We are linebacker
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「ごめんね!先に合流してて!」
「ったく…すみません。一人、先に来てると思うんですけど」
「はい。あちらでお待ちですよ」
WCの選手勧誘をされてから数日後。まだ正月気分が残っている、とある一日。俺の目の前には何故か、最強のラインバッカーが座っている。お互い口下手で会話が弾むわけでもないし、説明後はひたすら水を飲んで時間を潰すことしか出来ない。
そもそも、同じポジションとはいえ進との接点は少ない。俺とコイツを繋いでいるのはアメフトと…花音だけだから。
「遅くなってごめんなさい!」
「もう目はいいのか?」
「うん。ただその後にちょっと絡まれ「誰だ今すぐ教えろ」
「何もされてないよ!友達があそこにいますって、駿くんと進さんのほうを指差したら帰ったし!」
…いや、まだ接点があった。見ただけで怯えられる。進は知名度が高いし、俺も見た目からして怖いんだろう。何にせよコイツが無事で良かった。入店早々、目にゴミが入ったと半泣きでトイレに駆け込んだ時点で心配だったんだけどな。
ほっと一息つくと、花音は進の前で改めて頭を下げた。
「こんにちは、進さん。先日はありがとうございました」
「選手集めは俺にも関わることだ。気にするな」
「いえ、お蔭様でとても助かりましたし。それはそうと、どうして筧くんまで呼んだんですか?」
俺が最も知りたかったことだ。以前の家出騒動のお詫びとして、花音は誰かしらと約束を取り付けることがあった。進も今回そうしたわけだが、俺まで呼ばれた理由がわからない。
「筧に詫びることがあってな」
「別に心当たりはないんですけど」
「お前の知らないところで起こった。これだ」
ことん、と置かれたのは見慣れた箸。花音が俺用にと用意して、名前まで書いてくれたものだ。ペンギン柄なのが癪だったが、そこまでしてくれた好意が嬉しかった。
…っていうのに、なんでこんな見るも無残に真っ二つになってんだ。
「進さんがこの前、勢い余って折っちゃったの」
「すまなかった。その後のお前の箸も、甲斐谷が割ったと聞いた」
「俺に何の恨みがあるのか知らねぇけど、箸に当たるのはやめてください」
十中八九、俺用の箸ってのが気に食わないんだろうが。だからここ数回は来客用の箸で出されたのか。そりゃまさか、こんな事態になってるなんて思わねぇから、気に留めることもなかったけど…箸一膳で殺意湧きすぎだろ。似た境遇に置かれたらどうするかと言われたら、俺も迷わず折るだろうけど。
「この詫びとして、二人へ箸を買おうと思ったんだが」
「そんな、私の分まで買わなくていいですよ」
「前に料理を披露してもらった礼をしていないだろう。箸なら迷惑にならないと思うが」
…進まで飯食いに来てたのかよ。つーか、どんだけ家に人呼んでんだよ!甲斐谷も受け入れんなよ!キッドさんといい赤羽といい、一人暮らしを理由にして食いに来るヤツもいるし、油断出来ねぇ。でも、回数は俺のほうが上に違いない。…というか、せめてそうであってほしい。
「箸があったということは、筧は水瀬の料理を食べる機会が多いのか」
「そうですね。あ、でも怪我してからはキッドさんのほうが多いと思います」
「それすらダメかよ!!」
「ど、どうしたの?」
相手は怪我人だ。片手だけで料理するのは酷だろう。花音が心配してたのも知ってる。それでも悔しいものは悔しい。くっそ…二週間に一回ペースで招かれてんのに。でも二人きりで食ったのは俺だけだよな。警戒しろって怒ったし、流石に男一人だけ招き入れることはないだろう。
「…?具合でも悪いのか」
「彼は少し考えすぎなところがありまして。すぐ帰ってくると思うんですけど」
「そうか。お前達は仲が良いんだったな」
「えへへ、仲良しですよ。一緒に帰ったり先生してもらってます」
「先生?」
「実は英語教師だったんです!頑張って一番弟子になる予定です!」
「筧は高校生ながら、教師免許を持っていたのか」
…ああ、この天然コンビ。一通り突っ込むと花音はむっと頬を膨らませて、「本当に先生だもん!」と怒り、進に至っては「ならば家庭教師か」と真顔で答える始末。
確かに花音の先生になるとはいったけど、教師免許は持ってねぇし家庭教師というより…って、もういい。説明するのも疲れる。さっさと用を済ませて帰りてぇ。
「ペンギン柄のお箸置いてないね」
「普通に無地でいいだろ」
「折角だから可愛いのがいいよ!私は人魚姫の柄を希望します!」
「そんなの見たことねぇよ」
ケースならともかく、そんな箸はどこにもない。つーか、よく前回はこんなペンギン柄を見つけたな。俺はどっちかというと、手に合う箸が欲しいんだが。手がデカいせいか、普通のサイズだと使いにくい。
「進さんはどれがいいと思いますか?」
「使いやすさが大事だろう。デザイン性に関してはお前が決めろ」
「デザイン性…そっか!駿くん、使いやすい長さだけ選んでくれる?」
「長さ?んー…これとか丁度いいな」
「これね!長さと太さは…っと」
「急にどうしたんだよ」
「ないなら作っちゃおうと思って!丁度お箸作りの体験コーナーもあるし!」
花音が指差した方向には、確かに箸作り体験コーナーと書いてある。なんであるもので妥協しないんだ、とは不思議と思わなかった。元々何か作るのは好きだからな。どんなのが出来るか楽しみだ。
「じゃあ、作ってきます!色塗りコースで30分くらいだから!」
「ああ。気をつけてな」
そういって送り出したまでは良かったが、再び進と二人きりになるということをすっかり忘れていた。花音が遅れたのは5分弱だったからいいものの、30分とかどうしろってんだよ。
「………」
「………」
「…筧」
「は、はい!」
「水瀬のことで、一つ気にかかることがあるんだが」
「なんですか?」
「彼女はアメリカのとある選手を見て、酷く怯えていた」
「あのトンガリ鼻の男でしょう。会ったら真っ先にトライデントタックルで串刺しにしてください」
「そこまでしなければいけない男なのか」
「そこまでしなければいけない男です」
相手は俺達のことを知らないんだから、理不尽にも程があるだろうがな。それでも許せねぇんだ。花音が死に物狂いで勉強してんのも、友達を作ろうとしなかったのも、そいつが原因なんだから。
…親と暮らしたい、なんて俺達からしたら当たり前のようなことを夢だっていうんだぞ。誰にも言えない中で一人で頑張ってた。あの男のせいで何もかも我慢してるっていうなら、一発ブン殴らねぇと気が済まねぇ。
「進さんを日本一のラインバッカーだと認めた上で、頼みがあります」
「頼み?」
「アンタを超えるっつっても、実力が伴っていないことは重々承知です。今の俺じゃ、大和との約束を果たしても歯が立たないでしょう。それでも今、どうしても勝ちたい男がいる」
「その相手がアメリカ代表の、クリフォードという男か」
「はい。1秒でもいいから、そいつを止められるほど強くなりたい。手を貸してください」
実際に経験したからわかる。アメリカは、敵わないと諦めてしまいたくなるほどレベルが高い。そのトップなんて尚更、敵うわけがないと頭ではわかっている。
わかっていても…勝ちたいんだよ。現実問題がどうにもならなくても、せめて試合でケリをつけたい。そのためならいくらでも頭を下げて、恥掻いてでも強くなる必要がある。
「お前の試合を最後に見たのは泥門戦だ。あの時の失態を覚えているか。お前はアイシールド21を軽く見過ぎていたため、敗退した。過信は弱さにつながる」
「…はい」
「しかし、お前は水瀬が絡むと不思議と強くなる」
「フッ」
「む?」
「いえ、最高の褒め言葉です」
初めは、大和との再戦が目標だった。アイツに勝ちたくて努力してきた。でも、今は違う。巨深のメンバーと、花音と、一緒に全国制覇をしたい。
夢を応援してくれる人がいる。自分の良さを引き出してくれる人がいる。一度諦めようとした俺からしたら、そんな相手がいてくれるのは奇跡に近いことで。どんなに無謀だってわかってても、助けになりたいって思うだろ。
「花音の絡むことでは、誰にも負けたくありません」
「それがラインバッカーとしての誠意か」
「は?ま、まぁ…つーか、まだ信じてたのかよ」
「俺がいったのはあくまで第一印象の評価だ。今のお前は、何より精神面が強くなった。これから行う特訓に付き合う気はあるか」
「もちろん。アンタを超えるなら、その倍は練習しないと勝てませんから」
花音だって必死に頑張ってるんだ。弱音なんか吐いてられるか。どんなにキツくても絶対にこなしてやる。自分なりの強さを手に入れてやる。
俺はもうアメリカ相手に…逃げたりしない。
「ただし、代わりにお前の力を借りたい。水瀬の嘘や心情を見抜くのは難しい。俺の力が必要な時は知らせてくれ」
「こちらこそお願いします。でも、毎回桜庭さんに伝言頼むの面倒なんですけど」
「しかし、機械が勝手に壊れる以上どうしようもない」
「…普通に使ってれば壊れねぇよ」
ベストイレブンの時といい、なんでこの人は機械類を壊すんだ。機械だけじゃなく箸もか。どちらにせよ桜庭さん経由で連絡取るしかねぇみたいだし、個人的にお礼しとこう。あの人は花音だけでなく俺にも優しいし、普通にいい人だ。
「駿くーん!進さーん!出来ましたー!」
「おかえり」
「ただいま!じゃーん!ペンギンさんと人魚姫だよ!」
嬉しそうに見せてきた青い箸の先には、ペンギンの絵が描いてある。よーく見ると、瞳が渦を巻いているようだ。ここまで忠実に再現するとか、器用にも程があるだろ。
もう一つの水色の箸は、人魚姫のシルエットがメインだ。貝やサンゴ、滴まで丁寧に描かれてる。箸とは思えないほど綺麗だ。あと、もう一つ持ってるのは…
「折角なので進さんにも作ってきました。プレゼントです」
「俺にもか?」
「はい!ここにクロスと王冠と、40番って入れたんです。ちゃんと王城カラーですよ」
「…ありがとう。大事にしよう」
僅かに進が笑っているように見えて、自分の目を疑いたくなった。全く掴めない人だったけど、表情にも出始めてるのか。もし花音への感情を恋だと認識したら、これほど面倒なものはない。
内心はかなり焦っている俺とは違い、花音は俺と進を交互に見てそわそわしていた。
「あの、何か話してましたけど、進さんと筧くんは仲が良かったんですか?」
「あまり接する機会はないが、不仲ではないはずだ」
「良かった!きっとラインバッカーの3人はいい関係にな…ります?」
「なんで疑問形なんだよ」
「確かヒル魔さんが決めたチーム編成だと、もう一人のラインバッカーは阿含さんだったから」
「「………」」
進となら、多少の問題があってもなんとかやっていけると思った。ただ、阿含は別だ。チームプレイそっちのけで、独断プレイに走る可能性も十分にある。まず王子云々より、こっちの問題を解決すべきだった。
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