星に願いを
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「ヒル魔さん」
「………」
「ヒールー魔ーさーんー!!」
「うるせぇぞ糞姫!!黙って攫われろ!!」
「攫われて黙ってられますかーー!!」
今日もりっくんが教習中だったから、部屋で一人黙々と勉強していたところ…突然の来訪者に攫われました。もちろん、前に駿くんに言われたとおり警戒はした。でも、あっさりドアのチェーンを切られてこのザマだ。今度から、絶対居留守使ってやるんだからー!!
「明日英語のテストなのに!あああ次こそ8割取らないと駿くんに怒られる…っ」
「相変わらず、糞つり目には頭上がらねぇみてぇだな。脅迫ネタ追加、と」
「この悪魔ー!まだわからないじゃないですか!」
「俺の妨害で~とでもいい訳すりゃ、話は通るだろうがな」
「そんなのいい訳になりません。取れなかった場合、単に私の努力不足。ヒル魔さんは関係ないです」
「…っとに、変わった女だな」
ちなみに、ぐるぐる巻きで拉致されているため、何処に向かっているかもわからない。不安が増すたびに、覚えたはずの英単語がどんどん抜けていく。努力不足といいつつ、やっぱりこの悪魔のせいかもしれない。阿含さんよりマシだと思ったけど、大差はなかった。
「ここでいいか」
「え…まさか、この怪しいバーに入るんですか?」
「ダーツも出来るが、場所が取れりゃなんでもいい」
そのままコンビニにでも入るようなノリで、お酒を扱うお店に入ってしまった。ヒル魔さんは高二だったよね。私と一つ違いのはずだよね。その彼を歓迎する店員さんもどうかと思うけど…理由はわかってるから触れません。何処まで融通が利くんだろう。怖すぎる。
そんな悪の親玉のような彼が持っているものを見て、更にイヤな予感しかしなかった。
「手始めに、ポーカーからいくか」
「私が嫌いだと知っていて、誘ってるんですか?」
「その前にテメーに拒否権はねぇ」
何を言っても無駄らしい。呆れつつも、店員さんが配ってくれたカードを広げた。嫌がらせとしか思えないけど、ちょっと満足すれば大人しく帰してくれるだろう。
…なんて、甘く考えていたのが間違いだった。私の連勝は止まらないのに、何度も何度も勝負を挑んでくる。
「フルハウス」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「チッ…これで20連敗か。簡単に奇跡を起こしやがるな」
「それはどうも。もう帰って「次はブラックジャックでもやるか」
「負けるってわかってるのに、まだやるんですか」
「黙ってカード取れ」
この人はよくわからない。オンラインゲームの時もそうだ。何百回挑戦したって、結果は変わらない。私が圧勝して終わり。普通の人は、5回もやればすぐに無理だと諦める。でも、彼は諦めない。全てを知っても、態度が変わることはない。寧ろズカズカ入りこんでくる。
「私達、特に仲が良い訳でもないですよね」
「ああ」
「どうして構ってくるんですか」
「面白ぇから」
まさか、アメフトをやってる理由と同じなんて。ますます意味がわからない。ただ変化のない手札を出すだけ。私としては単調過ぎてつまらないくらいなのに、何が楽しいんだろう。流石にこの結果を疑問に思ったのか、店員さんがじっと私を見つめてきた。
「失礼ですが、お客様はどんなタネを「コイツのことは他言無用にしろよ糞店員」
「かかか畏まりました!!申し訳ありません!!」
「あの、銃で脅すのはやめてください」
「ノンアルコールかジュース適当に持ってこい」
「はいいい!!」
良かった。なんだかんだいってスポーツ選手だからか、お酒は飲まないみたいだ。届いたオレンジジュースに手を付けると、ヒル魔さんも何か飲んでいた。あの赤いのはなんだろう。血を飲んでるみたいで怖い。何かのカクテルなのかな。
一息ついてから、新しいカードを受け取った。彼も新品のガムを開けながら、フーセン状に膨らませていた。まだ続ける気のようだ。
「本当に、面白いんですか?おかしくないですか?」
「こんだけ勝ってつまんねぇ、って顔してるほうもおかしいだろ」
「…どう楽しめっていうんですか。一緒に遊んでも、必ず勝ってしまう。結果が分かっているゲームほど、つまらないものはないでしょう」
いいながら、ブラックジャックになるようカードを差し出した。たった一つの欲しくもなかった才能のせいで、人生が縛られている。もしかしたら、今のように普通に生活出来たかもしれないのに。最もこういうカードゲームは避けているけど、生きにくいことに変わりはない。悲しみを表に出さないように耐えていると、ヒル魔さんはまた独特の笑みを見せた。
「ケケケ…勝敗なんざ最後までわからねぇよ」
「でも「俺が勝ってやる」
「………」
「テメーの泣きっ面拝ませてもらうぜ。首洗って待ってろ」
さっきから不思議な気持ちになっていた理由が、ようやくわかった。今まで一緒に遊んでくれる人なんていなかった。負けているにも関わらず、不敵に笑って付き合ってくれるヒル魔さんが、とても優しくて。嫌いなのに、本当はやりたくないのに…少しずつ遊ぶのが楽しくなっていた。
一通り遊んだらようやく満足したのか、次第にはお腹を抱えて爆笑していたけど。
「ケーケケケケッ!50連敗か!面白ぇ!ぜってぇ泣かす!」
「はいはい。泣きませんよ」
「おい、花音」
「なんです…か。あれ?今、名前で…」
「テメーを味方にしたのは、その強運に賭けるためでもある。ごちゃごちゃ言わずに着いてこい」
「嫌です。私は、あの高身長並みに大きな夢を持った人達を応援してるんですから」
「どいつもこいつも、壮大でバカな夢には変わりはねぇだろうが」
「ふふ、そうかもしれませんね」
クリスマスボウルという大きな夢は、そう簡単に叶うものじゃない。強豪校を倒して一番になった、東の王者と西の王者。どちらかが勝者として称えられる。無謀な夢だってなんだって、その一チームになりたくて、みんな諦めずに戦ってるんだ。
大切な人を思い出しながらふと視線を上げると、お店の時計が目が入った。短針が10と11の間ってことは…
「きゃー!!もうこんな時間!!りっくんに怒られるー!!」
「そういや、糞シスコンに連絡させんの忘れてたな」
「りっくんのことそんな風に呼んでたんですか!?じゃなくて、また着信履歴が…っ」
駿くんからもこんなに来てるってことは、りっくんがそっちにいないか聞いたからなんだろう。もう、どうしてくれるんですか。英語のテストどころじゃないですよ。確かに攫われたことに変わりはないけど、連絡出来る状態で助けを呼ばなかった私も私だ。青ざめながらどうしようかと悩んでいると、他のお客さんが入って来た。
「…本当にいたよ。こんばんは、お姫様」
「キッドさん!?」
「おう。今呼び出した。キッドと遊んでた、っつーことで話付けとけ」
「いや、なんで俺に全部罪を擦り付けてんの。勝手に連れ去られると困るよ」
「パパー!キッドパパー!」
「よしよし、怖かったねぇ。何もされてないかな」
「…コイツら何の違和感ねぇな」
迎えに来てくれたお父さんの如く、キッドさんに飛び付いた。思ったよりヒル魔さんといるのは怖くなかったけど、拉致した悪魔か保護者のようなお兄さんかといえば、後者がいいに決まってる。でも、キッドさんもこのバーにいても、全く違和感がない。ダーツも得意そうだなぁ…なんて思っている間に、大人組は淡々と話を進めていた。
「天才・武者小路紫苑様は誕生日にいい思いしたんだよなァ。それくらいのツケ持っていきやがれ」
「既に把握済み、か。ヒル魔氏の情報網はホント怖いよ」
「何より糞シスコンも糞つり目も、親父のいうことなら納得するだろ」
「君まで俺を親扱いしないでよ。それに、こっちも試合前で忙しいんだからさ」
「あっ、そうですよね!ごめんなさい!ご迷惑お掛けしました!」
「花音ちゃんは悪くないからね。ただ、俺が連日連れ回したことにされると、ちょっと厄介かな」
「えーと…私がキッドさんの家に、忘れ物したってことにしましょう!」
「…それはそれで、家に上げたくだりで大問題なんだよ」
このままだと「泥門と関わるな!」とか「神龍寺戦は観るな!」って言われるのは目に見えてるから、口実を合わせることにした。ヒル魔さんのせいなのに、どうしてこっちがとばっちりを受けてるのか謎だけど。いい訳が一致したところで、荷物をまとめてキッドさんと帰ることになった。
「ヒル魔さん」
「あ?」
「ありがとうございました。また、遊んでくださいね」
へらっと笑いつつ手を振ると、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてガムのフーセンを割った。あれ?珍しい。ヒル魔さんも失敗するんだな。その様子を傍観していたキッドさんは、苦笑しながらテンガロンハットを直していた。
「嫌な予感はしてたけど、ヒル魔氏もねぇ…はぁ~ロクなことないな」
「大丈夫ですか?ちなみに、ここは何処なんですか?」
「俺の家の近くだよ。元々俺に罪を被せる気だったんだろうね」
「それは酷いですけど、思ったより優しい人でしたよ」
「…だから、花音ちゃんにだけだってば」
そんな自分勝手な誘拐者でも、努力家で立派なアメフト選手。応援するのを忘れていたから、試合開始前に直接言おう。
…最初のくだりを無くせば、正直楽しかった。ただ『連絡もせずキッドさんに勉強教えてもらいに行ってました』なんていい訳が通じるかな。どう考えても怒られるよね。わかりやすく落ち込んでいると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「お疲れ様。気休め程度だけど、上を見てごらん」
「わー!星が綺麗…!」
「これが見れただけでも、良かったと思うべきかな。願い事でもしてみる?なんか叶えてくれそうじゃない」
「では、目先の泥門と西部の勝利をお願いします!」
特に泥門が神龍寺に敵うよう…奇跡が訪れるように、一番大きな星に願いを込めた。敵討ちとは違うけど、敵わなかった私達の分まで勝利を掴んで欲しい。
“悪魔が神に敵いますように”なんて、我ながらおかしな願いで笑ってしまったけど。なんとなく勝利した泥門の中心で、ヒル魔さんが笑っている姿が頭に浮かんで、それが数日後に現実になるような気がした。
「…また、っていうくらいなら、いつでも連れ去ってもいい訳か。ケケケ」
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あとがき→
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