遠い日の思い出
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺の姿を見つけると、毎回花を咲かせたように笑う幼馴染。今日も無邪気に、名前を呼びながら駆け寄ってきた。
「くりふぉーど!くりふぉーど!」
「It will become hollow if it runs(走るとこけるぞ)」
「きゃあっ!」
またこけた。忠告した矢先に何してるんだ…と思ったが、こっちは英語だった。このバカは、日本語しか理解出来ないからな。呆れつつ近づくと、ぎゅっと唇を噛んで痛みを耐えていた。血は出ていないものの、擦った跡がある。自分のハンカチで巻いてやったら、ようやくいつもの笑顔を見せた。
「ありがとう!あのね、ぶらんこにのりたいの!」
「…OK。いくぞ」
「はーい!」
元気よく返事をするのはいいが、足取りがおぼつかない。仕方なく公園に着いてから、傷口を洗って巻き直した。どうして俺が、コイツの世話しなきゃなんねぇんだ。親じゃねぇんだぞ。
学習しないバカは、更にちょこまか歩き回りながら、嬉しそうに公園の一角を指差した。
「みて!おはな、いっぱいあるよ!」
「はなくらい、どこにでもある」
「ママがね、これでふわわーあれじめーとつくってたの!」
「…flower arrangement?」
「うん!ふわわーあれじめーと!」
バカな子ほど可愛い、と日本人はいうらしい。バカはバカだろと思っていたが、ようやく意味がわかった気がした。まだ5歳で日本語も疎かな上、舌足らずだからな。幼少期の2歳差はかなり大きい。
ぼんやりしている間に、彼女は花を摘み始めていた。それで何か作ろうとしているが、完成までは程遠い。今日何度目かの溜息をつきながら、見本として一つ作ることにした。
「ほら」
「わぁ、おはなのかんむり!じょうずー!」
「おまえがへたくそなんだ」
「そんなことないもん。えへへ、おひめさまみたいだね」
こんな土と草だらけのガキが、無性に可愛く見えるのは何故だ。花の冠なんかでこんなに喜びやがって。それにしても、姫…か。大人になれば、母親に似て綺麗になるだろうな。
想像出来そうで出来ない未来を思いつつ、新しく作ったものを指にはめてやった。左手の薬指。そこにこだわる理由は、ただ一つだ。
「ゆびわだー!」
「ははおやも、つけてるだろ」
「うん!おなじゆびについてるよ!」
「おれが、おとなになったらかってやる」
「んー…いらない」
「は?」
おい、ふざけるな。俺の人生プランは完璧なんだぞ。一般社員の給料何年分かってくらいの、お前に似合う指輪を買ってやる予定だっていうのに。何が不満なんだ。普通は嬉しいと喜ぶところだろ。それでも目の前の少女は、雑草で作った指輪を見つめながら微笑んでいた。
「これでいいよ」
「そんなはなより、ずっときれいなゆびわにしてやる」
「これがいいっていってるのに!くりふぉーどのばーか!」
…バカ?このクリフォード・D・ルイスをバカ、だと?カチンと来て、ブロンドの髪をわしゃわしゃ掻き回してやった。ふわりと柔らかくて触り心地がいいから、余計に腹が立つ。
「Because you are this(これだからお前はっ)!」
「あ、あうっ!リボンとらないでー!ばかばかばかぁ!」
「Does it still say(まだ言うか)!」
「えーご、わかんないよー!」
エリート学校に通う俺は普段、こんなガキみたいなことはしない。クールで押し通しているのに、毎回こうして子守りを押し付けられている。いずれ貰うつもりだからと我慢しているが、いい加減なんとかならないのか。学校へ通い出せば、多少は融通が利くようになるだろうか。…その前にコイツに、理解力というものがあるのか?
「いいか。おれがおうじで、おまえがひめだ」
「くりふぉーどが、おうじさま…?」
「いやそうにするな」
「だって、おうじさまとおひめさまはけっこんするでしょ?」
「ああ。そうだな」
「わたし、けっこんしたくない。ずっとパパとママといっしょにいたいもん」
その願いの重さを、当時は見抜けなかった。ただ単に親に甘えたいだけ。子供のワガママだと割り切り、ずっと思いを押し付けていた。それを拒否して意地悪だのバカだの、この俺に言えるのはコイツくらいだ。
「いうこときかねぇと、いっしょにあそばねぇぞ」
「やあー!くりふぉーどとあそびたい!」
「ふん。かわいいやつめ」
「でもけっこんもやだ!」
「それがいちばんじゅうようなんだ!」
そんな風に、春夏秋冬…色んな季節を巡った。たった1年程だったが、彼女と過ごした時間は今でも鮮明に覚えている。どんな思いで、どう過ごしたか。
その思いが抑えきれない時は、たまにこうして…
「―…というわけだ。俺の姫御前の可愛さがわかったか」
「うん。とりあえず、クリフォードが全く変わってないことだけわかっタ」
「特にふわわーあれじめーとは最強だと思うだろ。トランプのKレベルに入るぞ」
「そう、ダ…ね」
「トップは俺の上着のファーに顔を埋めながら、もふもふいってたことだな。あの破壊力といったら…」
「ドンーもうムリ。助けテー」
「どうした。クリフォードにもいい女がいるとわかって、良かったじゃないか」
「いや、5~6歳の女の子の話ばっかりだと、ただの危ない人だヨ…」
「っ、くしゅん!」
「おい大丈夫か。風邪か?熱は?」
「ううん、違うと思う。たまになるんだけど、誰か噂してるのかも」
「…心当りがありすぎてわかんねぇけど、一応温かくしてろ。ほら」
「ありがと。なんか私、子供の時から世話焼かれてばっかりな気がする」
「花音は危なっかしいからな。甲斐谷が兄貴面すんのもわかる。そういや、さっき怪我した時の絆創膏変えたほうがいいよな」
「別にこのままで…あ、いっちゃった。もしかして、あの頃から保護される運命だったのかな…」
*****
あとがき→
1/2ページ