら……。」
聞けば、シャワールームで一緒になった時に見たらしい。それを思い返してるマーサは「かわいそうに…」と憐れむ目をしながら呟くように言っていた。
……だが、かくいう俺も戦争により体中に無数の傷がある。だから、傷如きがそれほど大層なもんなのかと思った。
とはいえこれを言えばまたげんこつが降ってくることだろう。なのでとりあえず「ふーん」と適当な返事しておくことにした。
「とりあえず!そういうわけだから【名前】のこと悪く言わないで!それにあんた誇り高いグルカ兵なんでしょ!?“頑強”なんでしょ!? 【名前】からの攻撃のひとつやふたつ耐えてあげなさいよ!」
「ビンタならまだしも、あいつのタイマゴフとかいう紙は内臓に来んだよ。」
無茶を言うマーサに苦虫を噛み潰したようにそう言ったが、なんせマーサはあの痛みを知らない。だから結局マーサはわかってくれなかった。
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「あ…、あの……、……よっ、傭兵さんっ!」
「…なんか用か退魔師?」
細めた目のまま振り向くと、退魔師は「ひっ!」と短い悲鳴をあげて縮こまる。おまけに視線が泳ぐ目に涙を浮かべながらプルプルと小刻みに震え出した。
……俺は何もしてないだろ。疲れてるのも相まってイラっとした俺は思わず舌打ちをした。
「ごごごごごごごごごめんなさい!こここここここれっ!」
退魔師は俺のこんな態度に思わず恐怖したんだろう。だが、こんな短い言葉でさえまともに話せない退魔師に更にイラっとした。
だけど震える手で何かを差し出してきたもんだから仕方なく手を伸ばす。その瞬間、退魔師とばっちり目が合った。
初めてまともに見たこいつの瞳の色は黒。東アジアの人間には多い瞳の色だ。特に珍しくはないんだろうが、
……だが、その一方で退魔師の顔色が見る見るうちに悪くなっていく。
「キャアアアァァァァーッ!!!」
そんな断末魔みたいな叫び声を聞いて俺はようやくマズイと思った。だが時既に遅く、タイマゴフが俺の腹目掛けて飛んでくる。
「ぐふっ!!」
俺はそんな情けない叫び声と共に膝から崩れ落ち、挙げ句地面に突っ伏した。だが、なぜか退魔師が「ひいぃ!!」と情けない声で叫びやがった。……叫びたいのは俺の方なのに。
「ご、ご、ご、ご、ごごごごごめんなさああああいっ!!」
そう言いながら退魔師は走って逃げていく。
……何なんだあいつは。何なんだこの仕打ちは。まるで通り魔だあいつ。
痛みに悶えながらもそんなことを考えて苛立った俺は、腹部を押さえながらどうにか上体を起こす。その瞬間、上からひらりひらりと何かが舞い落ちてきた。
「ん……?これは……──」
退魔師が渡してきたのは俺と相棒の写真だった。
……そういや、部屋で眺めてて間違えて持ってきたんだったな。
そうはわかったが、なぜ退魔師がこれを持っていたのかまではわからなかった。