It’s obvious
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新主将になって二週間ほど経った頃、花音に水族館に行こうと誘われた。いつものメンバーと一緒かと思いきや、まさかの二人きり。夢でも見てるのかと頬を抓ったが、普通に痛かった。どうやら現実らしい。
東京大会中は色々あって、一緒にいられる機会も少なかった。厄介な敵は増え続けているが、俺にもツキが回って来たに違いない。
「あっれー?何ニヤついてんの?」
「べ、別に。普通だろ」
「なぁ筧、次の試合の日程はどうなってたっけ」
「はい。今確認してきます」
どうやら無意識に顔に出ていたようだ。気持ちを切り替え、部活のスケジュールをチェックした。仕事はまだ不慣れながらも、板についてきたと思う。先輩や彼女のサポートもあるし、それほど大変じゃない。早く一人で対応出来るようにしたいけどな。
「はぁ…はぁ…遅れてごめんね!」
「遅れるも何も、まだ約束の10分前だろ」
「ふふ、駿くんも楽しみだったんだね。今日は何のショーやってるかな」
俺の隣を歩く花音は、今日も可愛いワンピースを着こなしている。俺ももっとつり合うようにお洒落するべきだったんだろうか。若干後悔しつつ、一緒にバス停まで向かった。
たまの休みに二人きり。手を繋いで、彼女の望む場所を巡る。まるでデートみたいだな…なんて浮かれていたのも、ほんの一時だけだった。
「二人っきりでズルイわ!私達の花音ちゃんなのに!」
「うっわ、超ニヤけてんだけど!マジムカつく~~!!」
「もう、声が大きいわよ。静かにしなさい」
…ここは、夢であってほしかった。俺達の背後には浦島先輩と乙姫先輩、そして渋谷がいた。途中でやけに殺気を感じると思ったら…乗り込んで邪魔しに来ないのは、乙姫先輩のお蔭だろう。ごめんね、と言わんばかりに手を合わせているが、そう思うなら是非ともその二人を連れて帰ってほしい。
「見て見て!すごく綺麗だよ!」
「ああ。そうだな」
「そこは『花音の方が綺麗だろ』っていうところでしょ!」
「筧くんはシャイだから仕方ないわよ」
「違いますよぉ先輩~アイツはただのヘタレですって」
とにかく、渋谷は後で覚えてろよ。ごちゃごちゃ五月蝿い上に、俺の味方なのかどうかハッキリしろ。後ろから会話が聞こえるたび、イライラしてどうにも落ち着かない。
「あのピンクのお魚可愛いね」
「ああ」
「あれは何かなー大きいね。食べられちゃいそう」
「そうだな」
「…聞いてる?」
「ああ。美味いんじゃないか」
徐々に返答も雑になっていき、折角の時間も楽しめなくなってきた。また俺に大してどうこう話す声にうんざりして重い溜息を付くと、花音の顔は一気に曇っていった。
「帰ろう、か?」
「え?」
「ごめんね。疲れてるのに、無理に誘ったりしたから…」
「ち、違う!そうじゃねぇよ!」
外野のせいで疲れてるんだ。お前にそんな顔をさせたかった訳じゃない。誘われて嬉しかったんだ。それこそ、なかなか眠れない程に。花音のほうから誘ってくれるなんて、滅多にないことなんだから。
それをどう説明しようかと悩んでいると、花音はポツポツと話を続けた。
「水族館は落ち着いて好き、っていってたでしょ?」
「ああ」
「新主将になって負担も増えただろうから、少しでも疲れが取れたらいいなって思ったんだけど…」
迷惑だったかな?と、更に切なそうに笑った。コイツはいつもそうだ。ただ楽しみたいなら、後ろの女子勢と来ればいい。俺を選んでくれたのは、俺に喜んで欲しいから。そういう心遣いが嬉しくて、温かくて、花音を好きになって良かったと思う。
先程から溜まっていたストレスが一気に消え去り、お礼と謝罪の意を込めて彼女の頭をそっと撫でた。
「それだけは絶対ねぇよ。ありがとな。別件でイライラしてただけなんだ。花音のせいじゃない」
「いいの?無理してない?」
「してない。もうすぐショー始まるだろ。見に行こう」
「…うん!」
今度は嬉しそうに笑ってくれたのを見て、つられて微笑んだ。折角俺のために計画してくれたんだから、思う存分楽しまなきゃ失礼だよな。もう周りなんて気にする必要はない。手を繋ぎ直し、俺は花音との時間だけを考えることにした。
*****
ええと、こんにちは。巨深高校のチアリーダーをしている乙姫です。現在、花音ちゃんと筧くんのデートを尾行中。というより、ウチの浦島が妨害しそうなのを私が止めている…といったほうが正しいかしら。途中で出会った渋谷さんも一緒だけど。
「花音ちゃんったら、筧くんにお弁当作ってきてるわ!」
「うーん…驚いていない辺り、初めてって訳じゃないようね」
「…乙姫先輩、観察眼パない」
少し照れつつも、筧くんは花音ちゃんへ笑顔を見せている。私はチアリーダーなだけあって、アメフト部と関わる機会も多かった。特に彼は体格も良くて目立つ方だったから、印象には残りやすかった。『強面でちょっと無愛想な子』…しばらくそのイメージが変わることはなかったんだけど…
そんな彼が花音ちゃんと出会ってから、初めて年相応の笑顔を見せた。あの時は本当に驚いたわ。恋というものが、ここまで人を変えるなんて思わなかった。
「じゃーん!クッキーも作ってきました!」
「わざわざ似顔絵のクッキー作ったのか。凝ってるな」
「私の顔のもあるよ!えっとね…あ、これ!」
「…食えねぇ」
「ああああダメよ!あんなことされたら、クッキーごと花音ちゃんを食べてしまうわ…!」
「筧に限ってそれはないと思うけど、やったらマジ手加減なしでプロレス技喰らわせてください」
「二人とも落ち着きなさい。騒がしいと花音ちゃんにもバレるわ」
お弁当とお菓子を食べ終えた二人は、再び水族館を巡り始めた。実は、私が相談されて提案したのよね。筧くんを癒してあげたいって言われたから、彼の好きな場所を巡ったらどう?って。もちろん、花音ちゃんが一緒に…ね。彼にとって、それが何より癒されるだろうから。
「小判鮫先輩がいたよー!」
「魚のほうのコバンザメな」
「私は、あの子が先輩に似てると思う!」
「それなら、こっちだろ。コイツの方が小さい」
「…本人には言わないようにしてね」
筧くんは以前より穏やかな表情をすることが多くなって、女子からの人気も増えてきた。でも、彼をあんな風にさせるのは彼女だけ。アメフトと花音ちゃんのことしか考えてない、といっても過言じゃないわ。だから、どの子も嫉妬心で花音ちゃんに危害を加えることはしない。好きな人を苦しめることになるから。
…最も、筧くんよりバックに浦島が控えているほうが怖いのかもしれないけど。
「ほら、紅茶」
「ありがとう。あれ?駿くんのは?」
「俺はいいよ」
「じゃあ、半分こしよっか」
「そんな砂糖の味しかしない液体はいらん」
「シュガー3本で我慢するからー!」
「どう見ても多いだろバカ!」
「バカバカ言うほうがバ筧なんですー!」
「てっめ、やっと英語が平均いったからって…!」
「浦島先輩。ドロップキックも追加で」
「わかったわ。メモしないと覚えきれないわね」
「もう、そろそろやめなさいね」
掛け合いが可愛くて私は微笑ましいけど、この二人は淡々と嫉妬と殺気のオーラを送り続けている。あの子達が幸せなら、それでいいんじゃないかしら。可愛い後輩が楽しそうで私も嬉しいし。何度目かの制止の声を上げると、浦島がゆっくりと溜息を付いた。
「はぁ~私も大平くんとあんなふうにデートしたいわ…」
「確かに彼氏は欲しいかも~」
「ふふ、理想のデートよね」
特に花音ちゃんと筧くんはお互いを大事に想っているから、もっと相手に喜んでもらいたいって一生懸命で素敵だわ。付き合っていないのがおかしいくらい。
でも、あの子はあまり恋愛に乗り気じゃないというか…寂しそうに話を逸らすのよね。何か理由があるのかしら。そうぼんやり考えているとBGMが鳴り止み、館内放送が流れ始めた。
『水族館よりお知らせです。ペンギンの赤ちゃん、お名前募集の結果が出ました!投稿者は東京都にお住まいのARIELさん!名前はシュンくんに決定でーす!』
「…シュン?」
「え、あ、そのっ!」
『あの顔付きとグルグルした目がお友達にそっくり!というお茶目な理由が館長の目に止まったようです!おめでとうございます!」
「花音、ちょっと話が「ごごごごめんなさーい!」
「おい待て!!逃げんな!!」
「大変!追うわよ!」
「も~ダルイなー…別にいつものことですってぇ」
あんなに怒らなくても良いのに、短気なのは相変わらずのようね。海の方まで逃げていく花音ちゃん達を追うと、ギリギリで続きの放送が聞こえた。
『そのお友達は、背が高くて頼り甲斐がある男の子だそうです。その子のように逞しく優しいペンギンに成長してほしいという願いを込めて…と。素敵な理由ですね!ウチのシュンくんも、よろしくお願いします!』
「ふふ、最後まで聞けば怒られなかったかしら」
ああでも、照れ隠しで怒鳴るかもしれないわ。結果は変わらないか。あとで景品の水族館のペア券を届けてあげようと思いながら、私も彼女達を追った。
「かーけーいーくーん!そろそろ私が貴方を沈めることになるわよ…!」
「どうして浦島先輩がここに!?ダメですよ!駿くんをイジめないでください!」
「イジめるどころか殺人予告されてんじゃねぇか!」
「てゆーか、筧の口癖じゃん?」
「あの人の場合は笑えねぇんだよ!!」
最終的に筧くんがどうなったかは、ご想像にお任せします。もちろん生きてるから大丈夫よ。彼でこれなら、噂に聞いた金剛阿含くんが絡んだらどうなっちゃうのかしら。浦島は暴走したら止まらないから困るわ…
「乙姫先輩、アドバイスありがとうございました。うーん…多分、喜んでもらえたと思います」
「そんなに自信なくさなくても、大成功だったじゃない」
「そう見えましたか?」
「ええ。まるでデートみたいで「ダメですよ!駿くんにはアメフトという可愛い彼女さんがいますから、浮気になっちゃいます!」
うーん…天然気味だとは知っていたけど、何処まで本気なのかしら。筧くんに限らず、思いを寄せる男子は前途多難のようね。苦笑しつつ話を聞いていると、花音ちゃんはバックから小さな袋を取り出した。
「あと、お礼のクッキーです。良かったら召し上がってください」
「気を遣わせちゃってごめんね。ありがとう」
「いえ。駿くんと乙姫先輩にあげるために作りましたから。それと、」
「うん?」
「尾行なんてしても、意味ないですよ。私達はいつも通りですから」
そういって、チャイムが聞こえたのと同時にエレベーターのほうへ走り去っていった。あれだけ騒いでたら普通はバレるけど…一枚上手だったあたり、本当に読めない子だわ。
ちなみに貰ったクッキーは、水町くんの似顔絵クッキー。好意は嬉しいけど、出来れば恋する男女の気持ちになって作ってほしいかな。先にアメフトボール型のクッキーを頂きつつ、引き続きあの子達の恋の行方を見守ることにした。
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あとがき→
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